おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

クリード チャンプを継ぐ男

2021-01-22 06:22:38 | 映画
「クリード チャンプを継ぐ男」 2015年 アメリカ


監督 ライアン・クーグラー
出演 シルヴェスター・スタローン
   マイケル・B・ジョーダン
   テッサ・トンプソン
   フィリシア・ラシャド
   アンソニー・ベリュー
   グレアム・マクタヴィッシュ

ストーリー
アドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)の父親は世界的に有名なボクシングのヘビー級チャンピオンだったアポロ・クリードだが、彼が生まれる前に死んでしまったため、父のことを何も知らない。
彼は、かつてロッキーと死闘を繰り広げた永遠のライバルにして無二の親友アポロ・クリードと愛人の間に出来た隠し子だったのだ。
それでも、明らかにアドニスにはボクシングの才能が受け継がれていた。
アポロの妻メアリー・アン・クリード(フィリシア・ラシャド)に引き取られ、立派に育てられたアドニスだったが、ボクシングへの情熱を断ち切ることができず、ついに会社も辞めてしまう。
しかしアドニスは地元のジムでは相手にされず、父がタフな無名のボクサー、ロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)と死闘を繰り広げた伝説の戦いの地フィラデルフィアへ向かう。
妻に先立たれ、レストラン「エイドリアンズ」を細々と経営し孤独に暮らすロッキー。
ある日、彼の前にアドニスが現われる。
アドニスはロッキーにトレーナーになってほしいとフィラデルフィアまで直談判にやって来たのだ。
すでにボクシングの世界から足を洗っていたロッキーは一度はこれを断るも、アドニスの情熱に突き動かされ、ついにトレーナーを引き受ける。
アドニスはアパートの下の部屋に住む進行性難聴を抱える歌手のビアンカ(テッサ・トンプソン)と親しくなった。
それでもさらに練習を積むためアパートを離れロッキーの家に移り住む。
若いボクサーを鍛え始めるロッキーを味方につけたアドニスは、タイトル戦への切符を手に入れるが……。


寸評
あの伝説的ボクシング映画「ロッキー」のスピンアウト作品であるが、「ロッキー」へのオマージュ作品、単なるレプリカではない骨太な作品となっていて、ロッキー・シリーズの魂がこもった映画である。
「ロッキー」の魅力は圧倒的迫力で描かれたボクシングのファイト・シーンにあったことは間違いないが、同時に不完全な人生を送る孤独な人間たちが寄り添って生きている姿にもあった。
トレーナーのミッキーしかり、エイドリアンの兄ポーリーもそうだし、何よりもロッキーとエイドリアンがそうだった。
彼等のもがき苦しむ姿は社会のどの世界にいても同じなのだと僕たちを勇気づけてくれた。
ロッキー・バルボアは歳を取ってしまって主人公は若いアドニスに代わっている。
しかし多くのロッキー・ファンがこの作品を「ロッキー」新章として受け入れた。
その理由はロッキーという主人公よりもロッキー・シリーズが持っていた作品の魂を受け継いでいるからだと思う。
ミッキーはいないがトレーナーとして年老いてつつましやかに生きているロッキーがいる。
ポーリーもいないがアドニスはポーリーが使っていた部屋に移り住む。
画面上にミッキーもポーリーもエイドリアンも登場しないが、彼等は僕と共に生きていたのだ。

アドニスは不良少年だったがアポロの未亡人に引き取られる。
愛人の子でありながらも夫であったアポロの血を引くアドニスを未亡人メアリーは愛情をもって育てたのだろう。
会社でも出世が約束されていたから高等教育も身に着けていたに違いない。
メアリーにはアポロの遺産があり、アドニスは金には困ることはない環境下にあったはずだ。
それでもアドニスは満たされた気持ちのない不完全な人生を送っている孤独な人間だ。
愛人の子という生い立ち、偉大なチャンピオンであった父の幻影を背負っている。
顔も知らない父だが、アドニスは父を敬愛している。
YouTubeにアーカイブされた父親アポロの試合を見るアドニスに心情移入できる。
父の偉大な名前に支配されながらも、生まれる前に死んでしまった父親を慕う子供の気持ちが分かるのだ。
惜しむらくはこのアドニスの苦悩と心情がもう少し描かれていたならと残念に思う。

ロッキーが薄幸なエイドリアンと愛し合ったように、アドニスは進行性難聴をかかえるビアンカと愛し合う。
進行性ということでビアンカはやがて聴力を失うことが予測される。
歌手であり音の世界に生きるビアンカにとっては致命的な病気でもある。
補聴器で補っているが、聴力を失った時のために手話を学んでいる彼女の姿はエイドリアンに重なる。
一本の独立した作品として「クリード チャンプを継ぐ男」は評価できるが、やはり「ロッキー」の遺産あっての作品であることは疑いがない。
エイドリアンの面影がそうでもあるのだが、やはりこの作品ではアポロの存在が大きく、ロッキー・シリーズの1~4を見ておかないとこの作品の存在はないと思われる。
アドニスはアポロと初対戦したロッキーと同様、チャンピオンのリッキー・コンランに敗れる。
しかし勝負に勝ったのはコンランだったが、試合に勝ったのはアドニスであり、コンランは「次のチャンピオンはお前だ」と賛辞を贈る。
そのことを通じて、「クリード」は新しいシリーズとして制作されていくことが宣言されたのだろう。