花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

この頃の奈良の鹿

2021-03-21 | 日記・エッセイ


COVID-19感染対策で各地に緊急事態制限が出され、不要不急の外出自粛が呼びかけられる中、先週火急ではないが必要があり奈良市内に出た。道中、久しぶりに奈良公園内で鹿せんべいを買い求めたら、一束を手にするやいなや、三々五々散らばっていた鹿達が四方から猛然と押し寄せて来た。春めいたその日、昨年はついぞ袖を通せなかった薄手コートの出で立ちである。ところが、そちらの都合など知るか、早くよこせとばかりに迫りくる鹿の鼻息やら涎で見るも無残な状態になった。

そしてひと回り小柄な歳若い鹿に煎餅をやろうと試みても、幾星霜経たのか筋金入りのおじさん鹿が我が物顔で横から奪い取る。以前は煎餅を持っている人を見かけたら、少し手前で煎餅を下さいという風に何度もお辞儀をして見せた奈良の鹿である。もちろん出し惜しみをすると、腹を立てた鹿に頭突きを食らうということは前からあったものの、さらに短気で待て暫しがない鹿が増えた感がある。

公園周辺に生息する鹿は基本、野性動物であり、主食は芝で鹿せんべいはいわばおやつである。今回単に空腹の時間帯であったのか。はたまた一昨年までの観光客からの多量の煎餅が鹿の常食になったのか。あるいは鹿までもが昨今の我勝ちの世知辛い風潮に染まったのか。何もかつての様に鹿に頭を下げてほしい訳ではない。ただ双方ともに心に余裕があった日々が懐かしいだけである。