きょうの新聞に、諫早湾干拓事業についての記事が載っていた。福岡高裁が
出した控訴審判決についてだったが、これが何のことやらチンプンカンプン、
まったく解らない。法律の専門家に向けた記事でもないのに、理解できない
のは私の頭がボケたからなのか。気分が悪い。癪に障るので、この一件を何
とか飲み込もうと奮闘努力することになった。
事は2017年の4月までさかのぼる。当時、諫早湾干拓事業について 長
崎地裁が判決を出したのだが、このときにも私は 新聞記事の内容がよく理
解できなかった。何とか理解しようとして書いたのが、本ブログの記事《諫
早湾干拓事業のアポリア》(2017年4月19日)である。まずはこの記事を
おさらいすることから始めよう。
**********************************************************
U太「う~ん、よく分からないな。一体どういうことなのだろう」
U次郎「何のことだい?」
U太「きのうのことなんだけど、諫早湾の干拓問題で、長崎地裁が判決を
出したよね。それが、堤防の水門を開門するのを禁じるというんだ。なん
でも、水門を開くと、農業に大きな被害が出るから、というんだね」
U次郎「それが何か?」
U太「だって、おかしいじゃないか。7年前には福岡地裁が、逆に漁業者
の主張を認めて、水門を開けるように命じているんだ。水質調査をするた
めに、5年間ということだけど。裁判所が真逆の結論を出すなんて、一体
どういうことなのだろう」
U次郎「これはまさに政治の原点だな。相反する利害関係があって、対立
が生じたとき、その利害を調整するのが政治の役割だと俺は考えている。
マルクス主義だとか資本主義だとか、そんなことは大した問題じゃない。
ここにあるのは、漁業者と農業者・営農者との間の深刻な対立だ。どっち
の立場に立つかで、結論も違ってくる」
U太「そういえば、きのうの判決はある程度予測できたことだ。干拓に
よって、漁業者は被害をこうむる。でも国は、今回の裁判では、漁業者の
被害には目をつぶって、そのことを正面切って主張しなかった。国は農業
者の立場に肩入れしたのだ」
U次郎「まあ、そんなところだろうだな」
U太「おかしいのは、そこなんだよ。7年前には、国は福岡地裁の判決を受
け入れて、上告しなかった。福岡地裁の判決は、干拓と漁業被害との因果
関係を認めて、開門を命じている。この判決に異を唱えなかった国は、こ
の時には漁業者の立場に立っていたことになる。国の姿勢がどっちつかず
で、ふらふら揺れているから、混乱が生まれるんだ」
U次郎「国は口先だけでごまかそうとしていたみたいだな。タテマエとホ
ンネを使い分けながらね。口では『開門しなければ』と言いながら、陰で
はそうさせないように振る舞っていたという話じゃないか。自分たちが進
めてきた公共事業が失敗だったこと、それが表沙汰にならないように、う
まく立ち回っていたつもりなんだろうが」
U太「罪作りで、ひどい話だ。その結果どうなったかというと、有明海で
は不漁が深刻化したらしい。それもあって、漁業者の後継者難も深刻だ
という。国は漁業者に補償金を支払っているし、有明海の再生事業にも取
り組んでいる。でも、その効果はなく、有明海の漁業は疲弊して、衰退の
一途をたどっているらしいんだな」
U次郎「国はまず、干拓事業者としてのメンツにこだわる姿勢を改めなく
ちゃ。メンツにはこだわらないで、堤防の開門も考えてみたほうがいい。
その上で、農業者のこともきちっと考えないと」
U太「メンツか・・・。たしかに国にとって大事なのは、下々の暮らしがど
うか、などということよりも、まずもって自分たちのメンツだからな。
とにかく、そこをまず変えてもらわないと」
U次郎「その通りだ」
*********************************************************
この対話を踏まえた上で、きょう配信された毎日新聞のネット記事を読むこ
とにしよう。《諫早湾干拓 開門命令無効 異議訴訟、国が逆転勝訴 福岡
高裁》と見出しがふられている。
*********************************************************
国営諫早湾干拓事業(長崎県、諫干)を巡り、潮受け堤防排水門の開門を強
制しないよう国が漁業者に求めた請求異議訴訟の控訴審で、福岡高裁(西井
和徒裁判長)は30日、国の請求を退けた1審・佐賀地裁判決(2014年
12月)を取り消し、国に開門を命じた福岡高裁判決(10年確定)を事実
上無効化する逆転判決を言い渡した。
確定判決に従わない国の姿勢を容認する異例の判断で、漁業者側は最高裁に
上告する方針。確定すれば国に開門を強制する司法判断が失われる。また、
福岡高裁は同日、開門に応じない国に科された制裁金の執行停止も決めた。
国はこれまで漁業者らに1日90万円の制裁金を支払い、総額は今月10日
現在で約12億円に上る。今後は支払う必要がなくなり、国はこれまで支
払った制裁金の返還請求を検討する。
(中略)
開門を巡っては、漁業者らが02年、堤防閉め切りで漁業被害が生じたとし
て国に工事差し止めを求め提訴。1審・佐賀地裁判決、2審・福岡高裁判決
とも諫干と漁業被害の因果関係を認めて国に5年間の開門を命じ、民主党政
権当時の菅直人首相が上告せず確定した。一方、長崎地裁は13年、開門す
れば農業被害が出るとして開門差し止めの仮処分決定、17年には開門差し
止めの判決を出し、司法判断にねじれが生じていた。
(中略)
請求異議訴訟では1審・佐賀地裁判決が国の請求を退けたが、国側は控訴審
で「漁業権の消滅」の主張を追加した。福岡高裁は今年3月の和解協議で、
開門せずに100億円の漁業振興基金を設ける国の和解案を「唯一の現実的
な方策」と評価。同案での和解を勧告したが、漁業者側の反発で和解協議が
決裂していた。
*********************************************************
つまり、これまでは潮受け堤防排水門の開閉をめぐって、「開門すべし」と
する(漁業者側に立った)判決と、「開門すべきでない」とする(農業者側
に立った)判決との、2つの相反する判決が下され、判決にねじれが生じて
いたが、今回の福岡高裁の判決は、「開門すべし、という(以前の佐賀地裁
と福岡高裁の)判決は無かったことにするから、開門しなくてもいいよ」と
言っているのである。「開門はしませんが、かわりに100億円の漁業振興
基金を設けますから、これで手を打ちましょうや」という国の和解案を、そ
のまま認めた格好である。札束で頬をたたく国(行政)のやり方を、裁判所
(司法)が追認するとは、一体どういうことなのか。この国の今後が思いや
られる。
出した控訴審判決についてだったが、これが何のことやらチンプンカンプン、
まったく解らない。法律の専門家に向けた記事でもないのに、理解できない
のは私の頭がボケたからなのか。気分が悪い。癪に障るので、この一件を何
とか飲み込もうと奮闘努力することになった。
事は2017年の4月までさかのぼる。当時、諫早湾干拓事業について 長
崎地裁が判決を出したのだが、このときにも私は 新聞記事の内容がよく理
解できなかった。何とか理解しようとして書いたのが、本ブログの記事《諫
早湾干拓事業のアポリア》(2017年4月19日)である。まずはこの記事を
おさらいすることから始めよう。
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U太「う~ん、よく分からないな。一体どういうことなのだろう」
U次郎「何のことだい?」
U太「きのうのことなんだけど、諫早湾の干拓問題で、長崎地裁が判決を
出したよね。それが、堤防の水門を開門するのを禁じるというんだ。なん
でも、水門を開くと、農業に大きな被害が出るから、というんだね」
U次郎「それが何か?」
U太「だって、おかしいじゃないか。7年前には福岡地裁が、逆に漁業者
の主張を認めて、水門を開けるように命じているんだ。水質調査をするた
めに、5年間ということだけど。裁判所が真逆の結論を出すなんて、一体
どういうことなのだろう」
U次郎「これはまさに政治の原点だな。相反する利害関係があって、対立
が生じたとき、その利害を調整するのが政治の役割だと俺は考えている。
マルクス主義だとか資本主義だとか、そんなことは大した問題じゃない。
ここにあるのは、漁業者と農業者・営農者との間の深刻な対立だ。どっち
の立場に立つかで、結論も違ってくる」
U太「そういえば、きのうの判決はある程度予測できたことだ。干拓に
よって、漁業者は被害をこうむる。でも国は、今回の裁判では、漁業者の
被害には目をつぶって、そのことを正面切って主張しなかった。国は農業
者の立場に肩入れしたのだ」
U次郎「まあ、そんなところだろうだな」
U太「おかしいのは、そこなんだよ。7年前には、国は福岡地裁の判決を受
け入れて、上告しなかった。福岡地裁の判決は、干拓と漁業被害との因果
関係を認めて、開門を命じている。この判決に異を唱えなかった国は、こ
の時には漁業者の立場に立っていたことになる。国の姿勢がどっちつかず
で、ふらふら揺れているから、混乱が生まれるんだ」
U次郎「国は口先だけでごまかそうとしていたみたいだな。タテマエとホ
ンネを使い分けながらね。口では『開門しなければ』と言いながら、陰で
はそうさせないように振る舞っていたという話じゃないか。自分たちが進
めてきた公共事業が失敗だったこと、それが表沙汰にならないように、う
まく立ち回っていたつもりなんだろうが」
U太「罪作りで、ひどい話だ。その結果どうなったかというと、有明海で
は不漁が深刻化したらしい。それもあって、漁業者の後継者難も深刻だ
という。国は漁業者に補償金を支払っているし、有明海の再生事業にも取
り組んでいる。でも、その効果はなく、有明海の漁業は疲弊して、衰退の
一途をたどっているらしいんだな」
U次郎「国はまず、干拓事業者としてのメンツにこだわる姿勢を改めなく
ちゃ。メンツにはこだわらないで、堤防の開門も考えてみたほうがいい。
その上で、農業者のこともきちっと考えないと」
U太「メンツか・・・。たしかに国にとって大事なのは、下々の暮らしがど
うか、などということよりも、まずもって自分たちのメンツだからな。
とにかく、そこをまず変えてもらわないと」
U次郎「その通りだ」
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この対話を踏まえた上で、きょう配信された毎日新聞のネット記事を読むこ
とにしよう。《諫早湾干拓 開門命令無効 異議訴訟、国が逆転勝訴 福岡
高裁》と見出しがふられている。
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国営諫早湾干拓事業(長崎県、諫干)を巡り、潮受け堤防排水門の開門を強
制しないよう国が漁業者に求めた請求異議訴訟の控訴審で、福岡高裁(西井
和徒裁判長)は30日、国の請求を退けた1審・佐賀地裁判決(2014年
12月)を取り消し、国に開門を命じた福岡高裁判決(10年確定)を事実
上無効化する逆転判決を言い渡した。
確定判決に従わない国の姿勢を容認する異例の判断で、漁業者側は最高裁に
上告する方針。確定すれば国に開門を強制する司法判断が失われる。また、
福岡高裁は同日、開門に応じない国に科された制裁金の執行停止も決めた。
国はこれまで漁業者らに1日90万円の制裁金を支払い、総額は今月10日
現在で約12億円に上る。今後は支払う必要がなくなり、国はこれまで支
払った制裁金の返還請求を検討する。
(中略)
開門を巡っては、漁業者らが02年、堤防閉め切りで漁業被害が生じたとし
て国に工事差し止めを求め提訴。1審・佐賀地裁判決、2審・福岡高裁判決
とも諫干と漁業被害の因果関係を認めて国に5年間の開門を命じ、民主党政
権当時の菅直人首相が上告せず確定した。一方、長崎地裁は13年、開門す
れば農業被害が出るとして開門差し止めの仮処分決定、17年には開門差し
止めの判決を出し、司法判断にねじれが生じていた。
(中略)
請求異議訴訟では1審・佐賀地裁判決が国の請求を退けたが、国側は控訴審
で「漁業権の消滅」の主張を追加した。福岡高裁は今年3月の和解協議で、
開門せずに100億円の漁業振興基金を設ける国の和解案を「唯一の現実的
な方策」と評価。同案での和解を勧告したが、漁業者側の反発で和解協議が
決裂していた。
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つまり、これまでは潮受け堤防排水門の開閉をめぐって、「開門すべし」と
する(漁業者側に立った)判決と、「開門すべきでない」とする(農業者側
に立った)判決との、2つの相反する判決が下され、判決にねじれが生じて
いたが、今回の福岡高裁の判決は、「開門すべし、という(以前の佐賀地裁
と福岡高裁の)判決は無かったことにするから、開門しなくてもいいよ」と
言っているのである。「開門はしませんが、かわりに100億円の漁業振興
基金を設けますから、これで手を打ちましょうや」という国の和解案を、そ
のまま認めた格好である。札束で頬をたたく国(行政)のやり方を、裁判所
(司法)が追認するとは、一体どういうことなのか。この国の今後が思いや
られる。