花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

西洋医学と東洋医学

2016-11-19 | 漢方の世界


東洋医学を実践するのは決して医師だけではないが、現行の日本東洋医学会が認定する漢方専門医は、医師免許証を有し日本専門医認定機構の定める基本領域に属する学会の認定医あるいは専門医を有することが認定の基本条件である。隣国事情を伺えば、中医学、韓医学を修める道と西洋医への道とは完全に分離されていて、日本のように西洋医かつ漢方医(東洋医学医)として同一人が二足の草鞋を履く国は稀である。この利点の一つは一人の治療者に於いて両者のすり合わせや実践が容易であることだろう。各々の科を軸足とする西洋医が、症例検討会や臨床の現場において共有する東洋医学という場で見解を出し合い、診断・治療法をより良く煮詰めてゆく過程は、まさに日本だからこそ行える東西を融合した医療の実践である。

そして昨今は、西洋医学的な病態解析をからめた漢方の講演や論文がとみに増加した。EBMの旗印の下、自然科学的な手法で検証済みということは現代において権威あるお墨付きである。自然科学の洗礼を受けて恩恵を被ってきた現代人にとり、自然科学こそが信ずるに足る正しい道であり、教義に則らない(科学的にエビデンスが確立されていない)ものは非科学的で異端でしかないのだろう。また東洋医学の完全否定ではないのだが、現代西洋医学的解釈が困難な陰陽五行理論などの東洋医学的パラダイムは荒唐無稽な空論にすぎません、漢方製剤は使ってみたいが東洋医学的理論を学ぼうとする気も興味もありませんと高らかに公言なさる医師達もいる。訳がわからぬパラダイムとまで言うならば、どうして漢方方剤に手を出そうとするのだろうかと私は不思議に思う。もし自分がその立場に立つ人間であるならば決して漢方方剤は使わない。何故ならこれらの方剤は自然発生的に生まれたのではなく、紛れもなく東洋医学的パラダイムが産み出して来た産物であるからだ。方剤におけるエビデンスをいくら重ねようとも、出自が其処にある限り内部に孕む西洋医学的な不確定要素をゼロには出来ない。東洋医学的パラダイムを否定する立場で方剤を使うという事は、言うなればトロイの木馬を己が陣地に引き入れることである。

さて自身の足場に戻るが、文目も解らぬ十八歳で西洋医学の門を敲いて以来、刷り込まれた西洋医学が私もまた骨の髄まで染まっている。中医学や日本漢方を学んだのは、西洋医学教育を経て耳鼻咽喉科専門医となった遥か後である。今当院で東西折衷の耳鼻咽喉科診療を行っているのは、まず現在の日本で西洋医学を無視した医療が病人の利益には決してならないと考えるからである。そして加えて、東洋医学の導入によりさらなる利益を提供することが出来るという信念を持つ為である。仮に現時点で西洋医学的な立証がなされなくとも、東洋医学における種々の理論が回復・治癒への手掛かりを与えてくれるならば、それを作業仮説として採択するのに私は何ら躊躇いはない。さらに言えることは、もし東洋医学独特のパラダイムに触れる機会がなければ金輪際得られなかったであろうと思える着眼点が実に多いのである。耳管開放症に建中(肚を立て直す)の治法を用いる、末梢性めまい症に身体を貫く竪の観点を持ち込む、養生の必要性を痛感した四季を通じた季節病等々、私が西洋医一辺倒でいたならば、日常診療に有益なこれらの視点を得ることは到底出来なかったであろう。これがこれからもハイブリッドな姿勢を貫こうと決意する大きな理由なのである。