おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

勝手にしやがれ

2019-03-15 09:18:10 | 映画
「勝手にしやがれ」 1959年 フランス


監督 ジャン=リュック・ゴダール
出演 ジャン=ポール・ベルモンド ジーン・セバーグ
   ダニエル・ブーランジェ   ジャン=ピエール・メルヴィル
   ジャン=リュック・ゴダール アンリ=ジャック・ユエ

ストーリー
ミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)は自動車泥棒の常習犯で、今日もマルセイユでかっぱらった車を飛ばしパリに向っていたが、途中で追いかけられた白バイの警官を射殺してしまう。
パリに戻ったミシェルは、顔見知りの女から金を盗んで街に出た。
旅行案内所のアントニオの所へ約束の金を取りに行くが、渡されたのは小切手で、現金はベリユッティという男が代えてくれるという。
刑事が彼を尾行しはじめたが、うまくまいた彼はパトリシア(ジーン・セバーグ)の許へ。
翌日、パトリシアは飛行場へインタビューに、彼は街で盗んだ車をポンコツ屋に持って行く。
素性がばれて、ミシェルはそこの親爺をなぐって逃げ出した。
社に戻ったパトリシアのところへ刑事が来て、彼の居所を知らせろといった。
尾行をまいたパトリシアは、ミシェルと二人でモンマルトルへ行き、ようやく酒場でベリユッテイをみつける。
金は明日出来るというので、その晩、二人はベリユッティの友達のところに泊った。
ミシェルは金が出来たら外国に行こうと言い、彼女はうなずいたが、翌朝彼女の気持は変った。
彼女の一番欲しいものは自由で、新聞を買いにいったついでに、パトリシアは警察に密告した…。


寸評
冒頭、ミシェルが盗んだ車でマルセイユからパリに着くまでが約5分の上映時間なのだが、その間に警官を射殺し、突然観客に向かって「海が嫌いなら、山が嫌いなら、街が嫌いなら……」と話し掛ける。
ミシェルは警官に追われ、車が故障したために警官に追い詰められるが、手にした拳銃で警官を射殺する。
この場面ではミシェルと警官がもみ合う場面はなく、いきなり撃たれた警官が倒れ込むことで殺人を表現している独特のカット割りに僕は初見の時に新鮮さを覚えた。
つながりを意図的に無視するカット割は今では時々目にする手法だが、初めて見た時に僕は少々戸惑った。
この手法は随所で見られ、会話は継続しているがシーンのカットは飛んでいるという場面に幾度も出会う。

ジャン=ポール・ベルモンドもジーン・セバーグも実に軽やかで魅力的だ。
1959年の製作だが、手持ちカメラによる撮影は当時のパリの風景を切り取ったドキュメンタリー的な側面もある。
ジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグの噛み合っているようで、噛み合っていないような二人のやりとりは、男と女のわかり合えなさを浮き彫りにしている。
ジャン=ポール・ベルモンドのミシェルはフランス人で、ジーン・セバーグのパトリシアがアメリカ人であることも、分かり合えそうで分かり合えないことに拍車をかける。
二人の会話劇が軽快な音楽に乗って繰り返されるので、犯罪者とその恋人と言う暗い感じが全くしないし、ミシェルは逃亡者と言う悲壮感も感じさせない。
ミシェルは自動車泥棒を繰り返し、時には人を襲って金を巻き上げたりしているいい加減な男だ。
場合によってはパトリシアの財布から金を抜き取ることもやっているのだが、二人はそれでもくっついている。

パトリシアが警察の尋問を受ける当たりからストーリー展開に変化が見られ話としては面白くなる。
ついにパトリシアは警察に密告することになるが、見ていると追い詰められてどうしようもなくなって密告に至ったと言う感じではない。
むしろなぜ密告することになったのかと想像させるような描き方だ。
ここでも男と女の微妙な違いが浮き彫りとなり、密告を知っても男は女を諦めきれない。
仲間から逃げろと言われても女に未練を残す。
ミシェルは「まったく最低だ」と言葉を残して死んでいき、警察は「あなたが最低だと言っている」とパトリシアに言うが、僕はそうではないと思う。
彼は女を捨てきれなかった自分自身に対して最低だとつぶやいたのだと思う。
女はそうではない。 パトリシアは観客に向かって「最低って何?」と問いかけ、唇を親指でなぞる。
何度見ても、もう決まりすぎなくらいに美しいラストシーンだ。

空港でパトリシアが取材する小説家を「サムライ」「影の軍隊」「仁義」などのジャン=ピエール・メルヴィル監督が演じているのだが、そこでパトリシアは「人生最大の野望は?」と質問を投げかける。
一度目は無視したが、二度目に作家は「不滅になって死ぬこと」と答える。
虎は死んで皮を残し、人は死んで名を残すということだろう。
ゴダールはこの第一作において、はやくもその野望を遂げたことになる。