おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

黒い十人の女

2021-01-24 09:15:45 | 映画
「黒い十人の女」 1961年 日本


監督 市川崑
出演 船越英二 岸恵子 山本富士子
   宮城まり子 中村玉緒 岸田今日子
   宇野良子 村井千恵子 有明マスミ
   紺野ユカ 倉田マユミ 森山加代子
   永井智雄 大辻伺郎 伊丹一三
   ハナ肇とクレージーキャッツ

ストーリー
現代の煩雑な社会の一分子テレピプロデューサー風松吉(船越英二)。
メカニズムに押し流されている彼には近づく女も多く、関係した女は十指に余る。
妻の双葉(山本富士子)はそんな夫をあきらめて淋しい毎日をレストラン経営にまぎらわしていた。
責任のない関係のつもりだったが、女の方では奇妙に風を忘れられない。
行きづまりを感じている女優石ノ下市子(岸恵子)もそんな一人だった。
女たちは風のことが気になるあまり、二言目には「風がポックリ死ねばよい」「風を誰か殺してくれないかしら」と言うのだった。
女たちのそんな話を耳にした風本人は、十人の女が自分を謀殺しようとしていると思い込む。
根は気の弱い男の風は、どうして自分が殺されようとしているのか訳がわからない。
思い悩んだ彼の相談相手は、妻の双葉だった。
或る雨の夜、双葉のレストランに集まった十人の女たち。
彼女らの目の前で双葉の拳銃が火を吹き、ばったり倒れた風松吉。驚く女たち。
果して真実の殺人か狂言か?しかし風は生きていた。冷静な双葉の芝居であった。
だがこの一幕は女達にさまざまな反応を起した。
気の弱い未亡人の 三輪子(宮城まり子)は風を追って自殺し、新しい結婚に踏み切る女もいた。
そして双葉は風と離婚し、それを風は市子の家で知った。
市子は風を双葉からゆずり受けた形になって同棲していたのだ。
そして市子も、マスコミに追いまわされる自分を嫌って女優を止すと言う。
市子の女優サヨナラー・パーティは盛大に行われ、楽しく談笑する双葉と市子。
パーティが終ると、市子は沢山の花束をかかえ冷い表情で自動車を夜の闇に走らせるのだった。


寸評
男冥利に尽きるような話で、風というテレビのプロデューサーは妻がいながら9人の女性と関係を持っている。
しかもそのことを妻は黙認していて、関係した女性たちも痴話げんかを始めるような所がない。
本心では風を独占したいのだろうが、それぞれを認め合っているような所がある。
風の優しさが女性を引き付けているようなのだが、誰にでも優しいということは誰かに優しいということではない。
つまり特定の女性がいるわけではないのだが、頼りになるのは結局は妻ということになる。
この妻を演じる山本富士子と、一番古くからの愛人であるという岸恵子の二人が際立っている作品だ。

山本富士子は美人女優の誉れが高かった女優さんだが、ここでもその美貌と貫録でもって堂々とした妻を演じている。
彼女はレストランを経営していて生活力があり夫の収入に頼っていない。
夫婦のすれ違いも多いらしいが、夫と顔なじみのお客から「ご主人にもよろしく」と言われ、「お客様の方が主人とよく顔を合わせていらっしゃると思いますので、お会いになった時には私がよろしく言っていたと申し上げて下さい」などと言って笑っているような女傑である。
岸恵子はその顔立ちもあって、知性のある凛とした女性役がよく似合う。
本作でも劇団女優でありながらも自分の進路を見極めている愛人を溌溂と演じている。
二人が風の殺害を語り合う場面はなかなか見応えがある。
山本富士子の和装に対比するように、洋服姿の岸恵子が絡むシーンである。
名女優二人の共演を見るだけでも本作の価値があるというものだ。

風は他の女と親しくしていると焼きもちを焼かれる存在なのだが、女たちが取っ組み合いの喧嘩をやらかすようなことを起こされていない。
それが風の優しさからくるものだとなっているが、そうだとすれば屋上で森山加代子の新人女優百瀬桃子をいきなり抱きしめるというのはどうなのだろう。
それだと風は単なる女たらしということになってしまうのではないか。
風はあくまでも親切にしてやることで女が自ら近寄ってくるという存在である必要が有ったのではないか。
その代表が宮城まり子の三輪子である。
彼女は未亡人だが風によって会社を助けてもらい、そのことを通じて風と関係を持ったようなのだが、結局風に殉死(?)してしまうという女性である。
会社もあり、息子もいるのに、その選択をする思いはどこにあったのだろう。
本当に風を愛していたのは三輪子だったのかもしれない。
対照的なのが中村玉緒の四村塩で、彼女は風がいなくなるとすぐに結婚相手を見つけるような女性で、以後皆とは縁切り状態とし一切関知しないとタンカを切るドライナ女性である。
彼女たちの間に入ると後藤五夜子の岸田今日子もかすんでしまっている。
話も面白いが、何よりも女優陣の共演が一番の見どころとなっている。
さすがに10人も登場すると個々人の個性を描き分けるには時間が足りなかったような感じではある。
それにしても女は強い、女は怖い。