花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

天下の名城、大阪城は落ちず

2018-02-15 | 医学あれこれ


耳鼻咽喉科領域の回転性めまい疾患を形成する条件は二つ、病位がどちらか一方である「一側性」、そして疾病の発症から頂点までの進展が急激で速い「急性」である。一側性病変であっても障害の進行がゆるやかである場合、また両側の障害が同時期、同程度におこる場合は、回転性めまいよりもふらつきや浮動感が主体となる場合が多い。どちらか一側の内耳(前庭)に生じた障害は、あたかも等しい高さの下駄の歯の片側が急に短縮したような状態を引き起こし、身体はバランスを崩して歯の高さが減った側(機能が低下した側)に転倒する。

ところで一側難聴の病態が固定した後に、健康側の耳が肩代わりして両耳分の聴覚を獲得するということはない。一方、平衡系は一側の前提機能低下や廃絶がおこっても、対側の前庭神経核をも含む脳幹や小脳神経系を介する中枢性の代償機構の発達が起こり、破綻した平衡システムを再構築するために前庭眼反射(VOR)や前庭脊髄反射(VSR)のremodelingが生じる。頭部や躯幹の姿勢を適正に保ち運動を可能にするインフラが再構築される結果、再び歩行や運動が可能になってゆく。

その過程はあたかも、大阪城の一角が攻撃を受けて機能不全に陥るとも、幾重にも張り巡らせた外堀や内堀、さらには堅固な真田丸のような防御ラインで本丸への侵襲を防ぐかの如くである。平衡システムはやすやすと白旗を挙げることなく、機を待ち捲土重来をめざすのである。左右の蝸牛と聴覚中枢を結ぶ経路を主体とした聴覚系に対し、平衡系に関連する身体器官は頭部に限局せず、頭部より下にも存在する。めまい疾患の治療において、耳鼻咽喉科医が守備範囲として内耳、前庭病変に注意を払うことは必須であるが、全身に目を向けねばならぬ理由のひとつがここにある。