読書感想282 反日種族主義(1)
著者 李榮薫(イ・ヨンフン)(編著)
金洛年(キム・ナクニョン)
金容三(キム・ヨンサム)
朱益鐘(チュ・イクチョン)
鄭安基(チョン・アンギ)
李宇衍(イ・ウヨン)
出版年 2019年
邦訳出版年 2019年11月
邦訳出版社 (株)文藝春秋
☆☆☆感想☆
本書は韓国でも日本でもベストセラーになった話題の本である。日韓の争点になっている歴史認識について、主として韓国側の主張が根拠を欠いた荒唐無稽なものであると様々な資料を引用しながら証明しようと試みている。結果的に日本の主張の正しさを証明することになっている。慰安婦、竹島、強制徴用、土地・食糧の収奪などが歴史認識の争点である。
そうした虚偽の主張の背後にある韓国民の情緒を、自由で独立した個人の概念を含む民族主義ではなく、没我的で親族の延長としての種族主義と規定している。それが反日と結びつき反日種族主義となるのは、韓国人が日本人に敵対的な感情を持っているからだと李栄薫氏はいう。それは新羅の3国統一から始まり、以後、両国の間では国家としても民間としても交流が薄かった。それは現在でもそうで、日本の歴史、文化、政治、経済について専門的な識見を持っている人はいない。ずっと日本に対して無関心と無知が横行ししばしば強烈な敵対感情として表出されてきた。日帝が推し進めた各種の行政や施設の建設は、伝統文化、伝統風水、伝統タブーに対する破壊として怒りの対象となった。そうした被害者意識と憤怒が、歴史家によって土地、食糧、労働力に対する収奪の歴史に包装されたのだという。
また、李栄薫氏は「教科書を執筆した歴史家や、でたらめな学術書を編纂した研究者は、日帝が朝鮮を支配した目的、メカニズム、結果、その歴史的意義が分からずにいます。彼らは、土地だけでなく食糧も、労働力も、果ては乙女の性も収奪された、と教科書に書いてきました。その全てがでたらめな学説です。」と述べ、日帝の目的について次のように述べています。
「日帝の朝鮮併合は、いくばくかの土地を収奪することが目的ではありませんでした。総面積が二千三百万ヘクタールになる韓半島全体を、彼らの付属領土として永久に支配するための併合でした。それで彼らは、彼らの法と制度をこの地に移植したのです。その一環として、全国の土地がどれほどなのか、土地の形質はどうなのか、所有者が誰なのか調査したのです。それが土地調査事業でした。当時作られた土地台帳と地籍図は、今もこの国が行おうとするあらゆる土地行政の基礎資料として重宝されています。皆さんの暮らしている家の番地や住所は、いつ付けられたものでしょうか?他でもない1910~18年の土地調査事業によってでした。」
また、金洛年氏は植民地朝鮮の支配の方法について次のように述べている。
「日本の植民地支配は同化主義を追求していました。植民地に日本の制度を移植し、できるだけ二つの地域を同質化させ、究極的には日本の一つの地方として編入しようとしたのです。このような方針は当時、日本列島の西側にある二つの島の名前を取って、『朝鮮の四国・九州化』と表現されたりもしました。政治面から見ると、朝鮮人の政治的権利が認められず、朝鮮人に対する抑圧と差別が続いたため、このような同化主義は植民地支配を合理化するための掛け声に過ぎませんでした。しかし経済面から見ると、日本の制度がほとんどそのまま朝鮮に移植され、地域統合が成される段階まで進んだと言えます。」
つまり、貨幣が統合され、市場が統合され、日本の民法、商法など23の法律が朝鮮に施行された。教科書にあるように個人の財産権も蹂躙されず「収奪」もされていない。日本と朝鮮の地域統合は現在のECに似ているという。
こういう歴史認識については日本人やアメリカ人の研究で読んだことがあったが、「陸軍特別志願兵」についてはほとんど知識がなかった。本書の中では一番興味深い部分だった。徴兵制として日本人に限定されていた兵役は、陸軍特別志願兵制として植民地出身者に1938年から1943年まで拡大された。6年間に1万6千5百人の募集に対して80万3千3百17人の志願者が応じ、倍率は約48倍だった。彼らは日中戦争とアジア太平洋戦争の中で専門的な軍事知識と豊富な実戦経験を積み、1946年以後は韓国軍の将校に変身し、朝鮮戦争で第一線の部隊長として抜群の力量を発揮した。そして、陸軍参謀総長、合同参謀議長、国防長官までのぼりつめた。鄭安基氏は次のように述べている。
「彼らは実体性が欠如した民族に反逆し、日本の天皇のために忠誠を誓ったからこそ、また別の祖国・大韓民国に尽忠報国できたのです。彼らは、二つの祖国において忠誠と反逆の等価性を身をもって実践し証明した歴史的存在でした。陸軍特別志願兵は、決して自身の生命と権利を日本に任せきるような、無気力で他律的な『反民族行為者』ではありませんでした。」
陸軍特別志願兵制は3者の思惑が一致して成立した。日帝はこの制度を通じて同化主義植民地統治イデオロギーを完成させようとし、朝鮮人の「協力エリート」は陸軍特別志願兵制と徴兵制の施行と連動して朝鮮人の参政権を確保する布石にしようとし、志願者の大半は南韓の農村出身で身分差別からの脱出と立身出世を求めていたのだという。
大きな功績を残した彼らが陸軍特別志願兵だったことで「反民族行為者」にされるのは常識のある人からすれば納得できないはずだ。
本書にはたくさんの資料と証言が収録されているので、参考書として手元に置く価値がありますね。