「さけを、冷や、でな。なすの漬物なんぞ、くれるかな。あとは、おまかせ、で、な」
と、桃庵は、一室に通されると、顔なじみのおせつと、話している。
「今日は、少し、話が長くなりそうだ。そう、女将に伝えておいてくれ」
と、桃庵は、まじめな顔で、おせつに話す。
「はい。女将と、板長に、そう、伝えておきます」
と、おせつも、まじめそうに、応対すると、静かに部屋を出ていきます。
ここは、「無音屋」。桃庵の顔なじみの料亭旅籠です。
「俺達の動きは、完全に、見張られていた」
そう主張するのは、すでに酒を傾けている平賀源大さんです。
「俺は、お弓ちゃんとは、別に動いていた。あの殺しは、どう見ても、殺しを専門に請け負っている人間の仕業だ」
と、少し興奮するように、話しています。
「真昼間に、飛苦無よ!」
と、驚いたように、話すのは、お弓さんです。
「あんなの、芝居の中での、話だけかと思っていたわよ。しかも、自分が狙われるなんて・・・」
と、目の前の現実に、どうも、理解ができない、お弓さんです。
「お弓は、そういう経験は、初めてだったか」
と、桃庵は、盃を傾けながら、少し苦笑して、話します。
「まあ、俺も、そう何度も・・・ってわけじゃねえけど、あれだけ、殺気が強すぎりゃあ、相手には、わかるぜ」
と、源大さんは、飛苦無を投げた人間の技の低さを指摘しています。
「そうね。あれは、わたしにも、わかったもの・・・ま、わたしだって、伊賀の出ですからね」
と、自分の出自を素直に暴露するお弓さんです。
「ま、私のところは、特別と言えば、特別だけどね」
と、少しほほえむ、お弓さんです。
「まあ、お弓ちゃんは、ある意味、特別扱い、だからね。下々の伊賀忍のことは、知らないんじゃないかい?」
と、源大さんは、お弓さんを、少し、持ち上げます。
「だって、お弓ちゃんは、伊賀のお姫さんだろ?」
と、源大さんは、お弓さんの秘密を、話します。
「え?まあ、その筋では、あるけれど、わたしの血筋は、二番目だから・・・」
と、お弓さんは、何か、言い淀むようです。
「いやいや、あのお方は、さらに、特別だからね。だから、やっぱり、お弓ちゃんは、お姫さんなんだよ」
と、源大さんは、鷹揚に話しています。
「まあ、それは、どちらでも、いいけど」
と、お弓さんは、話しながら、
「いずれにしろ、あの技では、伊賀では、途中の考試すら、合格できないはずよ!」
と、言い張る伊賀出身のお弓さんです。
「ということは、相手は、やはり、甲賀ね・・・」
と、お弓さんは、答えを知ったかのように、話します。
「いや、まだ、わからねえ。お弓ちゃんだって、一般の伊賀は、知らねえんだから、伊賀の、どこかで、飼われていた女かもしれねえよ」
と、源大さんは、一概に甲賀を敵視するのは、まだ、まだ、だ、と言っています。
「だってよ。甲賀が敵となるとよ、蓮華院殿配下が、敵だって、ことになるんだぜ」
と、源大さんは、こわいことを言っています。
「蓮華院殿は、将軍家に、忠誠を誓っておる。それだけは、ありえん」
と、桃庵は、それだけは、がんとして、ゆずらないようです。
「でも、昼間に、動く、忍びなんて、私には、考えられないもの・・・。あれじゃ、まるで、芝居よ・・・」
と、お弓さんは、それでも、食い下がります。
と、そこへ、ガラッと障子が、開いて、精悍な男が、入ってきます。
蒼龍思念流岩下道場塾頭、千代田剣之助です。
「遅れて、すまぬな。衣服を着替える必要があったのでな・・・」
と、剣之助は、鷹揚に構えると、自分の席につき、まずは、酒を手酌し、一気に飲み干します。
「剣之助、何かあったか?」
と、桃庵は、剣之助の雰囲気を感じて、何か、があったことを察知しています。
「わかりますか?さすが、桃庵殿」
と、剣之助は、苦笑します。
その言葉を聞き、源大も、お弓も、剣之助の言葉を待ちます。
「甲賀の男が、私を、襲いましてな・・・」
と、口に出すと、目をキラリとさせる剣之助です。
「なに!」「やはり!」「ほら!」
と、一同、驚愕の事実に、驚きを隠せません。
「たまたま、私が知っていた甲賀の男。それも、連達の男が、わたしを討ちにきましてな。まあ、待ち伏せを受けたようでした」
と、剣之助は、静かに話します。
「まあ、それでも、忍びは、暗闇でのみ、真価を発揮する職種。目の効く場所では、こちらの方が、圧倒的に有利ですよ」
と、剣之助は、忍びの意味を、話します。
「確かに、おかしいな」
と、源大さんも、それに反応します。
「忍びの使い方が、おかしい。まるで、兵法に、疎い者が、使っているようだ」
と、源大さんは、今日あった事の意味を、見出しています。
「なるほどな。ということは、奴らを使っているのは、蓮華院殿では、ない」
と、桃庵は、結論を出しています。
「この話、すぐにも、鼎に!」
と、源大さんが、言うと、ガラリと障子が開き、
「その必要は、ねえな。全部聞いたよ。それに、もう、手は、打った」
と、そこには、目をギラギラさせた、将軍家史編纂室長、蒼樹度鼎が立っています。
「将軍家を裏切った奴は、俺は、容赦しねえぜ!」
鼎は、その背中から炎を吹き出すような風情で、話しています。
「裏切った奴は、即、死だ!」
と、鼎は、そう断じます。その目は炎を吹き出すように、ギラギラしていました。
「殿、お話が、あります」
ある男が、部屋の前で、そう話します。
その部屋の中では、裸の男と、何人もの裸の女とが、汗を流しながら、抱き合っています。
「うむ。すぐか?」
裸の男は、涼し気な表情で、腰を激しく動かしながら、話します。
「はい。お願いできれば」
と、男が返すと、その裸の男は、鷹揚に、
「うむ。すぐ終わらせる。次の間に、待つように」
と、言いつけます。
「はは。そのように」
と、神を恐れるような表情を見せながら、その男は、次の間に、入っていきます。
「どうだ。気持ちよいか?」
と、その裸の男が、下になっている女に聞くと、女は、息も絶え絶えに、頷くだけです。
「まったく、最近のおんなは、弱いのう。これでは、我が心の師、松永弾正殿に、追いつけないではないか・・・」
と、つぶやく、男です。
この男こそ、今、全国を騒がせている紫ノ宮藩藩主、松永康秀そのひとであります。
「ほら、どうだ。こうだ。ほら、これで、どうだ」
と、康秀は、なぶるように、腰を使うと、女は、もう何度イッたか、わからないながら、また、イッて、腰をひくひくさせます。
「うむ。そうか。じゃ、わしも・・・」
と、強い突きをいれて、康秀も、濃い目の体液を、女の体内に、吐き出し、快感に身を委ねます。
そして、快感が終わると、ひくひくする女を尻目に、モノを引き抜き、まわりで、朦朧としている
おんな達に、命令します。
「おまえ達、ほら、後処理じゃ。それに、着替えも、させるのじゃ!」
と、贅肉が、一片もついていない、精悍な体を見せている康秀です。
裸のおんな達に、後処理をさせながら、ニヤリとする康秀は、自信にみなぎっています。
「弾正殿は、運がなかったのじゃ。だが、わしも、おなご達に、運はもらっている。弾正殿、まあ、見ていてくれ」
と、康秀は、はだかのおんな達に、囲まれながら、天下への秘策を、心の奥に秘めるのでした。
「宗春よ、待っておれ。その顔に、吠え面、かかせてやる!」
そう叫ぶと、大笑いする康秀でした。おんな達は、そんな康秀を、頼もしそうに見つめているのでした。
(つづく)
と、桃庵は、一室に通されると、顔なじみのおせつと、話している。
「今日は、少し、話が長くなりそうだ。そう、女将に伝えておいてくれ」
と、桃庵は、まじめな顔で、おせつに話す。
「はい。女将と、板長に、そう、伝えておきます」
と、おせつも、まじめそうに、応対すると、静かに部屋を出ていきます。
ここは、「無音屋」。桃庵の顔なじみの料亭旅籠です。
「俺達の動きは、完全に、見張られていた」
そう主張するのは、すでに酒を傾けている平賀源大さんです。
「俺は、お弓ちゃんとは、別に動いていた。あの殺しは、どう見ても、殺しを専門に請け負っている人間の仕業だ」
と、少し興奮するように、話しています。
「真昼間に、飛苦無よ!」
と、驚いたように、話すのは、お弓さんです。
「あんなの、芝居の中での、話だけかと思っていたわよ。しかも、自分が狙われるなんて・・・」
と、目の前の現実に、どうも、理解ができない、お弓さんです。
「お弓は、そういう経験は、初めてだったか」
と、桃庵は、盃を傾けながら、少し苦笑して、話します。
「まあ、俺も、そう何度も・・・ってわけじゃねえけど、あれだけ、殺気が強すぎりゃあ、相手には、わかるぜ」
と、源大さんは、飛苦無を投げた人間の技の低さを指摘しています。
「そうね。あれは、わたしにも、わかったもの・・・ま、わたしだって、伊賀の出ですからね」
と、自分の出自を素直に暴露するお弓さんです。
「ま、私のところは、特別と言えば、特別だけどね」
と、少しほほえむ、お弓さんです。
「まあ、お弓ちゃんは、ある意味、特別扱い、だからね。下々の伊賀忍のことは、知らないんじゃないかい?」
と、源大さんは、お弓さんを、少し、持ち上げます。
「だって、お弓ちゃんは、伊賀のお姫さんだろ?」
と、源大さんは、お弓さんの秘密を、話します。
「え?まあ、その筋では、あるけれど、わたしの血筋は、二番目だから・・・」
と、お弓さんは、何か、言い淀むようです。
「いやいや、あのお方は、さらに、特別だからね。だから、やっぱり、お弓ちゃんは、お姫さんなんだよ」
と、源大さんは、鷹揚に話しています。
「まあ、それは、どちらでも、いいけど」
と、お弓さんは、話しながら、
「いずれにしろ、あの技では、伊賀では、途中の考試すら、合格できないはずよ!」
と、言い張る伊賀出身のお弓さんです。
「ということは、相手は、やはり、甲賀ね・・・」
と、お弓さんは、答えを知ったかのように、話します。
「いや、まだ、わからねえ。お弓ちゃんだって、一般の伊賀は、知らねえんだから、伊賀の、どこかで、飼われていた女かもしれねえよ」
と、源大さんは、一概に甲賀を敵視するのは、まだ、まだ、だ、と言っています。
「だってよ。甲賀が敵となるとよ、蓮華院殿配下が、敵だって、ことになるんだぜ」
と、源大さんは、こわいことを言っています。
「蓮華院殿は、将軍家に、忠誠を誓っておる。それだけは、ありえん」
と、桃庵は、それだけは、がんとして、ゆずらないようです。
「でも、昼間に、動く、忍びなんて、私には、考えられないもの・・・。あれじゃ、まるで、芝居よ・・・」
と、お弓さんは、それでも、食い下がります。
と、そこへ、ガラッと障子が、開いて、精悍な男が、入ってきます。
蒼龍思念流岩下道場塾頭、千代田剣之助です。
「遅れて、すまぬな。衣服を着替える必要があったのでな・・・」
と、剣之助は、鷹揚に構えると、自分の席につき、まずは、酒を手酌し、一気に飲み干します。
「剣之助、何かあったか?」
と、桃庵は、剣之助の雰囲気を感じて、何か、があったことを察知しています。
「わかりますか?さすが、桃庵殿」
と、剣之助は、苦笑します。
その言葉を聞き、源大も、お弓も、剣之助の言葉を待ちます。
「甲賀の男が、私を、襲いましてな・・・」
と、口に出すと、目をキラリとさせる剣之助です。
「なに!」「やはり!」「ほら!」
と、一同、驚愕の事実に、驚きを隠せません。
「たまたま、私が知っていた甲賀の男。それも、連達の男が、わたしを討ちにきましてな。まあ、待ち伏せを受けたようでした」
と、剣之助は、静かに話します。
「まあ、それでも、忍びは、暗闇でのみ、真価を発揮する職種。目の効く場所では、こちらの方が、圧倒的に有利ですよ」
と、剣之助は、忍びの意味を、話します。
「確かに、おかしいな」
と、源大さんも、それに反応します。
「忍びの使い方が、おかしい。まるで、兵法に、疎い者が、使っているようだ」
と、源大さんは、今日あった事の意味を、見出しています。
「なるほどな。ということは、奴らを使っているのは、蓮華院殿では、ない」
と、桃庵は、結論を出しています。
「この話、すぐにも、鼎に!」
と、源大さんが、言うと、ガラリと障子が開き、
「その必要は、ねえな。全部聞いたよ。それに、もう、手は、打った」
と、そこには、目をギラギラさせた、将軍家史編纂室長、蒼樹度鼎が立っています。
「将軍家を裏切った奴は、俺は、容赦しねえぜ!」
鼎は、その背中から炎を吹き出すような風情で、話しています。
「裏切った奴は、即、死だ!」
と、鼎は、そう断じます。その目は炎を吹き出すように、ギラギラしていました。
「殿、お話が、あります」
ある男が、部屋の前で、そう話します。
その部屋の中では、裸の男と、何人もの裸の女とが、汗を流しながら、抱き合っています。
「うむ。すぐか?」
裸の男は、涼し気な表情で、腰を激しく動かしながら、話します。
「はい。お願いできれば」
と、男が返すと、その裸の男は、鷹揚に、
「うむ。すぐ終わらせる。次の間に、待つように」
と、言いつけます。
「はは。そのように」
と、神を恐れるような表情を見せながら、その男は、次の間に、入っていきます。
「どうだ。気持ちよいか?」
と、その裸の男が、下になっている女に聞くと、女は、息も絶え絶えに、頷くだけです。
「まったく、最近のおんなは、弱いのう。これでは、我が心の師、松永弾正殿に、追いつけないではないか・・・」
と、つぶやく、男です。
この男こそ、今、全国を騒がせている紫ノ宮藩藩主、松永康秀そのひとであります。
「ほら、どうだ。こうだ。ほら、これで、どうだ」
と、康秀は、なぶるように、腰を使うと、女は、もう何度イッたか、わからないながら、また、イッて、腰をひくひくさせます。
「うむ。そうか。じゃ、わしも・・・」
と、強い突きをいれて、康秀も、濃い目の体液を、女の体内に、吐き出し、快感に身を委ねます。
そして、快感が終わると、ひくひくする女を尻目に、モノを引き抜き、まわりで、朦朧としている
おんな達に、命令します。
「おまえ達、ほら、後処理じゃ。それに、着替えも、させるのじゃ!」
と、贅肉が、一片もついていない、精悍な体を見せている康秀です。
裸のおんな達に、後処理をさせながら、ニヤリとする康秀は、自信にみなぎっています。
「弾正殿は、運がなかったのじゃ。だが、わしも、おなご達に、運はもらっている。弾正殿、まあ、見ていてくれ」
と、康秀は、はだかのおんな達に、囲まれながら、天下への秘策を、心の奥に秘めるのでした。
「宗春よ、待っておれ。その顔に、吠え面、かかせてやる!」
そう叫ぶと、大笑いする康秀でした。おんな達は、そんな康秀を、頼もしそうに見つめているのでした。
(つづく)