おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

川の底からこんにちは

2019-03-29 08:13:49 | 映画
「川の底からこんにちは」 2009年 日本


監督 石井裕也
出演 満島ひかり 遠藤雅 相原綺羅
   志賀廣太郎 岩松了 並樹史朗
   稲川実代子 菅間勇 猪股俊明

ストーリー
上京して5年目のOL・木村佐和子(満島ひかり)は、職場の上司・新井健一(遠藤雅)と付き合っている。
バツイチで娘・加代子(相原綺羅)がいる健一は頼りないが、いつも男に捨てられてきた佐和子は不満に感じることもなく、すべてに妥協の人生を歩んでいた。
ある休日、3人は動物園を訪れる。
そこで健一は佐和子にプロポーズするが、唐突なことで佐和子は戸惑う。
そのとき、佐和子の叔父・信夫(岩松了)から、佐和子の父・忠男(志賀廣太郎)が入院したと電話が入る。
一人娘の佐和子は実家のしじみ工場を継ぐよう求められるが、佐和子は決心がつかなかった。
しかし健一は会社を辞め、佐和子の故郷で工場を一緒に継ぎたいと言い出す。
そして、エコにかぶれた健一が田舎暮らしへの憧れを理由にはなしをどんどん進めてしまう。
佐和子は健一と加代子を連れ、実家に帰る。
しじみ工場の従業員のおばちゃんたちは、駆け落ちして父を捨てた佐和子を無視する。
経理の遠藤(菅間勇)以外やる気を感じられない工場の経営は、悪化の一途をたどっていた。
健一は佐和子の幼なじみの友美(鈴木なつみ)と浮気をして、家を出ていく。
ある朝、佐和子は工場に乗り込み、おばちゃんたちに胸の内をぶちまける。
するとおばちゃんたちも、男で失敗した経験を打ち明け始める。
意気投合した佐和子とおばちゃんたちは、工場の経営再建を目指す。
佐和子は新しい社歌を作り、毎朝全員で歌うようになる。
すると、次第にしじみの売り上げも上がっていく。


寸評
タイトルが出るまでに主人公佐和子の置かれている状況と性格が要領よく説明される。
冒頭のこのシーンが傑作で、この映画の雰囲気を上手く伝えている。
佐和子は東京に出てきて5年目で、5つ目の仕事についていて、5人目の彼氏と付き合っている。
勤務中の息抜きで湯沸し場やトイレで同僚の二人と何てことのない雑談をやっているのだが、そこでは「しょうがないですよね」を連発する。
景気が悪いと言っては「しょうがないですよね」、温暖化を嘆いてみせても「しょうがないですよね」と呟く無気力女である。
トイレでは付き合っている同じ会社の新井課長をけなされても「どうせ私は中の下ですから」「胸が小さいから、しょうがないです」と言い、同僚からは「何それ?」と呆れ返られる存在だ。
それでもストレスはあるらしく便秘の吸引治療を受けているのだが、この先生とのやりとりも漫才のかけ合いみたいで笑わせる。
いやあ~、この導入部は実に面白い。

「しょうがない」と共にもうひとつ盛んに登場するアジテーションが「どうせ中の下ですから」という開き直りの言葉。
中の上意識を持つ圧倒的多数の人々に対する投げつけだと思う。
自分自身が実績もないので、それを認めたくないばかりに”中の下”を標榜する者たちを一蹴している。
私の中にもそれに同調するような所がって、「どうせ私は中の下ですから。だから頑張るしかないっしょ!」と叫ぶヒロインを応援したくなってしまう。
佐和子は父親の病状を聞いてバスの中で涙をこぼすが、自分が泣いていることに気がつかないピュアな面を持ち合わせているのだが、それが上手く表現できないでいる。
連れ子のことを説明するのが面倒になって「説明が面倒だから私の子供でいいです」と言ってしまう投げやりなところもあるのだが、開き直った強さも持ち合わせている可愛げな女だ。
ダメ人間が会社を立て直すのはよくあるパターンの設定だけれど、それを大上段に構えて単なる感動編に仕上げていないところがいい。

登場する人物たちは端役に至るまで実に個性的でマンガチックですらある。
それなのに見ていくうちに出演者が漫画的でなく、生き生きとした存在感のある人々に思えてくる。
ギャグが満載なのも僕好みで大いに笑える。
ヒロインの佐和子を演じる満島ひかりさんは、「悪人」で超嫌味な女を演じていたが、久しぶりに見る性格俳優だ。
余談だが、撮影後にこの女優さんを嫁さんにした石井監督は大物になるかもしれない。
先輩には女優さんを嫁さんにした立派な監督さんが大勢おられますから・・・。
いや、余談、余談。
素人っぽい雰囲気を出すオバチャン役の人たちは皆劇団の役者さんらしいのだが、このガンコなおばちゃんたちが滅法面白い存在だった。 石井裕也の作詞になる木村水産社歌にも大爆笑。
お父さんも伯父さんも、おばちゃん達も、みんなみんないい人たちだったなあ。
最後に叫ぶ「おとうさーん!」に僕は泣いてしまいました。