おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

黒い罠

2021-01-25 08:38:45 | 映画
「黒い罠」 1958年 アメリカ


監督 オーソン・ウェルズ
出演 オーソン・ウェルズ
   チャールトン・ヘストン
   ジャネット・リー
   ジョセフ・カレイア
   エイキム・タミロフ
   マレーネ・ディートリッヒ

ストーリー
新妻スーザンと新婚旅行へ出発のため、国境の町にやってきたメキシコ政府特別犯罪調査官マイク・ヴァルガスは、アメリカ領へ入った時、2人を追い抜いた豪華な乗用車が突如爆発したのを目撃した。
ヴァルガスは職業がら、妻をホテルに帰して、休暇中にもかかわらず調査をはじめた。
間もなくアメリカ側の警官がやってきた。
捜査担当のハンク・クィンラン警部は、足が不自由で、どう猛な性格の巨躯の持ち主で、自分の担当した事件でかならず犯人を挙げる男として知られていた。
爆発した車中の2死体は、若いストリップ・ガールと町の富豪リネカーのものと判明した。
クィンラン警部はヴァルガスの介入を嫌ったが、上司の命令で協力を余儀なくされた。
スーザンは現場からホテルに帰る途中見知らぬメキシコ人に情報提供をタネに誘われ、安ホテルでメキシコとアメリカをまたにかける暗黒街の顔役アンクル・ジョー・グランディから、麻薬密売容疑で捕われている彼の兄の調査から夫の手を引かせるよう脅迫された。
妻を別ホテルに移したヴァルガスは、クィンランと共にリネカーの娘マーシァと、若い夫サンチェスを尋問した。
しかしアパートの洗面所の靴箱からクィンランが爆発の時のものと同型のダイナマイト発見した時、ヴァルガスは先刻洗面所に入った時、箱は空だったことから疑問を生じさせる。
念のためクィンランの扱った事件の記録を調べた彼は、このアメリカ警察の英雄の数々の功績が、無実の罪を強引に作り上げる虚偽の工作から成立しているのを発見した。
弱味を探られたのを知ったクィンランは顔役グランディと図ってスーザンを誘拐した。


寸評
冒頭のスタッフ、キャストのクレジットが出る背景シーンは細工された車と交差するように歩くバルガス夫妻なのだが、それをカメラは移動しながらカットなしのいわゆる長回しで追い続けていく。
長回しは、クレジットタイトルが終わり、細工された車が爆破されるまで続くので、その時間は随分と長い。
始まってすぐの流れるようなカメラワークにうっとりしてしまうオープニングとなっている。
カメラブレを防ぐステディカムが存在していなかっただろうから、このカメラワークはスゴイと思う。
ローアングルからの広角レンズによるショット、カメラを斜めに構えた構図、夜のシーンが多いので暗い画面から生み出される緊迫感、どれをとっても素晴らしい。
惜しいのは詰めに至る所で解決を端折ったような所がある点だ。

事件の発生場所がメキシコとアメリカの国境あたりというのが物語を面白くしている。
チャールトン・ヘストンのヴァルガスはメキシコ政府の麻薬捜査官だが、アメリカ側の犯罪には手が出せない。
一方、オーソン・ウェルズのクィンラン警部はアメリカの警部で、犯罪組織のあるメキシコでの捜査には制約を受けているという、国境ならではの事情があるのだ。

爆死したのが町の有力者のリネカーで、犯人はリネカーの娘との結婚を反対されていたサンチェスとされた。
そこに至るまでのクィンラン警部の辣腕ぶりは体格もあってなかなか迫力と存在感がある。
しかしサンチェスが逮捕された時点で、どうも彼は犯人ではなさそうなことが感じとれる。
そうであるならば、なぜリネカーが殺されたのかを事前に描いておいた方が濡れ衣感がもっと出たように思う。
実際に、この時点で犯人のでっちあげがはっきりと描かれるのだから、ますますリネカー殺害の原因が置いてけぼりとなってしまっている。
あとはヴァルガスとクィンランの対決に興味が移っていくのだが、事件に絡んでくるメキシコとアメリカをまたにかける暗黒街の顔役グランディに大物感がないのもどうなのかなと思う。
グランディは本当のドンである兄が服役しているために代理を務めている男なので、この程度なのかもしれない。

このグランディの入れ知恵でスーザンを麻薬常習者に仕立て上げようとするのだが、この描写は大人しいもので物足りなさを感じる。
スーザンは睡眠薬を打たれ、滞在していたモーテルの部屋や衣類にはマリワナの匂いをしみ込ませ、吸い殻を捨てておくというものだが、さすがにスーザンに麻薬を打つことは物語的に無理だったのだろう。
誘拐された人物が麻薬患者に仕立て上げられる話は結構描かれてはいるのだが、ここでのスーザンは守られている。
会話を録音するという展開にも僕は違和感を持ち、違った形で不正が暴露された方が良かったような気がする。
マレーネ・ディートリッヒが酒場の女主人ターニャを演じていて、彼女はクインランと愛し合っていたこともあったようだが、本当に彼を愛していたのは部下のメンジスだったのだと語り、「アディオス」と去っていくラストはいい。
メンジスのクインランへの尊敬と信頼が裏切られる場面はもっと劇的でも良かったとは思うが、しかしフィルム・ノワールとしては存分に雰囲気を出していて、オーソン・ウェルズの画面を圧倒する存在感が際立っている作品で、彼の演技を見ているだけでも満足できる内容となっている。