夫は事務職でもありながら書類を提出したり、現地へ赴いたりとする仕事だったので、
子供が出来たことが嬉しくて、道中に自宅に寄ることが多かった。
その時の夫は、とても幸せそうで、本当に子どものことを愛しているのだと、感じたものだ。
しかし、その時だけだ。
夫は定時で帰宅する。
駅前勤務だから、帰宅時間は決まっている。
帰宅してすぐ食事じゃないと、キレた。
「俺の帰宅時間はわかってるだろう?働いてお腹を空かせて帰ってくるのに
なぜ、食事がすぐに食べられる状態じゃないんだ!?」
そう言って、責められた。
子供が泣いていようと、手がかかろうと、そんなことは関係ない。
俺が一番なんだ。
そう言っているように、思った。
(実際にそうだったのだ)
夕暮れ泣きの始まった長女が、構ってほしくてワタシの足にしがみつく。
でも、それは夕飯の支度の最中。
その腕を振りほどいて、ご飯を作らなければならない。
娘への愛情と罪悪感が渦巻く気持ちの中で、
懺悔しながら、心の中で泣いた。
布団に入ってからも、泣いた。
なぜ、こんな思いをしているんだろう。
ワタシはどうしたらいいんだろう。
ワタシは何をしているんだろう。
でも、答えは出ない。
なぜ、ワタシが怒らないのか。
なぜ、自己主張をしないのか。
不思議に思うと思う。
でも、その時は自分による嫌われたくない気持ちと、
自分の気持ちを主張する気持ちを、夫によって既に削がれていた、という感じだったと思う。
実は、実父も酒を飲んでは説教をし、下手をすると手をあげる人だった。
幼い頃からそんな生活を過ごし、いくら鈍感な性格のワタシでも、トラウマになっていた。
男性の大声、怒鳴り声には委縮してしまって、言葉すら発せなくなる。
いつしか、夫と主従関係になっていた。
そんな中、夫が言った。
「君は子供が出来たんだから、指輪しないとね。」
『指輪、するの?嫌いだって言ってたのに』
「いや、僕はしないよ。なんだか嫌だもん。
君は、母親なんだから結婚してるってこと見えた方がいいし」
わけがわからなかった。
どういう理屈なんだ。
まるで縛り付けるように、指輪をさせられた。
何かの物語のようだ(苦笑)
そうやって日常生活の中でも、(無意識だろうけど)人の心に縛りを落としていく。
テレビを見ている最中にでも。
「ね、主婦が夜の7時以降に外にいるって、どういうことなんだろうね?
一体何をしてるんだろうね。主婦としての責任がないのかな。」
言葉が、ワタシの中でこだましていく。