花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

花類薬と薬茶│生薬になる花と薬用茶

2015-02-15 | 漢方の世界


生薬となる植物は多いが、その中でも花類薬、花が薬物となる植物として、『中草薬彩色図譜』には丁香(ちょうこう)から蝋梅花(ろうばいか)まで27種が掲載されている。これら花類薬の効能をまとめた論文が中医雑誌に掲載されていたので御紹介する。(王光銘、他: 花類薬在調節脾胃気機昇降中的応用, 中医雑誌 56(2), 176-177, 2015)

まずは中焦に存在する脾胃の概念、脾胃の機能を押さえておきたい。脾胃は「脾」と「胃」であるが、解剖学的な的「脾臓」と「胃」と同等ではない。西洋医学的には上部消化管の他、膵臓、肝臓、胆嚢、小腸の臓器の機能を含む消化器系の器官群に相当する。本題に入るが、脾は昇清(水穀の精微(栄養物)を吸収して上焦の心、肺に運び上げる)、胃は降濁(食物を受納し、消化物を下焦の下部腸管に降ろす)を主(つかさど)る。即ち脾は上に昇らせ、胃は下に降ろす働きを有するので、脾胃は気機昇降(気機とは体内の気の巡りを言う。)の枢(枢要、かなめ)と位置付けられる。この脾胃の昇降に大きな影響を与えるのは肝の疏泄と肺の粛降機能である。脾胃病の患者の多くは、元来脾胃の機能が虚弱な上に湿熱、気滞、血瘀などの病理機転が加わっている。そのために清熱袪湿、理気解鬱、活血化瘀などの目的にて苦寒薬、燥湿薬、活血薬の薬剤を使用するのであるが、これらは胃を障害、陰虚や津虚を悪化させ、あるいは出血傾向を招くなどの副作用もたらすことがある。生薬になる花は「花類薬気味芳、薬効平和、多為軽霊活溌、薬性流通之品」(香が芳しく作用が穏やかで、多くは自在に活発に動き、流通する性質である。)であり、脾胃病の治療にあたり脾胃の気機昇降の調節に適していると述べられている。ここでは花類薬を以下の四種類に分類し、昇清降濁に働く他に、湿を除く、肝気を動かす、あるいは鬱熱を取ることにより気の昇降の調節に働くものに分けられている。

1.昇清降濁: 脾が清を昇らせ、胃は濁を降ろして平衡をとる作用。主要生薬は、葛花(かっか)、旋覆花(せんぷくか
2.化湿和胃: 余剰の湿をさばいて胃を和ませる作用。主要生薬は、白扁豆花(びゃくへんずか)、厚朴花(こうぼくか)
3.疏肝理気: 肝気を通し気の滞りを解き放つ作用。主要生薬は、玫瑰花(まいかいか)、緑萼梅(りょくがくばい)
4.清熱解鬱: 熱毒を除き鬱結を除く作用。主要生薬は、蒲公英(ほこうえい)、合歓花(ごうかんか)

葛花はこのブログでも葛根(かっこん)の項で御紹介した。旋覆花はキク科オグルマ、白扁豆はフジマメ、厚朴はホウノキ、玫瑰花はバラ科マイカイ、緑萼梅は萼の色が緑色の梅で、蒲公英はタンポポ、合歓花はネムノキである。論文の末尾には、2年間にわたる上腹部不定愁訴を主訴とした48歳女性、慢性浅表性胃炎(表層性胃炎)症例に対して、二陳湯をベースに厚朴花、白扁豆花、蒲公英、合歓花、旋覆花を加味した処方で改善をみた報告が挙げられている。

花の生薬はこの様な煎じ薬以外にも、薬のようにして飲む薬用茶としても用いることができる。下の『中華養生薬茶』は私の愛読書の一つで、季節、体質や病証に合わせて薬のようにして飲む各種の薬茶が挙げられている。気鬱質養生薬茶の項では、玫瑰花、仏手、合歓花に沸騰したしたお湯を注いで作る、疏肝理気の働きのある玫瑰花茶が紹介されている。花ではなく葉であるが疏肝解鬱の薄荷を加えてみても、薬茶の方向性は同じで爽やかな飲み口である。薬茶はお茶がわりに飲むのであるから、煎じ薬のように何十分も煎じるということはない。花を用いた薬茶ならば、振り出し(茶こしかガーゼに包んで熱湯につけて数分揺する)でもよいが、お気に入りの器に浮かべた上にお湯を注いで、眼を楽しませながら飲めばさらに効果が引き出せるのではないだろうか。冒頭の写真は、奈良絵の赤膚焼で飲む、玫瑰花を加味した薬茶である。