おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

学校

2019-03-13 07:46:06 | 映画
「学校」 1993年 日本


監督 山田洋次
出演 西田敏行 新屋英子 裕木奈江
   竹下景子 萩原聖人 翁華栄
   中江有里 田中邦衛 神戸浩
   大江千里 笹野高史 渥美清
   園佳也子 坂上二郎 大和田伸也
   すまけい 小倉久寛 浅利香津代

ストーリー
下町の一角にある夜間中学の教師・黒井(西田敏行)は、卒業式も近づいたある日、卒業記念文集のための作文の授業を行う。
原稿用紙にそれぞれの思いを綴る様々な職業、年齢の生徒たちの横顔を見ながら、黒井は彼らとの思い出を振り返る。
孫もいる年になって入学してきた焼肉店を経営する在日韓国人の女性・オモニ(新屋英子)。
髪の毛を染めたツッパリ少女・みどり(裕木奈江)。
昼間は肉体労働に励む少年・カズ(萩原聖人)。
父は中国人、母は日本人で五年前に中国から移住してきた青年・張(翁華栄)。
自閉症で登校拒否児だったえり子(中江有里)。
脳性麻痺で言葉の不自由な修(神戸浩)。
やがて給食の時間に、クラスの一員で長年の肉体労働で身体を酷使した競馬好きのイノさん(田中邦衛)が死んだという悲しい知らせが届く。
突然の訃報に悲しむ黒井と生徒たちは、食後のホームルームの時間、イノさんの思い出を語り始める。
不幸な生い立ちとその後の苦労、田島先生(竹下景子)への恋心。
そして突然病に倒れ、故郷の山形へ帰ったきり帰らぬ人となったこと。
イノさんの人生を語り合ううち、いつしか黒井と生徒たちは人間の幸福について話し合うようになっていった。
生徒と先生が汗を流して語り合う、これこそ授業だと確信する黒井先生に応えるかのように、えり子が、自分も夜間学校の先生になる、そしてこの場所に戻ってくる、と決意を語る。
外はいつしか雪になっていた。


寸評
僕は学校に行けないということを思ったことがない。
母子家庭だったが高校や大学も行くものと自然な感情で思っていた。
母親はそのために苦労したと思うし、人よりもアルバイトをしたと思うが母親の頑張りで進学できたことは確かだ。
ここに登場する生徒たちは何らかの事情で、義務教育である中学校に行けなかった人たちだ。
映画は、生徒たちが黒ちゃんと呼ぶ黒井先生が卒業を前にした生徒を回想する形で、それぞれの生徒にまつわるエピソードを紡いでいくのだが、それぞれのエピソードが感動を呼び、山田洋次は上手いと感じさせる。
黒井先生の西田敏行は人情味のある生徒思いの真面目な先生として適役をこなしているが、なぜ黒井先生は独身なのかの説明があっても良かった。
奥さんがいたとも思えないから、生徒指導に熱心なあまり婚期を逃してしまったのだろうか。
反対に竹下景子の田島先生はシングルマザーとして頑張っているが、夜間中学で教鞭をとっている間、あの子供はどうしているのだろう。
私生活を犠牲にしている部分があるのかもしれないが、先生たちは学ぼうとしている人たちに寛大である。
生徒たちも先生を尊敬し、慕っている。
本来の教育はこうあるべきだと示しているようでもある。

登場する生徒の中では、やはりイノさんが一番面白いキャラクターだ。
子供の頃からの苦労人で読み書きができないが、競走馬の名前だけは読める競馬好きな男である。
オグリキャップと黒板に書く字体は本当にイノさんが一生懸命書いたというもので、演出なのか田中邦衛の考えなのか分からないが、丁寧に描いているなあと感じる。
教室でもカズにみどりがチラチラと送る目線を自然に描き込んでいるところなども感心する。
山田演出なのか裕木奈江が役にはまり込んで行っている演技なのかは分からないが、僕は感心した。
イノさんは田島先生に恋をして、気持ちを伝えるのが文章だと言われ、やっと書けるようになった平仮名でプロポーズの言葉をしたためてはがきを出す。
困った田島先生が黒井先生に相談し、黒井先生がイノさんに諦めるよう伝える説得役になる。
ところがイノさんは「なんか、おかしい、なんで田島先生に出したハガキを黒ちゃんが持っているんだ」と思う。
僕も高校時代に黒ちゃんと同じ役回りをやったことがあるが、やはり断るなら直接言ってもらいたいものだよなと、当時の苦い出来事を思い出した。

夜間中学における一般的な授業時間は、平日の夕方から夜にかけての1日4時間程度で、授業以外に学級活動、掃除などの時間もあり、運動会や文化祭、遠足、修学旅行など様々な行事も行われているようで、ここでも修学旅行の様子が楽しそうに描かれている。
車中でイノさんが皆に奢ると言い出したら皆は大喜びとなり、ビールを注文する者も出てくる。
「社員旅行じゃないんだからな」という黒ちゃんの言葉が可笑しいが、夜間中学をイメージできるエピソードだ。
給食がある学校もあるらしく、描かれた給食の様子も微笑ましい。
えり子が夜間中学の教師を目指す意思を示し、イノさんの死を乗り越えた希望を示して終わるが、生徒たちを、夜間中学に通う人たちを、応援したくなる温かい映画だ。