おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

グッド・シェパード

2021-01-15 10:02:48 | 映画
「グッド・シェパード」 2006年 アメリカ


監督 ロバート・デ・ニーロ
出演 マット・デイモン
   アンジェリーナ・ジョリー
   アレック・ボールドウィン
   タミー・ブランチャード
   ビリー・クラダップ
   ロバート・デ・ニーロ

ストーリー
1961年4月17日、アメリカの支援を受けた亡命キューバ人の部隊が、カストロ政権の転覆をもくろみピッグス湾に上陸するが、CIA内部の情報漏れによって作戦は失敗し、CIAは窮地に追い込まれた。
3日後、作戦の指揮を執ったベテラン諜報員エドワード(マット・デイモン)のもとに1本のテープが送られてくる。
録音されていたのは同封の写真の男女がベッドで交わした会話だった。
エドワードは、部下のレイ・ブロッコ(ジョン・タートゥーロ)を通じて技術部にテープと写真の分析を依頼した。
その結果が、自分と家族にどれほどの衝撃をもたらすかも知らずに・・・。

エドワードが諜報の道に足を踏み入れたのはイエール大学在学中のことだった。
時代は第二次世界大戦前夜。
エドワードは、FBI捜査官のサム・ミュラッハ(アレック・ボールドウィン)の接触を受け、親独派のフレデリックス教授(マイケル・ガンボン)の身辺を探る任務を頼まれ、教授を辞職に追い込んだ。
さらに彼は、先輩の紹介でサリヴァン将軍(ロバート・デ・ニーロ)と対面し、戦時中の諜報活動に参加して欲しいと誘われる。
自殺によって人生の幕を閉じた海軍高官の父の汚名を晴らすことを願っていたエドワードは、サリヴァンの申し出を引き受けた。
その当時、エドワードには、ローラ(タミー・ブランチャード)という恋人がいた。
彼女は耳が不自由だったが、明るく優しい女性で、エドワードはローラと共に歩む人生に多くの夢を馳せていた。
しかし、ディア島の集会の夜、エドワードは上院議員の娘クローバー(アンジェリーナ・ジョリー)と弾みでベッドイン。
クローバーが妊娠したことから、彼女と結婚する道を選ばざるをえなくなる。
その挙式当日にサリヴァン将軍の使者が出現し、海外赴任命令を受けたエドワードは1週間後、戦略事務局(OSS)の一因としてロンドンへ旅立った。
ロンドンで情報操作のノウハウを学ぶエドワード。
1946年、帰国したエドワードは、これまで電話でしか話したことのなかった息子と初めて顔を合わせた。
クローバーは、エドワードが不在の間に、寂しさのあまり一度だけ別の男性と付き合ったことを自らエドワードに告白。
過去を忘れ、改めて幸せな家庭を築きなおそうとエドワードに申し出る。
しかし、OSSの流れを汲んで作られたCIAで働き始めたエドワードは、家庭を顧みる暇もなく仕事に没頭。
秘密主義を貫く彼のせいで友達付き合いもままならなくなったクローバーはストレスをつのらせ酒に溺れていく。

1960年。エドワードは、自分と同じくイエール大学に進み、大学生活を送った息子から、CIAに入るという話を聞かされる。
息子だけはCIAと無縁の生活を送って欲しいと願っていたクローバーは「不採用になるように計らってくれ」とエドワードに懇願する。
そんな彼女と口論になったあげく、「君と結婚したのは子供が出来たからだ」と口走ってしまうエドワード。
その瞬間、20年に渡る二人の偽りの結婚生活は完全に終わりを告げた。
クローバーは去り、諜報員となった息子は海外へ赴任。
いまや一人になったエドワードにとっては、CIAの仲間だけが家族と呼べる存在だった。
とはいえ、ヒックス湾の失敗が内部の情報漏れによって引き起こされた以上、仲間と言えども信用することは出来ない。
エドワードと腹の探り合いを演じてきたソ連の諜報員スタス・シャンコ(オレグ・ステファン)こそが、今回のCIAの情報漏洩を仕組んだ黒幕であることが明白になる。
写真とテープの分析結果にもとづいてコンゴへ出向いたエドワードは、待ち構えていたシャンコと顔を会わせることとなる。
そこで明らかになった驚くべき事実。
エドワードは協力を求めるシャンコから、国を守るか、家族を守るかの二者択一を迫られることになる・・・。


寸評
総製作指揮に名を連ねるフラシス・フォード・コッポラがどこまで影響を及ぼしたのかは不明だが、ロバート・デ・ニーロの監督としての手腕も中々のものがあった。

オープニングはバックボーンとなるビデオのシーンから始まり、その真相を解明しようとする現在と、今日に至るまでのエドワードの過去が交差する形で進展してゆく。
サスペンスとしてみると、真相解明においては送られてきたビデオと写真に写っていた人物は一体誰なのかという事。
一方では今日のエドワードが如何にして出来上がってきたのかという事。
そのミステリアスな構成が良い。

妹の妊娠を告げ責任を取るように迫る兄の唇を読み、ぼう然と去るローラの海辺のシーンは、耳が聞こえなくて唇を読んで会話するローラの特性が伏線になっていて秀逸だった。
エドワードに理想の夫像を見出し、肉体関係を迫って結婚にこぎつけるまでのアンジェリーナ・ジョリーは野心ある積極的な女としてはまり役だったと思うが、結婚生活に疲れ果てていく段になると、ひ弱さを感じない分だけ、彼女が取り乱すシーンに少し違和感があった。

クローバーと再会するエピソードは添え物かなと思ってみていたが、送りつけられる盗み撮り写真が冒頭のビデオと写真を送りつけた人物と同じではないかと感じさせるので、けっして添え物などではなく感心させられたし、CIAなどという諜報機関にいると、寡黙で陰気で少し前かがみに歩くマット・デイモンが演じたエドワードのような人格になってしまうことが現実的で、ジェームス・ボンドは当然とはいえ活劇映画の中だけの存在なのだと再認識させられた。
映画においては情報漏えいだけが作戦の失敗原因の如く描かれているが、通説によればCIAが亡命キューバ人部隊には米軍が援護するかの如くいい、大統領には米軍は関与しなくても成功するとの二枚舌を使ったせいだとか、攻撃の時差を間違えた作戦ミスなどの複合原因となっている。
そして、この失敗に激怒したケネディ大統領がCIAを解体しようとして暗殺されたのだとする説もある。
それからすると、正に事実は小説よりも奇なりで、映画よりも恐ろしい背景があることになる。
エドワードが女性スパイを抹殺するくだりにその片鱗が垣間見えたが、この映画のテーマとしてはそちらに重きを置いていなかったようだ。
アレン長官が作戦に乗じて私服を肥やしていることなどが淡々と描かれると、かえってCIAという巨大組織の中では自然発生的に存在する腐敗の奥深さを想像させた。
タイムリーな事に、公開示においては日本の防衛省相手(守屋前次官)の接待疑惑が報じられていたので、軍事とか諜報とかの国家機密が存在する部署には腐敗が存在するものとの確信を持った。
それは奇しくもエドワードに接触してきたソ連のスパイ容疑者が口にする「あなたたちにとってはソ連が脅威でないと困る」という言葉が国家組織の本質を言い当てている。
国家及び指導者は国民の不満を外に向けるために巨大な敵という幻想を国民に植え付け、税金を軍需産業に注ぎ込む。
中国にそれを感じるし、アメリカにとってはその事が顕著なのだろう。
そして、それはソ連にとっても同様で、冷戦という作られた緊張の上に政権基盤を築いて来た筈だ。
ラストにおけるエドワードの暗い後姿はCIAという組織が抱えている底なしの腐敗の存在を見るようだった。