おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

紙の月

2019-03-21 07:19:07 | 映画
「紙の月」 2014年 日本


監督 吉田大八
出演 宮沢りえ 池松壮亮 大島優子
   田辺誠一 近藤芳正 石橋蓮司
   小林聡美 中原ひとみ 佐々木勝彦

ストーリー
1994年。梅澤梨花(宮沢りえ)は、子どもには恵まれなかったもののエリート会社員の夫(田辺誠一)と穏やかな日々を送っている。
契約社員として勤務する「わかば銀行」でも、丁寧な仕事ぶりで上司の井上(近藤芳正)からも高評価。
支店では、厳格なベテラン事務員の隅より子(小林聡美)や、まだ若くちゃっかり者の窓口係・相川恵子(大島優子)ら、様々な女性たちが梨花と共に働いている。
だが一見、何不自由のない生活を送っている梨花であったが、自分への関心が薄く鈍感なところのある夫との間には空虚感が漂い始めていた。
ある夜、梨花の顧客で裕福な独居老人の平林(石橋蓮司)の家で一度顔を合わせたことのある孫の光太(池松壮亮)と再会した梨花は、何かに導かれるように大学生の彼との逢瀬を重ねるようになる。
そんな中、外回りの帰り道にふと立ち寄ったショッピングセンターの化粧品売り場。
支払い時に現金が足りないことに気づいた梨花が手を付けたのは、顧客からの預かり金の内の1万円だった。
銀行に戻る前にすぐに自分の銀行口座から1万円を引き出して袋に戻したが、これが全ての始まりであった。
学費のために借金をしているという光太に梨花は「顧客からの定期の申し込みがキャンセルになった」と200万を渡し、さらに顧客から預かった300万を自分の通帳に入れ、自宅で定期預金証書や支店印のコピーを偽造するなどして、横領する額は日増しにエスカレートしていくのだった。
上海に赴任するという夫には同行せず、梨花は光太と一緒に高級ホテルやマンションで贅沢な時間を過ごすが、光太の行動にも変化が現れ、ある日、光太が大学を辞めたことを告げられる。
そんな折、隅より子が銀行内で不自然な書類の不備が続いていることを不審に感じ始めていた……。


寸評
平凡な女性が若い男性に貢いだ挙句に堕ちていくという話は、劇中のセリフじゃないが「ありがち」なことだ。
横領事件と言えば、私が勤務していた会社のメインバンクだったこともあり、1973年の奥村彰子による滋賀銀行9億円横領事件を真っ先に思い浮かべる。
その後も1975年の大竹章子による足利銀行詐欺横領事件(被害額=2億1千万円)、1981年の伊藤素子による三和銀行詐欺横領事件(被害額=1億8千万円)などもあり、いづれも男に貢いでいた事件だ。
2005年に起きた川井田恵子による東京三菱10億円横領事件は借金返済と言うことだったらしいが、それぞれ億単位の横領事件で、お金が飛び交っている銀行とは言え、現実に起きていることはすごい。
劇中でも語られるが、横領した金を返済すれば内々に処理されていることも容易に想像でき、銀行における横領事件は想像以上に多発しているのではないかと思う。
始まりはわずかな金額で、宮沢りえの梨花も集金した1万円に手をつけたことが発端だ。
現実事件の奥村彰子も最初に貢いだ金額は5000円だったように記憶している。
ウソもギャンブルも覚せい剤も同様の構図で、徐々に深みにはまっていくのは怖い。

主人公の梅澤梨花は地味なのに妖艶、堅実なのにもろいという二面性をもった女性で、それを宮沢りえが見事に演じ、そして梨花の分身ともいえる女性が、要領がよく小悪魔的女子行員・相川を演じる大島優子と、お堅いベテラン行員・隅を演じる小林聡美だ。
三人の女優が一人の女性の内面にあるさまざまな感情を演じ分けているともいえ、大島優子、小林聡美がキャラの違う行員を上手く演じていた(AKB48の面々はアイドルグループとは言え案外と芸達者だ)。
分身なので光太と別れた後では相川は寿退社で突然梨花の前から姿を消し、不本意な異動に「行くべきところに行くだけよ」と言った隅と対峙し、そして梨花もいよいよとなった時に「行くべきところに行くだけよ」と声を発する。
この会議室で梨花と隅が対峙する場面は女の強さと開き直りが出ていて良かったなあ。
次長の井上の慌てぶりとは好対照だった。
梨花と夫は、仲が悪くはないがどこか隙間がある関係で、その微妙な関係を上手く表現していている。
契約社員になった記念の時計に対する反応とか、その時計を巡っての香港土産との対比などが象徴的。
その他にも、聞いているようで自分の世界に入ってしまう姿とか、ベッドに誘われることを感じた梨花が夜にもかかわらずお客のもとに出かけてしまうなど細やかだ。
現状に縛られない自分、やりたいことをやる自分、もっと自由な自分を求めた梨花だが、その開放感を求めて梨花はガラス窓を割り駆け出すが、このシーンに同化出来れば名作だと人に言えるのではないか。
観客の9割を占めた女性たちはどう感じたのだろう? 僕は共感できなかった。
記憶に残るのは宮沢りえが駅の階段から下りてくるシーンで、足だけがスーとフレームインしてくるのに映画を感じてときめいたし、セリフでは梨花から不正を聞かされ後で、不本意な異動を聞かれた隅が「行くべきところに行くだけよ」という言葉が記憶に残る。
梨花が大学生の光太に入れ込む心情が少し説明不足で、滋賀銀行の奥村彰子がタクシーの運転手に親切に話を聞いてもらったことが切っ掛けだったことの方がはるかに切ないものを感じる。
中学時代のエピソードがあまり効果的でないのでラストには疑問が残った。
横領サスペンスだとも思うのだが、不思議とそのドキドキ感はない作品だった。