おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

逆噴射家族

2021-01-01 07:11:38 | 映画
明けましておめでとうございます。
映画紹介も3年目を迎えました。
去年の終わりが「き」の途中でしたので
今年はその続きから始まります。

「逆噴射家族」 1984年 日本


監督 石井聰亙
出演 小林克也 倍賞美津子 植木等
   工藤夕貴 有薗芳記

ストーリー
今日は小林家の引越しの日で、新興住宅地にトラックがやって来た。
小心で生真面目、家族をこよなく愛する優しい父・小林勝国は、20年間のローンでようやく小さな庭付きの一戸建て住宅を手に入れたのだ。
母・冴子は、天真爛漫で底抜けに明るい女性だが、観葉植物を我が子のように可愛がるヘンな癖がある。
東大をめざして浪人中の息子・正樹は受験勉強がたたってか、いつも異様に眼をギラつかせ、明けても暮れても暗記に没頭している。
娘のエリカは、アイドルタレントを夢見て、常に演技のマネゴトに熱中している女の子。
郊外で健康的かつ明るい家庭を築きあげるのが勝国の夢であり、新居の前に家族と共に立った時、彼の胸は充足感でいっぱいだった。
翌日から、イソイソと健康器具等を買い込み、勝国は理想的な家族設計を実行に移して行く。
ある日、勝国の兄の家を追い出された祖父・寿国が舞い込んで来た。
頑健で愉快な寿国を最初は暖かくむかえる家族だったが、あまりの無遠慮かつ奔放な振る舞いに、次第に反感を覚えるようになる。
さらに、一人増えたことで狭い団地住いの悪夢が甦ってきた。
危惧した勝国は悩み抜いた末、この家に祖父の為の地下室を作る事を思いつき、スコップで、シャベルで、はたまた砕岩機まで買い込んで穴掘りに精を出し始めた。
穴掘りも中盤にさしかかった頃、せっかく手に入れた新居に白蟻が現れて・・・。


寸評
石井 岳龍(いしい がくりゅう)が石井 聰亙(いしい そうご)と名乗っていたころの作品で、石井としては一番よくできた作品ではないか。
1982年2月9日に日本航空機が羽田沖に墜落した事故があり、一般的に日航機逆噴射事故と呼ばれその事故原因が物議をかもした。
統合失調症の機長がエンジンの逆噴射を行ったことによるものだが、副操縦士が叫んだ「キャプテン、やめてください!」や「逆噴射」という言葉が当時流行し、この作品のタイトルもそれに起因したものとなっている。

全体の作りはコメディだが描かれている内容は多分にブラックなものである。
主人公の勝国(小林克也)は狭い団地から逃れて、念願のマイホームを東京郊外で手に入れる。
妻(倍賞美津子)や子供たち(有薗芳記、工藤夕貴)は大喜びである。
勝国は満員電車による過酷な通勤も我慢して幸せいっぱいだ。
当時のマイホーム事情を思い起こさせる環境が描かれる。
そこに兄と同居していた父親の寿国(植木等)が兄と気まずくなり転がり込んでくる。
これなども年老いた親との同居問題を先取りしている。
それなりのスペースがあった新居は寿国の入居で再び手狭になってしまう。
そのこともあって最初は歓迎していた子供たちに不満が湧いてくる。
コメディらしい描き方ではあるが、ここまではよくある展開なのだが、ここから一気に狂気の世界に突入する。
現実にはあり得ない、真新しい家の床をくりぬいて寿国のための地下室を作り始めるのである。
寿国は地下室づくりに没頭し始め、再びマイホームの完成に縛られていく。
マイホームを夢見るサラリーマンの縮図が再び展開される。
その様子はハチャメチャで、ドリルやコンベアなどが持ち込まれ、もはや改築の度を過ぎたものだ。
シロアリが巣くっていることがわかり寿国は半狂乱に陥る。
彼にしてみれば、やっと手に入れたマイホームがシロアリにやられると言う恐怖である。
日航機の機長も極度の被害妄想に陥っていたと聞く。
マイホームはどんどん破壊されていき、天真爛漫でノー天気な妻まで「みんなが勝手なことをするから家がこんなになってしまったじゃない!」と叫びだす。
家族の維持、家庭の維持はそれぞれの我慢で成り立っているのだと言っているようでもある。
こうなってくると誰が正常で、誰が異常なのか分からなくなっている。
それぞれが、自分は正常で他が異常なのだと思っているのだ。
たしかにこの小林家は少し変わった人の集合体なのだ。
勝国は皆に死んでもらって自分も死のうなどと思い始める始末だ。
それをきっかけに家族間で大バトルが発生し、正に家庭の中は家族による戦争状態となる。
一触即発の要素をはらんでいるのが家庭なのかもしれない。
家庭内戦争に疲れた一家は妻の「ご飯よ」の一言で元に戻るが、世界の紛争にはそんな妻がいない。
勝国の「一から家を作りなおす」の言葉で、家族は再びマイホーム建設を目指すことになる。
滅茶苦茶な映画だが、サラリーマンの悲しい物語でもある。