ロシアによるウクライナ侵攻は凄惨をきわめ、良識ある全人類の非難の的になった感がある。「良識ある」と条件をつけたのは、無条件に「全人類の」とは言えない現状があるからである。
きょう目にしたネット記事《 「世界を救えるのはプーチンだけ」 アメリカの極右がウクライナ侵攻を支持する恐ろしい理由》(PRESIDENT Online 3月30日配信)によれば、アメリカの極右勢力の中に根強いプーチン擁護論が見られるという。
これはまあ神がかりの宗教みたいなものだから、ひとまず措くとして、これとは別のもっと合理的な理由から、ロシアのウクライナ侵攻を心から非難できない人もいる。そういう人物の一人として、私は先日、(ジレンマに陥った)中国の習近平国家主席を取り上げた(3月19日《習近平のジレンマ》)。
ジレンマにも様々な形がある。きょう私が取り上げるのは、フランスのマクロン大統領が陥ったジレンマである。
これはどういう形のジレンマなのか。彼はどうしてジレンマに陥ったのか。
こんな記事を読んだことがある。
「調査報道を手がけるフランスのNGO『ディスクローズ』は14日、フランスが2年前まで最新鋭の武器をロシアに輸出し続けていたと報じた。欧州連合(EU)は2014年、ウクライナ南部のクリミア半島をロシアが侵攻して併合した際、ロシアへの武器輸出を禁止する制裁を導入したが、フランスはその後も売り続けた。同NGOは、武器の一部は現在のウクライナ侵攻に使われている可能性があると指摘している。」
(朝日新聞DIGITAL 3月16日配信)
フランスはなんと!2年前までロシアに武器を輸出していた。その一部は現在のウクライナ侵攻に使われている可能性がある、と記事は伝えている。
この武器輸出の責任がマクロン大統領にあるのかどうか、私は知らないが、この記事の後段から判断する限り、責任を負うべき立場にあるのは、やはりマクロン大統領なのだろう。後段にはこう書かれている。
「マクロン大統領は15日、ロシアへの武器輸出について『国際法にのっとったものだ』と記者団に述べ、問題はないとの認識を示した。」
マクロン大統領が陥ったジレンマは、想像に難くない。彼は(ロシアに敵対すべき)NATOの一員であるフランスの、その政治的トップであり、しかももうじき大統領選挙を控えている。多数の国民の支持を得ようとするなら、彼は残虐非道なプーチンのやり口を口をきわめて非難しなければならない。
しかし反面、彼は国家首脳として国益の増大を図り、ロシアへの武器輸出を促進した立場でもある。国益をおろそかにできない彼の立場からすれば、ロシアはありがたいお得意様なのだ。
(つづく)