うたのすけの日常

日々の単なる日記等

猫と暮らす

2006-04-02 09:36:07 | エッセー
 あたしども夫婦の飼い猫花子は、拾い育てた野良猫、白の生んだ一匹である。白は勿論、兄弟である太郎、次郎も既に亡い。白は老衰で、太郎は交通事故、次郎は生まれながらの心臓病で苦しみ、見るに耐えられず医者の勧めもあって安楽死の処置をとった。一匹のこった花は七才、人間に例えれば老境に入りかけたというか、あたしどもと大差ない年齢である。
 定年後数年たった今、夫婦だけで住む生活に、花は心の慰めとして掛け替えのない存在だが、反面、ずしりと心に重荷を負わしている、それも年を経るごとに。
 妻は常日頃あたしに向かって言う、「一日でもいいからあたしより先に逝ってください」。しかし最近妻のこの言葉がむなしくきこえてならない、二人の間にもの言わぬ花という生き物が立ちはだかっているからだ。人見知りの激しい極端に臆病な性格である、あたしども以外に決してなつかず餌も受け付けぬ、異常ともいえる恐怖心の強い猫である。
 花にはあたしども抜きで生きていく術がない。妻はこの事を口にしない、辛いのであろうと思う。彼女の目にはあたしと花が二重映しになっているのではないだろうか。
 常に人間の目線より上の箪笥やテレビの上にしか安心をえられぬ花子。あたしは妻の言葉をなぞってつぶやく、「花よ、一分でもいい、あたしより先に安らかに死んでくれ」と。
 なぜにあの時、野良猫の白を、多分捨てられたのであろう白を、家の中へ招じ入れてしまったのか、鳴き声に耳をふさいでいたら、今の花はいない。
 だがあたしはそんな後悔を押しやり、今日も花をみる。