花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

はたまた西洋医学と漢方医学

2018-07-07 | 日記・エッセイ


各地の漢方の講演会や研究会に出席して、局所しか見ていない、全身を診ていないと耳鼻咽喉科が引き合いに出されることがある。各領域の西洋医学の専門医が手を施せなかった病態を一刀両断に切り分けて治癒に導いたという御講演において、守備範囲の領域しか見ていないと槍玉に挙げられるのは耳鼻咽喉科だけに限らない。西洋医学的診断治療をお受けになったが、改善なく当方に来られた患者さんですという症例報告において、名前が知られずとも俎上に載せられている先医の西洋医に同情を禁じ得ない。講演を傾聴して「漢方医」として大いに得て学ぶところがある。他方、「西洋医(耳鼻咽喉科医)」としては複雑な思いを抱いて帰宅の途を辿ることになる。

頭頸部領域にこだわり、処置や手術をも含む西洋医学的治療が功を奏する病態はないかと診察を進めるのが、耳鼻咽喉科医の定石である。いかに日常診療で遺漏なく局所を見極めるか。言うまでもなく全身の把握は大切である。だが守備範囲の検索を怠れば耳鼻咽喉科医としては失格である。仮に耳閉感に対し耳鼻咽喉科医が耳内所見をとらず、聴力検査の一つも行わず、気鬱、湿熱、少陽胆経などから事を始めることはない。ならば腹痛に他科の担当医師がどの様に取り組むかと考えれば、耳鼻咽喉科医が耳閉感に取り組む際と同様の定法をお取りになるに違いない。これが原則、漢方治療を行うにあたり耳鼻咽喉科領域に軸足を置く理由の一つである。

「耳鼻咽喉科医」かつ「漢方医」である二股膏薬的な立場から窺い見れば、西洋・東洋医学、両者ともに得手とする所があれば不得手とする所がある。ただ日々念じるのは、西洋医学の恩恵を外すことなく、そして漢方医学的手法をも駆使した、治癒のゴールに向けた走りを全うすることである。