蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

平成最後の師走

2018年12月16日 | つれづれに

 前夜、ふたご座流星群は、とうとう一つも目にすることなく去って行った。1時間に全天で40個ほど観られるはずの流れ星だった。生憎の曇天が阻み、今年も願い事は叶わなかった。
 雲の切れ目から、「オリオン座」が堂々と姿を現した。三ツ星も、その下のオリオン座大星雲も、霞んだ目にも確かめることが出来る。その左肩、赤みがかったベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンが形作る「冬の大三角」もクッキリと夜空を切り取り、期待して首が痛くなるほど見上げていたが、残念ながら西の空を福岡空港から飛び立った夜間飛行の機影が、ライトを点滅させながら横切るだけだった。

 一夜明けて……Y農園の奥様から「ジャガイモ掘りますけど、いらっしゃいませんか」とお誘いの電話が来た。待っていた収穫祭!手帳を手繰ると、去年もこの日12月15日に、畑でジャガイモを掘っていた。明日から雨になるという。防護柵で囲まれているとはいうものの、イノシシの乱暴狼藉も心配される季節である。その前にと、私達たちの都合に合わせて、忙しい中を畑で待っていて下さった。観世音寺の駐車場に車を置き、そそくさと境内を抜けて、暖かい小春日の日差しの下をカミさんと畑に向かった。

 東側を日吉神社の小山が遮り、後ろは四王寺山の屏風、西は小さな尾根が風を遮り、10時頃から16時頃まで、ほっこりと陽だまりに包まれる300坪の畑である。植えられた晩白柚、柚子、檸檬、無花果、枇杷、タラなどの木々が南に日陰を作り、畑仕事の中休みの憩いを包む。
 無農薬の畑には、幾種類もの野菜が丹精込めて育てられていた。あの苛烈な夏の日差しにも負けず、生き生きと葉を繁らせている。
 ひと畝のジャガイモ畑を引き抜いていった。術後の股関節をいたわって、私には折り畳み椅子を用意して下さる。しかし、私も掘りたい!
殆ど奥様の作業だったが、引き抜いた根っこに、直径10センチを超える大物から親指の先ほどの小芋まで、真っ白なジャガイモが姿を現す。掘り起こせば、まだ地中には幾つも埋まっているという。ワクワクドキドキのひと時だった。
 折角だからと、大根3本、大きな蕪、春菊、ラディッシュ、アスパラ菜、ホウレンソウ、柚子……持ち切れないほどの野菜を、わざわざ自転車で駐車場まで運んでいただいた。慌ただしい1時間足らずの収穫祭、今回は私の珈琲を淹れるのも忘れ、手提げ袋だけシッカリと抱えてやって来た。その厚かましさを快く包み込んでくださる、Y農園ご夫妻の優しさはいつも変わらない。自治会の副会長と、公民館主事を兼ねるご主人は、今日は太宰府天満宮と日吉神社のお札を配るのに忙しく、奥様一人で私たちを畑でもてなして下さった。
 葉の上に、一匹のテントウムシが日差しを浴びていたのも、嬉しい自然の演出だった。追加のお土産は、2連のオキナワスズメウリの実!暑熱に焼かれて、我が家のオキナワスズメウリは壊滅状態だったから、何よりのお土産だった。早速、玄関脇の簾を飾ることにしよう。
 こうして、当分我が家の食卓は、鮮度100%の贅沢な野菜で賄われる。

 畑から戻った午後は、町内の公民館で「クリスマスコンサート」。近くの女子短大からやって来た学生たちが、楽しいひと時を演出してくれた。地元のケーブルテレビがカメラを担いで取材に来ていて、インタビューを受けた。
 「丁度、私たちの孫娘の年代の皆さんです。横浜の孫たちを想いながら、楽しく聴かせていただきました。これで、年の瀬を越す元気を頂きました」と応じた。明日の夜、4分間の放映があるという。蟋蟀庵ご隠居の、久し振りのテレビ出演(?)となるのだろうか。

 気功教室、同期入社のOB会、自治会区長OB会、それぞれの忘年会も早めに済ませた。親でなく、夫や妻、兄や姉の訃報が増えた25通もの喪中欠礼の葉書に心痛めながら、200枚の年賀状も書き上げた。こうして、平成最後の師走が暮れようとしている。残り少ない日々に、幾つもの1年の「納め」が待っている。喜怒哀楽さまざまに交差した1年だったが、無事に「納め」を出来る果報を喜びたいと思う。

 夜……今夜も、オリオン座と冬の大三角は、遮るもののない中天に美しく輝いていた。
                   (2018年12月:写真:主格の数々)