少子化にともなう労働力不足を解消するため、政府は外国人に頼り、不足分
を補おうとしてきた。それでもまだ足りないため、このたび政府の打った手
が、出入国管理法の改正である。政府が提出したこの改正案は、「社会を大
きく変える可能性をはらみ、日々の暮らしや人権にも密接にかかわる」重要
な法案であり、慎重な検討が欠かせない(朝日新聞)。
その中身は、要約すればこういうものである。「『特定技能』という在留資
格を設け、一定の技能と日本語能力のある外国人を受け入れる。在留期間は
最長5年とし、家族の帯同は認めない。その後、熟練した技能を持つと判断
されれば、家族を呼び寄せ、さらに働き続けることができる。」
この法案については、朝日と東京が次の社説で取り上げている。
朝日10月29日《外国人労働者 「人」として受け入れよう》
東京10月29日《外国人労働者 差別のない就労条件で》
こうしたタイトルを見れば、両紙のおよその主張は推察できるが、念のため、
それぞれの要所をコピペしておこう。まずは朝日から。
「外国人に頼らなければ、もはやこの国は成り立たない。その認識の下、同
じ社会でともに生活する仲間として外国人を受け入れ、遇するべきだ。
(中略)だが政府が進めようとしている政策は、こうした考えとは異なる。
根底にある発想は旧態依然のままで、「共生」にほど遠いと言わざるを得な
い。
(中略)
『我々は労働力を呼んだ。だが、やってきたのは人間だった』。移民国家ス
イスの作家マックス・フリッシュの言葉だ。
この当然のことを忘れると、労働者側、受け入れ側の双方に不幸な結果をも
たらす。
喜怒哀楽があり、大切な家族がいて、病気もする。互いに同じ人間だという
認識をもてば、どんな法律や制度にすべきか、逆に、してはいけないかの答
えも、おのずと見えてこよう。」
一方、東京はこんなふうに述べている。
「人手のために単純労働者の受け入れ制度を-との考えは発想が単純すぎる
のではないか。例えば一定の技能を持つ「特定技能1号」の在留資格の外国
人は、在留期限が通算五年で、家族の帯同は認められない。
これは人権保障の観点から大問題である。日本にいる限り憲法や国際人権法
などの光に照らされる労働者でなければならない。長期間の家族の分離を強
いる仕組みであってはなるまい。
職場移転の自由があっていいし、日本人の労働者と同様の労働条件にすべき
だ。賃金や労働時間などで国籍や民族を理由とした差別を認めてはいけない
はずだ。
(中略)
技能実習生の例があるように、外国人をまるで使い捨て感覚で雇用すれば、
国際社会から「奴隷的」と烙印(らくいん)を押されるだろう。」
見られるように、両紙の主張はだいたい似通っている。労働者として迎え
入れる外国人を、日本人と差別せずに、同じ人間として処遇すべきだ、ー
ーこれが両紙の共通した主張である。
しかし、これとはまったく違った主張がある。サイト「ITmediaビジネス
ONLINE」に掲載された記事《だから「移民」を受け入れてはいけない、
これだけの理由 》(窪田順生著、10月30日配信)である。
この記事の主張は単純である。これも要所をコピペすることにしよう。
「『外国人への労働力依存』というのは覚醒剤と同じで、『辛いからちょ
こっとだけ』と軽いノリで手を出したら最後、それなしでは生きられない体
になってしまう。今回の受け入れ先とされる14業種はみな深刻な人手不足
だ。その解決策として『外国人労働者』が注入されれば、もはやそれ抜きで
は現場が回らなくなってしまうのは小学生でも分かる。
(中略)
外国人労働者を受け入れてしまうと、日本人労働者の『賃金アップ』のチャ
ンスはなくなる。おまけに、ようやく兆しが見えてきた日本社会の生産性向
上も足を引っ張られる。要は、日本にとって『得』がまったくないからだ。
(中略)人手不足が深刻化していけば、企業は労働力を使い捨てにせず、大
事に囲い込まざるを得ない。賃金アップはもちろん福利厚生など環境整備も
される。当然、これまで日本企業の至るところにあって『これってどう考え
ても効率悪くね?』という無駄な慣習などをサクサクと削って、生産性向上
を進めることも余儀なくされる。
働きやすくて金払いも良いとなれば、これまで『雇用ミスマッチ』が指摘さ
れるような不人気業種にも労働力が集まってくる。つまり、人手不足が進め
ば、一部の経営者は苦境に追いやられるだけで、労働者全体の地位は向上す
るし、生き残りを目指す企業が続々と生産性向上の動きも促進されるなど、
日本にとっては悪い話ではないのだ。」
う〜む、なかなか読ませる文章だが、私はこれを読んで、素朴な疑問を懐か
ざるを得なかった。労働力不足の状況が続けば、労働者の賃金はアップし、
労働環境が改善される。だから移民政策によって労働力不足の現状を解消す
ることには反対だ。ーー著者のこの意見は、非正規で不安定・低賃金の現状
に甘んじざるを得ない底辺労働者の声を代弁したものと言えるだろう。だが、
労働力不足のため、労働者の賃金がどんどん上昇していけば、企業はより安
価な労働力を求めて、生産拠点を国外に移すようになるのではないか。そう
なったとき、国内の底辺労働者は、職を失うことになるのではないか。
労働力不足の現状をこのまま放置すれば、そこには亡国の前途しかないよう
に思われるのだが、いかがだろうか。
を補おうとしてきた。それでもまだ足りないため、このたび政府の打った手
が、出入国管理法の改正である。政府が提出したこの改正案は、「社会を大
きく変える可能性をはらみ、日々の暮らしや人権にも密接にかかわる」重要
な法案であり、慎重な検討が欠かせない(朝日新聞)。
その中身は、要約すればこういうものである。「『特定技能』という在留資
格を設け、一定の技能と日本語能力のある外国人を受け入れる。在留期間は
最長5年とし、家族の帯同は認めない。その後、熟練した技能を持つと判断
されれば、家族を呼び寄せ、さらに働き続けることができる。」
この法案については、朝日と東京が次の社説で取り上げている。
朝日10月29日《外国人労働者 「人」として受け入れよう》
東京10月29日《外国人労働者 差別のない就労条件で》
こうしたタイトルを見れば、両紙のおよその主張は推察できるが、念のため、
それぞれの要所をコピペしておこう。まずは朝日から。
「外国人に頼らなければ、もはやこの国は成り立たない。その認識の下、同
じ社会でともに生活する仲間として外国人を受け入れ、遇するべきだ。
(中略)だが政府が進めようとしている政策は、こうした考えとは異なる。
根底にある発想は旧態依然のままで、「共生」にほど遠いと言わざるを得な
い。
(中略)
『我々は労働力を呼んだ。だが、やってきたのは人間だった』。移民国家ス
イスの作家マックス・フリッシュの言葉だ。
この当然のことを忘れると、労働者側、受け入れ側の双方に不幸な結果をも
たらす。
喜怒哀楽があり、大切な家族がいて、病気もする。互いに同じ人間だという
認識をもてば、どんな法律や制度にすべきか、逆に、してはいけないかの答
えも、おのずと見えてこよう。」
一方、東京はこんなふうに述べている。
「人手のために単純労働者の受け入れ制度を-との考えは発想が単純すぎる
のではないか。例えば一定の技能を持つ「特定技能1号」の在留資格の外国
人は、在留期限が通算五年で、家族の帯同は認められない。
これは人権保障の観点から大問題である。日本にいる限り憲法や国際人権法
などの光に照らされる労働者でなければならない。長期間の家族の分離を強
いる仕組みであってはなるまい。
職場移転の自由があっていいし、日本人の労働者と同様の労働条件にすべき
だ。賃金や労働時間などで国籍や民族を理由とした差別を認めてはいけない
はずだ。
(中略)
技能実習生の例があるように、外国人をまるで使い捨て感覚で雇用すれば、
国際社会から「奴隷的」と烙印(らくいん)を押されるだろう。」
見られるように、両紙の主張はだいたい似通っている。労働者として迎え
入れる外国人を、日本人と差別せずに、同じ人間として処遇すべきだ、ー
ーこれが両紙の共通した主張である。
しかし、これとはまったく違った主張がある。サイト「ITmediaビジネス
ONLINE」に掲載された記事《だから「移民」を受け入れてはいけない、
これだけの理由 》(窪田順生著、10月30日配信)である。
この記事の主張は単純である。これも要所をコピペすることにしよう。
「『外国人への労働力依存』というのは覚醒剤と同じで、『辛いからちょ
こっとだけ』と軽いノリで手を出したら最後、それなしでは生きられない体
になってしまう。今回の受け入れ先とされる14業種はみな深刻な人手不足
だ。その解決策として『外国人労働者』が注入されれば、もはやそれ抜きで
は現場が回らなくなってしまうのは小学生でも分かる。
(中略)
外国人労働者を受け入れてしまうと、日本人労働者の『賃金アップ』のチャ
ンスはなくなる。おまけに、ようやく兆しが見えてきた日本社会の生産性向
上も足を引っ張られる。要は、日本にとって『得』がまったくないからだ。
(中略)人手不足が深刻化していけば、企業は労働力を使い捨てにせず、大
事に囲い込まざるを得ない。賃金アップはもちろん福利厚生など環境整備も
される。当然、これまで日本企業の至るところにあって『これってどう考え
ても効率悪くね?』という無駄な慣習などをサクサクと削って、生産性向上
を進めることも余儀なくされる。
働きやすくて金払いも良いとなれば、これまで『雇用ミスマッチ』が指摘さ
れるような不人気業種にも労働力が集まってくる。つまり、人手不足が進め
ば、一部の経営者は苦境に追いやられるだけで、労働者全体の地位は向上す
るし、生き残りを目指す企業が続々と生産性向上の動きも促進されるなど、
日本にとっては悪い話ではないのだ。」
う〜む、なかなか読ませる文章だが、私はこれを読んで、素朴な疑問を懐か
ざるを得なかった。労働力不足の状況が続けば、労働者の賃金はアップし、
労働環境が改善される。だから移民政策によって労働力不足の現状を解消す
ることには反対だ。ーー著者のこの意見は、非正規で不安定・低賃金の現状
に甘んじざるを得ない底辺労働者の声を代弁したものと言えるだろう。だが、
労働力不足のため、労働者の賃金がどんどん上昇していけば、企業はより安
価な労働力を求めて、生産拠点を国外に移すようになるのではないか。そう
なったとき、国内の底辺労働者は、職を失うことになるのではないか。
労働力不足の現状をこのまま放置すれば、そこには亡国の前途しかないよう
に思われるのだが、いかがだろうか。