おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

魚影の群れ

2021-01-04 10:34:57 | 映画
「魚影の群れ」 1983年 日本


監督 相米慎二
出演 緒形拳 夏目雅子 十朱幸代 佐藤浩市
   矢崎滋 三遊亭円楽 工藤栄一 寺田農
   レオナルド熊 石倉三郎 下川辰平 木之元亮

ストーリー
小浜房次郎は、娘トキ子が結婚したいという、町で喫茶店をやっている青年・依田俊一に会った。
彼は養子に来て漁師になっても良いと言う。
マグロ漁に命賭けで取り組んできた房次郎は、簡単に漁師になると言われて無性に腹だたしく感じた。
店をたたみ大間に引越してきた俊一は、毎朝、房次郎の持ち船(第三登喜丸)の前で待ち受け、マグロ漁を教えて欲しいと頼む。
十日以上も俊一を無視し続けた房次郎が、一緒に船に乗り込むのを許したのはエイスケの忠告に従ったからだった。
エイスケに指摘されたとおり、房次郎はトキ子が、家出した妻アヤのように自分を捨てて出て行くのではないかとおびえていたのだ。
数日間不漁の日が続き、連日の船酔い打ち勝ったある日、遂にマグロの群れにぶつかった。
餌がほうりこまれた瞬間、マグロが食いつき凄い勢いで引張られる釣糸が俊一の頭に巻きついた。
またたく間に血だらけになり俊一は助けを求めるが、房次郎はマグロとの死闘に夢中だ。
一時間後、マグロをようやく仕留めた房次郎の見たのは俊一の憎悪の目だった。
数ヵ月後に退院した俊一はトキ子と一緒に町を出ていった。
一年後、北海道の伊布港に上陸した房次郎は二十年振りにアヤに再会する。
壊しさと20年の歳月が二人のわだかまりを溶かすが、アヤを迎えに来たヒモの新一にからまれた房次郎は、徹底的に痛めつけ、とめに入ったアヤまで殴りつけた。
翌日伊布沖でマグロと格闘していた房次郎は、生まれて初めて釣糸を切られ、ショックを受ける。
大間港に、すっかりたくましくなった俊一がトキ子と帰って来た・・・。


寸評
相米慎二監督得意の長回し、それに応えた長沼六男のカメラがたまらなくいい。
全編ロケによる大間の風景、特に海のシーンが良くて船が写り込むショットは感激ものである。
俊一が房次郎の船に乗せてもらい、マグロに引っ張られたテグスに巻き付かれると大けがをするとの注意を受けていたが、テグスが頭に巻き付き命の危険にさらされてしまう。
房次郎はテグスを放して俊一を助けようとするのだが、その時かかったマグロが釣り糸を勢いよく引き始める。
とっさに房次郎の気持ちは俊一からマグロに向かってしまう。
ここから始まるマグロとの格闘シーンは素晴らしくて、房次郎の緒形拳は本物の漁師に見えてくる。
テグスを引き寄せるとマグロが姿を見せ始める。
モリをマグロの頭に打ち込むのを失敗しながらも何とか仕留めるのだが、カメラはこれを延々と撮り続ける。
年頭で大間のマグロがご祝儀相場の超高額で競り落とされるのをニュースで毎年見るのだが、あのマグロはこのようにして釣り上げられるのだと思うと感動的だ。
房次郎は別れた妻のアヤに言われたように、人間とマグロの価値が一緒になってしまう男である。
この時の房次郎は房次郎を捨ててマグロを選択しているのだ。

房次郎がマグロを追って北海道に行き、そこで別れた妻のアヤと20年ぶりで再会する。
アヤは5歳のトキ子を置いて出て行ったことになる。
アヤには男がいたが、二人はヨリを戻してしまう。
房次郎の凶暴性を指摘して去っていくアヤに、房次郎は港で待っていると伝えて漁に出る。
一度は去って行ったアヤだが、約束の場所に現れる。
ところが房次郎が釣りあげたマグロのテグスが切れてしまう。
テグスを切られたことで自信をなくしたのか漁を辞めてしまう房次郎だが、マグロと人間の区別がつかない房次郎を思うと、切れたテグスの先にかかっていたのはマグロではなく人間のアヤだったということを著していたと思う。
アヤを演じた十朱幸代の濡れ場シーンは男と女の関係が雰囲気で感じ取れて印象に残る。
方言が使用されているし、囁くような会話で何を言っているのかわからない所もあるのだが、そのことがむしろ効果的で、二人の感情がストレートに伝わってくる。
それは緒形拳と佐藤浩市、佐藤浩市と夏目雅子、夏目雅子と緒形拳の会話においても感じられ、漁師の世界に生きる者たちの愛憎劇が胸に突き刺さってくる演出となっている。
助けを求めてきた娘の夏目雅子が緒形拳の父親に出航の為の服を着せる場面などは、これが漁師の親子関係なのだと思わせるいいシーンだ。

鼻歌を口ずさみながら坂道を自転車で駆け下りてくる夏目雅子、房次郎を待って荷物のそばをウロウロしながら鼻歌を口ずさむ十朱幸代など、鼻歌を歌うシーンがなぜか印象的だ。
十朱幸代が房次郎から逃げる雨のシーンは雨待ちで撮ったと思われるがすごくいい。
ハッピーエンドではないが、俊一が大間の漁師になったことだけは確かで、房次郎を追い続けた俊一が房次郎に追いついたようで、男の意地を見せてもらったような気がした。
男っぽい夏目雅子を含めて骨太な男性映画だ。