蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

宝石箱・遅れてきたクリスマス

2006年01月12日 | つれづれに

 買い換えたばかりの体重計に乗り、飽食の報いに愕然としてお正月気分が吹き飛んだ頃、ロスの次女から大きな荷物が届いた。いつも私達の記念日やクリスマスに、忘れずいろいろなプレゼントを送ってくる彼女が、昨年のクリスマスは仕事でアジア各国を経巡る旅の多忙で、珍しく何も送ってこないままに年が暮れた。1月5日の家内の誕生日、長女の孫達から手作りのメッセージがファックスで届き、お祝いの電話がかかって来た。もう、誕生日が嬉しい年齢はは遙か彼方のものとなってしまったが、娘や孫達の優しい心遣いはやはり嬉しい。
 届いた荷物は、いつの間にかいつも送る私の荷造りの仕方をすっかりマスターしたかのように厳重且つ丁寧に包装されており、期待に急ぐ手が滑ってカッターで掌まで切りながら開いていった。次々に包まれた小品が出てくる。一つ一つに付けられ説明書が楽しい。
 「はろお!すっかり遅くなってしまったけど、X’mas&B.Dのプレゼントです。(というか、おみやげかなあ?)楽しんでくれると嬉しいんだけど。6月に会えるのを楽しみにしています。Toko  おまけにアーチーズの写真を。この青に注目してー!!」
 勤め先の海運会社のシンボルマークである鰐が平和の白い鳩を空に放っているカードに添えられた言葉に、一気に懐かしさが膨らんでいく。まるで宝石箱をひっくり返したような小物が溢れてきた。
 タイJim Thompsonのタイ・シルクのスカーフ、同じくタイ・シルクの身体に巻くドレスとパンツ、タイのドライフルーツ、プーケット島のT シャツ、バーバリーの財布、クアラルンプールのピン・バッジ(私のピン・バッジ・コレクションが又増えた)、マレーシアの蝋染めのランチョン・マット(4枚のうち1枚は私の山歩き用のバンダナにしよう)、エイの皮で作ったキーホルダー(オセアニアと刻印されている。ダイバー用の土産だろう)、メキシコの革製ペットボトル・ホルダー(一昨年、娘のセカンド・ハウスがあるメキシコ・ロス・カボスの街で見かけた物。欲しそうな顔していたのを覚えていたらしい)、アメリカのアウトドア・ブランドTimberlandのオレンジ色の長袖シャツ(先年ロスで探して見つからなかった物。これも山歩き用)、世界各地のクリスマス・ソングのCD(スペイン、ブラジル、プエルトリコ、コロンビア、バルバドス、ジャマイカ、ノルウエー、アメリカ)、アメリカの国立公園を描いた古い記念切手集、そしてミネソタ州とミシガン州の記念クオーター(25セント硬貨。アメリカが10年計画で全州の記念クオーターを発行している。そのコレクター用パネルも先年娘が送ってくれた。今、ほぼ半分ほどが埋まっている)。極めつけは、趣味が高じて殆どセミプロ並のダンサーとして数々のパフォーマンスの舞台に立っている娘の、サルサを踊る数場面をコンピューターで合成した写真パネルである。
 それぞれに意味があり、娘の思いが込められている。遅れてきたプレゼントは、その分暖かさに充ちていた。
 添えられたアーチーズ国立公園の写真。ユタ州南部は岩の芸術とも言うべき壮大な自然遺産の宝庫だが、その中の一つアーチーズには東京23区の半分に相当する広大な岩の原野に、およそ1500ものアーチ(穴の空いた岩)が点在している。ブライス・キャニオンやモニュメント・バレーと並んで、私が憧れている国立公園の一つである。2月に予定していたカナダ・イエローナイフのオーロラ・ツアーが都合で流れた分、この6月にロス郊外、ラグーナの娘の新居を訪ねることにした。ヨセミテ国立公園のネバダ滝やハーフ・ドームを一緒に登り、アーチーズとブライスも訪ねようという欲張った計画が、実は娘のカードの添え書きの意味合いである。
 抜けるような青空のもと、この巨大なアーチが夕日に赤く輝く姿を思って、早くも心が躍った。先に楽しみを持ちながら日々を生きる……それが出来る老後の何と素晴らしいことだろう。そぞろ神は今年も私達をいざなってやまない。
      (2006年1月:写真:アーチーズ国立公園)