おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

隠し砦の三悪人

2019-03-07 09:33:13 | 映画
「隠し砦の三悪人」 1958年 日本


監督 黒澤明
出演 三船敏郎 千秋実 藤原釜足 藤田進
   志村喬 上原美佐 三好栄子 樋口年子
   藤木悠 笈川武夫 土屋嘉男 高堂国典
   加藤武 三井弘次 小川虎之助 佐田豊

ストーリー
戦国の乱世、秋月家は隣国の山名家と一戦を交えて敗れ去った。
秋月家の侍大将・真壁六郎太(三船敏郎)は、世継の雪姫(上原美佐)を擁して数名の残党と隠し砦にこもった。
砦近くの泉には、薪の中に仕込んだ軍資金黄金二百貫が隠されている。
同盟国の早川領へ脱出の機会を狙っていた六郎太は、砦近くの沢で出会った二人の男、百姓の太平(千秋実)と又七(藤原釜足)を利用しようと考えた。
六郎太は雪姫を口がきけない村娘にしたて、太平・又七とともに砦を後にした。
木賃宿で一夜を明かした六郎太は、姫の願いで、人買いに買われて行く秋月の百姓娘(樋口年子)を救った。
六郎太の前に、山名の侍大将・田所兵衛(藤田進)が立ちふさがった。
激闘数合、兵衛は六郎太の槍を太腿に受け首をさしのべるが六郎太は馬にとび乗った。
山名方の山狩りで一行に危機が迫り、雪姫と六郎太は捕えられる。
山名と早川の国境にある関所の牢の中で、雪姫と六郎太は最後を待っていた。
姫・六郎太・百姓娘の三人は、縛られたまま馬にのせられて曳き出された。
続いて黄金をつんだ五頭の馬。
その時、六郎太に不覚をとったため主君に弓杖で打たれたという兵衛が現われて、黄金をつんだ馬の尻をなぐりつけたので、馬は早川領へ走り去る。
続いて兵衛は六郎太の縄を切り、三人は早川領へ走り去った。


寸評
黒澤が「俺なら痛快娯楽時代劇はこう撮る」と叫んでいそうな作品で、娯楽としての要素が前面に出ている。
映画が娯楽として始まったことを思えば当然の思いだが、黒澤ははその当然のことをとことん追求している。
あの手この手の追って逃れのストーリーが痛快だし、スカットするようなここ一番のシーンも備えている。

三船敏郎のカッコ良さはあるのだが、この映画を思い出すと真っ先に浮かぶのが雪姫の上原美佐だ。
日本人離れしたエキソチックな顔立ちと均整のとれたボディで、立ち姿そのものが光となりえる存在感だった。
しかしながら甲高いセリフの言い回しがぶっきらぼうで下手くそではある。
ところが、それがまた世間慣れしていないお姫様役にピッタリで・・・。
「私には才能がない」と2年で引退してしまったから聡明な人でもあったのだろう。

三船敏郎演じる侍大将の、それこそスーパーマンのような超人的活躍がこの映画の見所となっている。
関所破りとそれに続くシーンで山名から追っ手を駆けられるシーンが出てくるが、その中で馬に乗った六郎太が敵方を追いかける場面があり、それがまた迫力満点。
立ち姿で馬にまたがって疾走しながら、両手で持った刀で逃げる敵を一刀のもとに切り捨てる。
これを三船自身がやっているというから、かれの乗馬の腕は並大抵のものではなかったはずだ。
乗馬のかっこよさはその後にも用意されていて、雪姫が先頭で馬で走りゆき、続いて六郎太が逃げ惑う元・城下の百姓娘の体を馬上へ引き上げ逃げ去るシーンでは、当時の映画館で観客から拍手が沸き上がったという。
いま観ても思わず拍手喝采したくなる爽快なシーンだ。

物語としてそのまま無事に逃げおおせる訳もなく、一行は敵方に捕らえられてしまう。
雪姫   「装わぬ人の世を、人の美しさを、人の醜さをこの目でしかと見た」
      「六郎太、礼を言うぞ。これで姫は悔いなく死ねる」
六郎太 「姫!」
雪姫   「六郎太、とくに、あの祭りは面白かった。あの歌もよい」と云って祭りの歌い出す。
いい場面だ。
それを聞いていた敵方の兵衛は昨夜雪姫が歌っていた祭りの歌
♪ 人の命は 火と燃やせ
   虫の命は 火に捨てよ ・・・・・
を歌いながら、六郎太と雪姫の腕を縛っていた縄を次々と斬り解いてやる。
雪姫に「兵衛!付いて参れ!」と言われ、かたじけないという顔をして大きく頷く。
そして自らの軍勢に向かって「裏切り、御免!」と言い捨て、馬に飛び乗って六郎太と雪姫と共に逃げていく。
いやあ~、痛快!
宿場の女郎が秋月領の女だと知って、雪姫が買い戻すように六郎太にせまるヒューマンなシーンもあるし、狂言まわしのような役柄を演じている千秋実と藤原釜足の凸凹コンビも面白く喜劇としても十分に楽しめる。
ただ欲の塊のような人間として描かれていた彼らが最後にはさっぱりと欲を捨て、欲よりも互いの友情の方が大事だなどと言い出すのはどうだったのかなあ・・・。