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バラード

2010-03-07 | Weblog





クリスティーヌ ド ピザン (1363-1400)



ピザンという人は父上がシャルル5世に使えていたことから生まれ故郷のヴェネツィアを幼少の時に去りパリで育つ。
若くして夫と死別、3児を抱えて文筆に生活の資を求めた。





 Ballade     バラード


私はひとり   ひとりのままでいたい

私はひとり   やさしいあの人は残していった

私はひとり   連れもなく かしづくべき人もなく

私はひとり   嘆きにくれ 身も世もあらず、

私はひとり   やつれるまでに胸がふさいで

私はひとり   誰よりも寄るべをなくして

私はひとり   友もなく取り残されて。



私はひとり   戸口でも 窓辺でも、

私はひとり   物かげに人目をのがれ、

私はひとり   われとわが涙に溺れ、

私はひとり   嘆くにつけ 和むにつけて

私はひとり   それだけが身にふさわしく

私はひとり   この部屋にこもったまま、

私はひとり   友もなく取り残されて。



私はひとり   どこにいても 何から何まで、

私はひとり   行くにせよ とどまるにせよ、

私はひとり   地上のどんなものよりもひとり

私はひとり   誰からも見捨てられて、

私はひとり   手ひどくうちひしがれて、

私はひとり   泣き沈むこともしばしば、

私はひとり   友もなく取り残されて。




殿よ、いま   私の苦しみははじまりました、

私はひとり   ありとあらゆる悲嘆にさらされ、

私はひとり   桑の実よりもなお蒼ざめて、

私はひとり   友もなく取り残されて。
                          
                       安藤元雄 訳


「百のバラード」からの一つ
原語では行の末尾がすべて韻をふまれ流れるように読まれたのだろう。

この詩は今の僕の心情とはいえないが、
気持ちが低迷している時はこんな詩を読み自分の人生と対比させて見ると
いかに自分が幸せであるか思い知らされるというもの。
中世期に37歳という生涯は短かったのか十分長かったのかははかりしれない、
600年という永い年月が過ぎた今でもこうして一人の人間の感情を揺さぶることができることだけでも彼女の人生は十分に人間としての価値があったいうものだ。