花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

受講証明書顛末記

2016-05-21 | 日記・エッセイ


第117回日本耳鼻咽喉科学会通常総会・学術講演会に参加した。新専門医制度は各学会が中心の専門医認定・更新制度から、厚労省から独立した第三者機関としての日本専門医機構主導に変わった。その構造変革の一環として、耳鼻咽喉科専門医も含まれる18の「基本領域専門医」と「サブスペシャルティ専門医」の二段階に専門医構造が階層化された。学術講演会では毎年、特別講演、招待講演、宿題報告、教育セミナー、臨床セミナー、モーニングセミナー、パネルディスカッション、シンポジウム、および一般口演・ポスター発表などが行われる。本年度より参加登録の際には4枚の「耳鼻咽喉科領域講習受講証明書引換券」が渡されるようになった。耳鼻咽喉科領域講習となる臨床セミナーを受講するとセミナー終了時に、専門医更新に必要な学術業績・診療以外の活動実績を証明する「受講証明書」が引換券との交換で渡されるのである。

医院を休診にした学会初日、自宅を5時半起床で新幹線に乗った。辿り着いた名古屋国際会議場の臨床セミナー会場前には、すでに老若男女の長蛇の列ができている。生存競争に敗れた身は立ち見のセミナー初回受講になった。職業上、長時間立つことなど慣らされてきた筈だが、ただ手も動かさず受け身で立っているとたかが一時間にもかかわらず、眼は霞み、肩は凝るし腰も痛い。私より御年輩の先生方は心底お疲れになったことだろう。そして一つのセミナーが終われば、先に会場に入った者がその日の席を独占してしまう弊害を防ぐ為に、聴衆全員が退場を促される。次のセミナーを同じ会場で続けて拝聴したい場合も、すでに会場前で長々と伸びた入場待ちの行列の最後尾に改めて並びにゆかねばならない。この行列の長さは日毎に伸び行き九十九折になり、まさに人生はつづら折りなる長坂である。

会場の中はといえば、常時、最前列から最後尾の席までひとつ残らず満席である。壁際の立ち見を余儀なくされた先生方の中には、初日の私の如くすっかり疲労困憊しきったお顔が混じる。また講演終了5分前頃になると、多くの聴衆は一斉に壇上の演者にくるりと背を向けて、出口方向に向かいフロアに立ち並ぶ。次の入室の順番取りを考えると悠長に座ってはいられず、既定の時間が過ぎて後方の扉が開くなり出るべしと待ち構えるからである。壇上でいまだ熱弁を奮っておられるのだから、非礼この上もない。最後まで拝聴したい講演内容でも、それでも諸事情の為に已んぬる哉。さらに受講を重ねた参加者は、前方に座ると出室までに時間がかかる事実を学習する。その結果、入場するやいなや、すぐさま扉に近い後方から席が埋まってゆくという現象が当たり前になっていった。

本会場の他には初日から同時放映のサテライト会場が設営されていて、また録画ビデオでの追加講演が初日と3日目にも行われ(これらの会場情報はオンライン演題検索システムのMyスケジュールアプリで参加者に提供され、リアルタイムで知ることが出来た。)、十分過ぎるほど参加者に配慮して下さっている運営であった。だがいかんせん参加の人数が例年に比べてはるかに上回っていたに違いない。他科の学会の学術講演会も恐らく似たり寄ったりの騒動になっていることだろう。言うまでもなく、一般参加者にとって学会に参加して専門知識を新たにすることは大切である。それと同時に専門医の更新や旧資格からの移行に際して不可欠な「受講証明書」の確保もまた外せず、誰がそれを無視することが出来るだろう。本学会以降もこれから延々と狂想曲を経験せねばならないのかと思うといささか気が滅入る。それでも、受講証明書を大切に携え眼の下に隈を作り帰って参りました、これだけで終わってたまるかいという気概が今頃になってふつふつと湧いてきた。一寸の虫ならぬ市井の町医者にも五分の魂、来週から一味も二味も違う診療にせずしてなんとする。何はともあれ、御主催、御講演そして御参加の皆々様は御無事に御帰宅の途につかれただろうか。お疲れ様でございました。

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