ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

欲望、価値、老子

2020-11-21 11:44:53 | 日記
禅問答のような老子の言説だが、次の言説は解りやすい。
不貴難得之貨、使民不爲盗。(得難きの貨を貴ばざれば、民をして盗をなさざらしむ。)」
不見可欲、使民心不亂。(欲すべきを見さざれば、民の心をして乱れざらしむ。)」

これらの原文には「貴ばない」や「見せない」の主語は明示されていないが、老子の脳裏にあるのは、明らかに民(一般人民)の対義語、つまり統治者である。統治者がその物の価値を認めなければ、その物の価値は生まれない、と老子は説いているが、そんなにうまく事が運ぶかどうか、私には大いに疑問である。そもそも一人の(あるいは数人の)権力者が物の価値を作り出したり、奪ったりすることなど、できるのだろうか。

物の価値には、(統治者の意図が、ではなく)民の欲望がそれを生み出す、という側面がある。爺には理解しがたいことだが、アニメ作品『鬼滅の刃』が民の間で爆発的な人気を博し、そのキャラクターとのコラボを狙ったユニクロのTシャツが人気の的になる。それを手に入れようと、ユニクロの店舗には客がわんさと押し寄せ、行列を作るほどだという。

「うむ、それは良くない。コロナの感染拡大を防ぐため、3密を作らせないため、『鬼滅の刃』の価値を『鬼滅』しなければ」とスガ首相が思ったとしても、スガ首相(と取り巻きの官僚)だけでは、『鬼滅の刃』の価値を否定することはできないだろう。

話は違うが、得難いために欲望の対象になり、それをめぐって獲得競争が生じるということで思い浮かぶのは、歴史上絶えることのない領土紛争である。今、中国が尖閣諸島(魚釣島)をめぐり、「この島は我が国の領土だ」と領有権を主張して、日本との間に軋轢を生み出している。人も住まないこんな絶海の島をどうしてそれほど欲しがるのか、不思議に思えるが、考えればそれも当然のこと。この島の領有権が中国にあるとなれば、この島の周囲12海里が中国の領海となり、そこに漁業権や海底資源採掘権が発生することになって、多大の経済的利益をもたらすからである。

漁業権や海底資源採掘権が発生しなければ、こんなちっぽけな島が紛争の種になることもないだろうが、国際海洋法でも変更しない限り、この島の価値を貶めることは不可能である。

理想論は説かないように見える老子思想だが、ここでは老子は人間心理の洞察から抜けでて、実現不可能な理想論の迷路にはまっているように思える。
コメント
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