日経のメルマガに乗って、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
第2次世界大戦中に強制労働させられたとして韓国人の元徴用工や元朝鮮女子
勤労挺身(ていしん)隊員が三菱重工業に損害賠償を求めた2件の上告審で、
韓国大法院(最高裁)は29日、同社の上告を退ける判決をそれぞれ言い渡し
た。日本企業への賠償命令の確定は、新日鉄住金に続き2社目。類似の判決が
相次ぐなか、韓国政府は対応策を示しておらず、歴史問題を巡り日韓関係が一
段と冷え込むのは確実だ。
またしてものトンデモ判決である。私は驚き呆れ、その論拠を確かめたいと思っ
た。だがネットの森を渉猟しても、判決の論拠にまで言及した記事は、なかな
か見当たらない。まず目に止まったのは、サイト「PRESIDENT Online」に掲載
された《韓国に広がる「日本どうでもいい」の理屈》(11月29日配信)で
ある。さっそく読んでみた。ところがこの記事は、くどくどしい論述で解りに
くく、私の頭には入ってこない。この記事の著者は木村某という神戸大学の教
授だが、ネットという媒体を、学術誌の紙媒体と同じように考えているらしい
のだ。
これなら韓国大法院の判決の原文を、翻訳でいいから、全文そっくりそのまま
読んだほうが早いのではないか、と考えた。しかし私のこの浅はかな考えは、
あえなく裏切られた。いろいろググってみても、判決の全文を掲載したサイト
がなかなか見つからない。やっと見つけたと思っら、これがまた恐ろしく長た
らしい。先の木村氏の記事に輪をかけた長たらしさ、くどくどしさで、「とり
あえず目を通して、理解に努めようか」という当初の私の意気込みは、途端に
萎(な)え萎(しぼ)んでしまうのである。
そんなこんなで、結局、私がたどり着いたのは、サイト「東洋経済ONLINE」
の記事《徴用工判決で問われる「日韓国交正常化の闇」 韓国大法廷の判決文を
熟読してわかったこと》(11月30日配信)である。
この記事は私が目を通した中では、ダントツに優れている。以下、その主要な
部分をコピペして紹介することにしよう。かなり長い引用になるが、判決のあ
の長たらしい原文に比べれば、かなり手際良くまとめられている。しかも、は
るかに解りやすい。著者は 東京新聞論説委員の五味洋治氏である。
******************************
判決文は、強制動員被害者に賠償の権利を認めた理由について説明している。
ここが判決の核心部分といえる。
韓国と日本の政府は1951年末頃から国交正常化と戦後補償問題について論議を
始めるが、日本による統治(植民地支配)の補償額や対象をめぐり意見が食い違
い、交渉は難航した。この原因は、統治の合法性をめぐる認識の争いだった。
日本は合法、韓国は不法と主張していたが、この問題はあいまいにされたまま、
1965年に国交正常化が実現した。
これに伴って結ばれた「日韓請求権協定」に、請求権問題は「完全かつ最終的
に解決されたことを確認する」と盛り込まれた。日本政府は韓国に3億ドルの
無償、2億ドルの有償支援を行った。韓国はこれを主にインフラ投資に使い、
「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を成し遂げた。
「これですべて終わっているのに、なんでいまさら賠償しろと蒸し返すのか」
というのが日本政府の主張であり、一般的な理解だろう。
判決文も、国交正常化の経緯については認めている。ただし「請求権協定は日
本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための協定ではなく、(中略)韓
日両国間の財政的・民事的な債権・債務関係を政治的合意によって解決するた
めのものであったと考えられる」と判断している。つまり原告に関していえば、
未払い賃金の返済だけを意味していたということだ。
今回の訴訟は「原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのでは
なく、 上記のような(強制動員への)慰謝料を請求している」(判決文)ので
あり、日本による統治を「不法」としている韓国では、1965年の請求権協定に
含まれていない慰謝料を請求できる、という論理構成になっている。
誤解の多い個人の請求権についても判決文は触れている。
自分の財産などを毀損された場合、相手に補償や賠償を求めることができる
「請求権」は、そもそも人間の基本的な権利とされており、消滅させることは
できないとの見解が多い。もし消滅させたければ、協定にその旨を明確に書く
必要があるが、日韓請求権協定には書かれていない。請求権をめぐる問題が
「完全に解決」と書かれているだけで、無くなったのか、まだ有効なのかはっ
きりしない。
この表現に落ち着いた意味を、判決文はこう説明している。「請求権協定締結
のための交渉過程で日本は請求権協定に基づいて提供される資金と請求権との
間の法律的対価関係を一貫して否定し」てきた。
筆者が補足すれば、請求権に関する協定と言いながら、請求権の対価として無
償で3億ドルを出すのではないと日本側は主張していたのだ。この指摘は重要
だ。日本側は植民地支配を合法だとしていたので、謝罪や賠償の意味を持つ
「請求権」の中身をあいまいにしておきたかったということだ。
事実、3億ドルの性格については椎名悦三郎外相は次のように答弁している。
「請求権が経済協力という形に変わったというような考え方を持ち、したがって、
経済協力というのは純然たる経済協力でなくて、 これは賠償の意味を持って
おるものだというように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこ
の間に関係はございません。あくまで有償・無償5億ドルのこの経済協力は、
経済協力でありまして、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちを持っ
て、また、新しい国の出発を祝うという点において、 この経済協力を認めた
のでございます」(第50回国会参議院本会議1965年11月19日)
有名な「独立祝い金」答弁である。
請求権についても1991年8月27日の参院予算委員会で、当時の柳井俊二外務省
条約局長が、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではな
い」と明言している。
ここで、日本政府の外交上の知恵というか、トリックが暴かれている。
請求権協定は結んだが、請求権に応じたのではない。経済支援なのだ。この支
援で納得し、提訴など権利を主張しないと約束してくれれば支払う。この条件
を、当時韓国側もあうんの呼吸で受け入れた。だから国交正常化が実現したと
いうことだ。
********************************
いかがだろうか。この記事をどう解釈し、判断するか、ーーそれは読者諸賢におま
かせしたい。
第2次世界大戦中に強制労働させられたとして韓国人の元徴用工や元朝鮮女子
勤労挺身(ていしん)隊員が三菱重工業に損害賠償を求めた2件の上告審で、
韓国大法院(最高裁)は29日、同社の上告を退ける判決をそれぞれ言い渡し
た。日本企業への賠償命令の確定は、新日鉄住金に続き2社目。類似の判決が
相次ぐなか、韓国政府は対応策を示しておらず、歴史問題を巡り日韓関係が一
段と冷え込むのは確実だ。
またしてものトンデモ判決である。私は驚き呆れ、その論拠を確かめたいと思っ
た。だがネットの森を渉猟しても、判決の論拠にまで言及した記事は、なかな
か見当たらない。まず目に止まったのは、サイト「PRESIDENT Online」に掲載
された《韓国に広がる「日本どうでもいい」の理屈》(11月29日配信)で
ある。さっそく読んでみた。ところがこの記事は、くどくどしい論述で解りに
くく、私の頭には入ってこない。この記事の著者は木村某という神戸大学の教
授だが、ネットという媒体を、学術誌の紙媒体と同じように考えているらしい
のだ。
これなら韓国大法院の判決の原文を、翻訳でいいから、全文そっくりそのまま
読んだほうが早いのではないか、と考えた。しかし私のこの浅はかな考えは、
あえなく裏切られた。いろいろググってみても、判決の全文を掲載したサイト
がなかなか見つからない。やっと見つけたと思っら、これがまた恐ろしく長た
らしい。先の木村氏の記事に輪をかけた長たらしさ、くどくどしさで、「とり
あえず目を通して、理解に努めようか」という当初の私の意気込みは、途端に
萎(な)え萎(しぼ)んでしまうのである。
そんなこんなで、結局、私がたどり着いたのは、サイト「東洋経済ONLINE」
の記事《徴用工判決で問われる「日韓国交正常化の闇」 韓国大法廷の判決文を
熟読してわかったこと》(11月30日配信)である。
この記事は私が目を通した中では、ダントツに優れている。以下、その主要な
部分をコピペして紹介することにしよう。かなり長い引用になるが、判決のあ
の長たらしい原文に比べれば、かなり手際良くまとめられている。しかも、は
るかに解りやすい。著者は 東京新聞論説委員の五味洋治氏である。
******************************
判決文は、強制動員被害者に賠償の権利を認めた理由について説明している。
ここが判決の核心部分といえる。
韓国と日本の政府は1951年末頃から国交正常化と戦後補償問題について論議を
始めるが、日本による統治(植民地支配)の補償額や対象をめぐり意見が食い違
い、交渉は難航した。この原因は、統治の合法性をめぐる認識の争いだった。
日本は合法、韓国は不法と主張していたが、この問題はあいまいにされたまま、
1965年に国交正常化が実現した。
これに伴って結ばれた「日韓請求権協定」に、請求権問題は「完全かつ最終的
に解決されたことを確認する」と盛り込まれた。日本政府は韓国に3億ドルの
無償、2億ドルの有償支援を行った。韓国はこれを主にインフラ投資に使い、
「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を成し遂げた。
「これですべて終わっているのに、なんでいまさら賠償しろと蒸し返すのか」
というのが日本政府の主張であり、一般的な理解だろう。
判決文も、国交正常化の経緯については認めている。ただし「請求権協定は日
本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための協定ではなく、(中略)韓
日両国間の財政的・民事的な債権・債務関係を政治的合意によって解決するた
めのものであったと考えられる」と判断している。つまり原告に関していえば、
未払い賃金の返済だけを意味していたということだ。
今回の訴訟は「原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのでは
なく、 上記のような(強制動員への)慰謝料を請求している」(判決文)ので
あり、日本による統治を「不法」としている韓国では、1965年の請求権協定に
含まれていない慰謝料を請求できる、という論理構成になっている。
誤解の多い個人の請求権についても判決文は触れている。
自分の財産などを毀損された場合、相手に補償や賠償を求めることができる
「請求権」は、そもそも人間の基本的な権利とされており、消滅させることは
できないとの見解が多い。もし消滅させたければ、協定にその旨を明確に書く
必要があるが、日韓請求権協定には書かれていない。請求権をめぐる問題が
「完全に解決」と書かれているだけで、無くなったのか、まだ有効なのかはっ
きりしない。
この表現に落ち着いた意味を、判決文はこう説明している。「請求権協定締結
のための交渉過程で日本は請求権協定に基づいて提供される資金と請求権との
間の法律的対価関係を一貫して否定し」てきた。
筆者が補足すれば、請求権に関する協定と言いながら、請求権の対価として無
償で3億ドルを出すのではないと日本側は主張していたのだ。この指摘は重要
だ。日本側は植民地支配を合法だとしていたので、謝罪や賠償の意味を持つ
「請求権」の中身をあいまいにしておきたかったということだ。
事実、3億ドルの性格については椎名悦三郎外相は次のように答弁している。
「請求権が経済協力という形に変わったというような考え方を持ち、したがって、
経済協力というのは純然たる経済協力でなくて、 これは賠償の意味を持って
おるものだというように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこ
の間に関係はございません。あくまで有償・無償5億ドルのこの経済協力は、
経済協力でありまして、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちを持っ
て、また、新しい国の出発を祝うという点において、 この経済協力を認めた
のでございます」(第50回国会参議院本会議1965年11月19日)
有名な「独立祝い金」答弁である。
請求権についても1991年8月27日の参院予算委員会で、当時の柳井俊二外務省
条約局長が、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではな
い」と明言している。
ここで、日本政府の外交上の知恵というか、トリックが暴かれている。
請求権協定は結んだが、請求権に応じたのではない。経済支援なのだ。この支
援で納得し、提訴など権利を主張しないと約束してくれれば支払う。この条件
を、当時韓国側もあうんの呼吸で受け入れた。だから国交正常化が実現したと
いうことだ。
********************************
いかがだろうか。この記事をどう解釈し、判断するか、ーーそれは読者諸賢におま
かせしたい。