おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

疑惑の影

2021-01-08 08:12:55 | 映画
「疑惑の影」 1942年 アメリカ


監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 テレサ・ライト
   ジョセフ・コットン
   マクドナルド・ケリー
   パトリシア・コリンジ
   ヘンリー・トラヴァース
   ウォーレス・フォード

ストーリー
カリフォルニア州サンタ・ローザの町に住むニュートン一家は平和な生活を続けていたが、長女のチャーリーは家庭を生々としたものにするため、母の弟のチャーリー叔父に来てもらいたいと思っていた。
当のチャーリー叔父はある犯罪のため身に迫る危険を知ってカリフォルニア州へ高飛びして、偶然にもニュートン一家に仮寓することになった。
ある日、ジャック・グラハムとサンダースという二人の男がニュートン家を訪れて来た。
彼等は政府の調査員とのふれこみだったがチャーリー叔父は彼等が探偵であることを見破り避けていた。
ところがうっかりしたところを写真に撮られたので怒ってフィルムを奪ったが、そのただならぬ様子に傍らにいたチャーリーは怪しんだ。
その夜チャーリーはジャックから、叔父をある殺人事件の容疑者としてその確証を握りに東部の警察から派遣されて来たのだと言われ協力を求められたが、叔父を信用しているチャーリーは彼の申し出を固く断った。
だが叔父が破り棄てた新聞の記事にも疑いを持った彼女は、早速図書館へ行き新聞の綴込みを調べると、金持ちの未亡人を次々に殺害して金を奪った犯人が西部へ逃亡した形跡があり、目下探索中であると書かれてあり、そして最後の被害者の名前が、叔父から土産にもらった指輪の裏に刻まれている頭文と符合しているので、もはや叔父の犯罪を認めないではいられなかった。
チャーリーは家族の名誉を守るために、叔父が捕縛される前に家から出そうと決心した。
叔父に対して自分が総てを知っていると匂わせたり、証拠となるべき指輪を示して退去を迫ったが、叔父は平気な顔で滞在を続けるのであった。


寸評
アルフレッド・ヒッチコックの演出が良いのか、それとも ソーントン・ワイルダー 、 サリー・ベンソン 、 アルマ・レヴィルによる脚本が素晴らしいのか、家族描写もまとまっていてヒッチコック作品としても上の部に入る作品だ。
始まりはダウンタウンの下宿屋で、ジョセフ・コットン扮するアンクル・チャーリーが描写される。
どうやら警察に追われているような雰囲気で、いら立ちを隠せずグラスを叩きつけるショットが入る。
冒頭のこのシーンでアンクル・チャーリーは何か犯罪を犯しているのだと分かる仕掛けとなっている。
したがって観客は、ジョセフ・コットンがどのように紳士ぶろうとも、それは取り繕っているもので、本当は警察に追われる身なのだと分かって見ていることになる。
興味はどのようにして姪のチャーリーが、大好きなチャーリー叔父さんの悪事を知るか、また知った時に二人の間に何が起きるのかになっていく。
駅まで家族そろって叔父さんを迎えに来るのだが、出発するときには静かに出て行った汽車が、チャーリーが待つ駅に着いた時にはもうもうと黒煙を上げて入線してくるので、これはこれから起きる災いを暗示している細かい演出だと思うし、それを補足するように、病を装ったアンクル・チャーリーが、彼らを見つけるや颯爽と歩きだすという不自然な行動をとらせている。
最初からアンクル・チャーリーは犯罪者なのだと分かっているので、彼のとる行動はすべてが怪しいものである。
多くの作品では、チャーリーに好かれている感じの良い叔父さんがなぜそんな不可解な行動をするのかに関心を持たせるのだが、ここではアンクル・チャーリーの不可解な行動を観客が楽しむ作りになっている。

映画は家族が気付かないアンクル・チャーリー不可解な行動を次々と描いていく。
アンクル・チャーリーはお土産としてチャーリーには指輪を贈るのだが、この指輪は上手く使われている。
この時ワルツが流れていて、この作品では所々でワルツを踊るイメージが挿入されている。
母親も口ずさむこの曲は「メリー・ウィドウ」というものらしいのだが、僕は知らなかった。
しかしこの曲名を知っていれば、プラスアルファでこの映画を楽しめただろうにと思う。
日本語に訳すと「陽気な未亡人」ということで、アンクル・チャーリーが起こした事件名でもあるのだ。
食事の後の席でハミングするメロディーは何の歌?と話題になtったところで、話をそらすためにアンクル・チャーリーがグラスを倒すのだが、この時のクローズアップショットは印象的なのだが、上記の理由で僕はその行動の意味が理解できなかった(残念)。
その他、新聞記事にまつわるエピソードなども盛り込まれて、チャーリーの疑惑がどんどん深まっていく。
この映画は大好きだったアンクル・チャーリーに疑いを持ち出すチャーリーの変化を楽しむように撮られている。
アンクル・チャーリーは銀行に預金に行き、皆に聞こえるように銀行内で嫌味を連発するのだが、そこに未亡人のポッター夫人が登場し、アンクル・チャーリーはお世辞を言って未亡人キラーぶりを発揮する。
これなども彼の犯罪を補完する細かい演出となっている。
もう一人の容疑者が死亡して事件が解決したとの報を受け、アンクル・チャーリーはこの家に居つこうとする。
事実を知っているチャーリーには困ったことだが、アンクル・チャーリーにとっても事実を知るチャーリーがいては困ることで、それを二階から見下ろすアンクル・チャーリーを捉えることで次の展開を予測させる上手い演出だ。
事件が解決したと思い込んでいる刑事も刑事だと思うのだが、東部に送った写真の結果が描かれていないのはどうしたものか。