おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

グーグーだって猫である

2021-01-11 08:31:50 | 映画
2019年4月23日が「く」の第1弾でした。
本日より追加掲載です。

「グーグーだって猫である」 2008 日本


監督 犬童一心
出演 小泉今日子 上野樹里 加瀬亮 大島美幸
   村上知子 黒沢かずこ 林直次郎 伊阪達也
   高部あい 柳英里紗 田中哲司 村上大樹
   でんでん 山本浩司 楳図かずお 高梨
   小林亜星 松原智恵子

ストーリー
吉祥寺に住む天才漫画家の小島麻子(小泉今日子)。
締め切りに追われ、徹夜で漫画を描き上げた翌朝、長年連れ添った愛猫のサバが亡くなる。
サバを失った悲しみは大きく、麻子は漫画を描けなくなってしまう。
ある日、麻子はペットショップで一匹の小さなアメリカンショートヘアーと出会う。
彼女はその猫を連れ帰りグーグーと名づけ、これをきっかけに状況が好転。
グーグーはアシスタントのナオミ(上野樹里)達にも可愛がられ、麻子に元気な表情が戻ってくる。
そんなある日、避妊手術に連れて行く途中でグーグーが逃げ出してしまう。
必死で探す麻子の前にグーグーを連れて現れたのは沢村青自(加瀬亮)。
彼の姿に思わず見とれてしまった麻子は、今まで忘れていた気持ちを蘇らせる。
後日、ナオミの彼氏マモル(林直次郎)のライブにアシスタント達と出かけた麻子は、そこで青自と再会。
ライブ後の打ち上げで、気を利かせたナオミは麻子と青自を二人きりにする。
これをきっかけに青自は麻子の家を訪れるようになる。
幸せな日々が続く中、新作のアイデアを思いつき、麻子は半年振りにペンを取る。
生き生きとした表情で語る彼女の姿に、ナオミも喜びの表情を隠せなかった。
グーグーが来てからすべてが順調に回りだしていたが、ある時新作の取材中に麻子が突然倒れる。
病院に運ばれ事なきを得るが、数日後、麻子はナオミの家を訪れグーグーを預かってほしいと頼む。
二つ返事でOKするナオミに、麻子は衝撃の告白をする。
彼女は卵巣ガンを患っていたのだった……。


寸評
僕のような大阪の田舎者にとっては吉祥寺と聞くだけでイメージが膨らんでしまい、井の頭公園のあるとてもおしゃれな街を想像してしまう。
学生が集う若者の町というイメージもある。
麻子先生はその街に暮している漫画家だが、ナオミ、加奈子、咲江、美智子という若いアシスタントが先生を慕う取り巻きとして青春を謳歌している。
麻子先生のゆったりとした話し方と対応するようにアシスタントたちは賑やかだ。
タイトルだけ聞くと、全編に猫ちゃんのカワイさがあふれた猫が主人公のような映画に思えるが、もっと色々な要素が詰まった映画となっている。
麻子先生と子猫との関係を軸にしつつも、彼女の繊細な心理を写し取り、アシスタントの女の子などの人間模様も描いている。
さらには吉祥寺の魅力を紹介しながら、物語の背景としての吉祥寺を存分に描いて、まるで街の紹介ビデオの様でもあり、首都圏以外の者にとっては訪ねてみたくなる雰囲気をだしていた。
そんな街をグーグーが闊歩して楽しませてくれる。
雌猫を追っかけ廻すシーンなどは思わず笑ってしまう。

麻子先生は異性に対して積極的になれない。
自ら壁を作っている風でもあり、母親が電話をかけてきた時の様子に噴き出してしまった。
かつては告白されたこともあるようだし、その時は好きだったはずなのに上手く伝えられなくて結ばれなかった。
いまも清自といい雰囲気になりながらも、思わず身を背けてしまうのだ。
そんな麻子先生なのでアシスタントたちはヤキモキする。
人を気にするだけでなく、当のナオミも彼氏と浮気相手の女の子を追いかけまわすコミカルな事もやらかす。
青春物語絶好調といったシーンなのだが、そこでこの作品の転機となる事件が起きる。

ここからは人生の大きな岐路に差しかかった麻子の微妙な心理が繊細に描きこまれていく。
麻子はグーグーの引き取り手としてナオミに白羽の矢を立てるが、ナオミも自分の人生における新しい一歩を踏み出そうとしていた。
ナオミは今できることをやるべきだと公園で絶叫するが、若者はいつか自分の力で進むべき道を見出さなくてはならないのだ。
最初飼っていた猫の名前は「サバ」と言い、フランス語で「元気?」という意味とのことである。
生と死の狭間に立つ主人公を暗示していたのかも知れない。
麻子先生は思わぬ形で「サバ」と再会し、穏やかで美しい対話を行う。
ペットに癒されていた麻子先生だが、ペットの猫も幸せだったことを知る。
自分一人だけ幸せなんてないのだ。
そして命を大切にして先立つ人を見送る幸せを悟る。
主人公を演じた小泉今日子に加え、アシスタント役の上野樹里、森三中の3人が好演していた。
もちろん動物映画なので猫ちゃんが可愛らしさを振りまいている。