蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

追い打ち

2012年07月19日 | つれづれに

 左肩に脱臼したような痛みが走ったのはいつだったろう?初めは寝違えたと思った。自堕落にソファーに寝そべってテレビを見る姿勢に無理があったとも思った。ちょっとした弾みで、いつの間にか元に戻って痛みが消えている。……そんな繰り返しが数か月続いた。癖になったのが気になって、行きつけの整形外科にかかった。レントゲンを撮っても、骨には全く異常がないし、関節の隙間も綺麗だという。「たくさんの筋(腱)が走ってるから、そのうちのどれかが炎症起こしているのでしょう」と、湿布薬とリハビリの指示を受けた。電気治療はかえって痛みが増すし、ついつい湿布だけに頼って2か月が過ぎた。
 しかし、痛みの断続は次第に慢性化し、左腕を上げるのが苦痛になり、夜も痛みで目覚めるようになって、再度医師の門を叩いた。九州だけが梅雨明けに取り残され、連日34度、35度の猛暑が続く一日だった。
 「左肩関節腱板断裂の疑いがあります。当分、週1回のヒエルロン酸関節注射と抗炎症剤服用と湿布で様子を見ましょう。それでも痛みが消えない場合は、MRIを撮って診断の上、場合によっては外科的処置(手術による断裂部の縫合)を取ることになります」という診断結果だった。甘く見すぎていたのかもと、今更の臍をかむ。かなり痛いヒエルロン酸関節注射は、この暑さの中でも、その日一日シャワーも浴びることができない。
 ネット情報によれば(素人が、すぐにネットで詳細を見てわかってしまうのも善し悪しだが)「40歳以上の男性に多く(男62%、女38%)、右肩に好発します。発症年齢のピークは60代です。肩の運動障害・運動痛・夜間痛を訴えますが、夜間痛で睡眠がとれないことが受診する一番の理由です。運動痛はありますが、多くの患者さんは肩の挙上は可能です
 腱板断裂の背景には、腱板が骨と骨(肩峰と上腕骨頭)にはさまれているという解剖学的関係と、腱板の老化がありますので、中年以降の病気といえます。明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で、断裂が起きます。男性の右肩に多いことから、肩の使いすぎが原因となっていることが推測されます。
 手術には、関節鏡視下手術と通常手術(直視下手術)があります。関節鏡視下手術の方が低侵襲で、手術後の痛みが少ないので、普及してきていますが、大きな断裂では、縫合が難しいので、直視下手術を選択するほうが無難です。どちらの手術も、手術後は、約4週間の固定と2~3ヵ月の機能訓練が必要です。」

 とんだ追い打ちだった。左手の痛みが全方位にあるから、運転や日常の家事、着替えに少し不自由する。作業に支障があっては仲間に迷惑をかけるから、博物館ボランティアも当分休止し、治療に専念することにした。それにしても、何故利き腕じゃない左肩なんだろう?
 先日の炎症指数の異常な高騰の成り行きを確認するため、再度、内科クリニックの血液検査を依頼した。その医師が「腱板手術は痛いよ¬~!」と脅す。「腱板炎症くらいでは、あんな高い炎症指数は出ないよ。」と、結局まだ原因は明らかではない。やっぱり、今月は厄月らしい。

 クマゼミとアブラゼミの姦しい合唱が鎮まり、何か懐かしいヒグラシの声に変わる夕暮れ、今年も夕顔がひっそりと咲き始めた。庭の片隅、仏間の窓に掛けたネットに蔓を絡ませ、かすかに甘い匂いを夕闇に漂わせながら風に揺れる。その風情が好きで、もう10年以上咲かせ続けている。その根方に、蝉の幼虫が抜け出した穴がいくつも開いて、蟋蟀庵の庭はいよいよ真夏へのステップを踏む。スミレのプランターに、数頭のツマグロヒョウモンの幼虫が育ち始めた。
                (2012年7月:写真:風に揺れる夕顔)