おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

鍵泥棒のメソッド

2019-03-06 07:21:11 | 映画
鍵泥棒のメソッド 2012年 日本


監督 内田けんじ
出演 堺雅人 香川照之 広末涼子
   荒川良々 森口瑤子 小山田サユリ
   木野花 小野武彦

ストーリー
自殺願望のある売れない役者・桜井武史(堺雅人)。
ある日、銭湯で羽振りのいい男(香川照之)が転んだはずみに頭を強打して転倒した現場に居合わせる。
桜井が様子を見ていると、男は頭を強打した影響で記憶を失っていた。
桜井はちょっとした出来心を起こし、男のロッカーの鍵と自分の鍵をすり替える。
案の定、自分を桜井だと思い込むその男は、誰も顔を見たことがない伝説の殺し屋コンドウだった。
コンドウと勘違いされた桜井は、コンドウが数日前に殺した男の持って居る大金の行方を探している暴力団員の工藤(荒川良々)に、男の愛人だった綾子(森口瑶子)を殺す様に依頼される。
一方、記憶を失ったコンドウは自分が桜井だと思い込み、俳優として活動し出す。
コンドウは病院から帰ろうとした所で、偶然父親の見舞いに来ていた編集長をしている香苗(広末涼子)と出会う。
何度か会う内に献身的に尽くす香苗に心打たれ、心を通わせる桜井=コンドウだった。
香苗はどんな事でも計画通りに進める事にしており、計画で決めた日までに結婚すべく相手を探していた。
そんな中で出会った自分とそっくりな資質、性格を持つコンドウの事が気になった香苗は、コンドウに逆プロポーズをする。
一方でコンドウに扮した桜井は、工藤から殺人依頼された標的の愛人の綾子に一目惚れをしてしまい全力でバックアップする。
そんな最中にかねてから病気療養中だった香苗の父徳治(小野武彦)が逝去する…。


寸評
この手の映画に向く興味はある程度集約されている。
一つは、記憶喪失した男が、いつ、何をきっかけに記憶を取り戻すか。
一つは記憶を取り戻した男と、成り済ました男がどのようにして円満決着をつけるか。
当然後者に力点が置かれるはずで、内田作品とあってはそこに期待を抱かせるのだが、最初から興味がそこにあるので半分種明かしをされているような気分もあった。
前半はややテンポが悪くて少々ダレルところもあるが、後半になると面白さが加速してくる。
前半に張ってあった周到な伏線が、後半になって見事に収束されてくるのだ。
このあたりが内田映画の持っている職人芸的なところだ。

全体としてはラブ・コメディと言えなくもない。
堺雅人は置いておいて、香川照之と広末涼子が成り切りの天然キャラを演じていて愉快。
二人はこんな役をやると実にトボケた味を出して面白い役者さんだと思わせる。
特に面白いのが広末涼子で、登場シーンの結婚宣言から笑わせてくれる。
この人の見せるトボケた演技は独特のものがあって、単なるアイドルから演技派女優に脱皮しつつあることをうかがわせる。
今回の作品で一番のキャスティングはこの広末涼子だったかもしれない。

記憶を取り戻すシーンは、たぶんここだと感じ取れるが、そこから展開が俄然テンポアップする。
円満解決に向かうはずのストーリーが思わぬことで引きもどされる。
脚本の妙とでも言うべきか、内田はスゴイと思わせるのだ。
この終盤の叩きこむような追い込みは前作の「アフタースクール」でも見受けられて、あの時も圧倒されたものだ。

香川照之のコンドウ、荒川良々の工藤、森口瑶子の綾子の変貌ぶりがスゴクいい。
几帳面な記憶喪失後のコンドウが記憶を取り戻した後に見せるスゴミ。
気の良さそうなヤクザの工藤が時折見せる怖さ。
あんた本当に人を好きになったことが有るのと言っていた綾子の豹変ぶり。
それぞれを演じたキャストの個性と相まって実に巧みだった。
胸キュンを初めとする小ネタも満載で笑いは絶えない。

消えた金の存在はスタンリー・ドーネンの「シャレード」を髣髴させた。
その伏線の張り方もそつがない。
この辺りのストーリー展開と小気味よいテンポが僕をして内田作品を好ませる理由の様な気がする。
肩の凝らないこのようなポップな作品は見ていてくつろげる。
内田けんじは次はどんなものを見せてくれるのかと、次回作を楽しみにさせる監督だ。
最後のオマケはもっと後ろでよかったかも???