うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 あすか共和国の興亡(1)

2007-03-22 13:42:26 | 小説 あすか共和国の興亡
あすか共和国の興亡(1) ミスで消えたので再録                             (1) 新興都市あすか市は東京の西に位置し、丘陵の連なる山と河の自然を未だ顕著に残した、緑と美味豊かな水の街として近年発展の一途を辿っている。四車線の国道が市の中央を縦断し都心と一直線に結ばれている。今、その国道の一角から白亜の殿堂といってもいい建物が見える。その豪華さは映画の中の一コマともいえる、とにかくはかり知れぬ二階建ての豪邸である。その一階の大広間に、豪華華麗なシャンデリヤが陽光を見事に反射させ、燦然と柔らかな輝きを一杯に飛散させている。重厚な扉を配した玄関の右手に螺旋階段が上階にしなやかに曲線を描き、その脇のコーナーには重量感あふれる応接セットが置かれている。配置された調度品がきらびやかに広間の各所で息づいているようだった。扉を開ければ車寄せ、広大な前庭中庭外庭と続き、テニスコート、プールを配している。そして国道とは、瀟洒な門扉と、手入れの行き届いた花壇がしつらえられた土塁で遮られている。大広間では大テーブルを中央に中小のテーブルが配置され、その上に盛りだくさんな料理、季節のフルーツが山を成し、ワインが抜かれ色とりどりのジュースが林立している。今日はこの家の少年の誕生日のパーティである。少年の友達男女三人ずつに、それぞれ母親が付き添い、パーティも今がたけなわといったところである。奥の厨房からお手伝いさん一人が小まめに行き来する。この家の女主人秋田緑が、穏やかな口調でお手伝いさんに何かと指図している。春の日差しが広間一面に射しこみ、母親たちの衣裳が派手やかに舞うようである。 今しもテーブル上にバースディケーキが置かれ、ローソクに火が灯されようとしている。その時である、突如パトカーのサイレンがけたたましく鳴り響き、車の軋しむ音が広間の女性子供の耳をつんざき、何ごとかと広間は騒然となった。それもつかの間、短く自動小銃らしき銃声がして怒声が交わり、母子たちの悲鳴が騒音を増幅する。その瞬間、扉が激しく開き数名の迷彩服の男たちが乱入して来た。手に手に銃をかざして怒声を上げる、その怒声に母子たちの悲鳴が交差し、男達の床を踏み歩く音がく天井に激しくこだましていった。母子たちは突然の出来事に顔色も青ざめ、一箇所に走りより肩を寄せ合った。  侵入してきた男たちは総勢七人、何れも野戦帽をかぶった頑強な若者たちである。リーダーの昭島が懸命に声を枯らして指図する。それに答える男たちの行動は素早く無駄が無い。「カーテンを引け、厚いやつだ、窓際にバリケードだ」それに沢田が応える。「車を玄関に横付けし直せ、バリケード代わりだ。中のもの残らず降ろすの忘れるな、何でもかまわないから積み上げるんだ」島元がテーブルを窓際に引き寄せようとするのを沢田が引き止めた。「待て、予測通りだ、バリケードの必要はないぞ。窓は小さいし腰高だ、おまけにスライド式の鎧戸が付いてる」「ほんとだ、それも分厚い鉄板だ。一応カーテン引くだけで十分だ」島元の声が和む。その時元井が声を荒げた。「誰か子供たちを静かにさせろ、ご婦人たちを静かにさせるんだ」  「君たちにはなんにも乱暴しないから温(おとな)しくしててくれ、頼むよ」井沢が穏やかな口調で母子たちを説得する、皆は脅えながらも互いに庇いあい身を固くし声を殺した。元井の怒声に吃驚した昭島も慌てて言葉を継いだ。「そうです、それでいいんです。何も心配ありません、協力感謝しますよ」沢田は中央に立ち、「テレビは動かすな、そのままそのまま。電話の位置を確認しとくんだ」田代が呆れたような声を上げる。「ドアは鋼鉄製ときてる、ロックすれば完全だ」昭島があたりを見回しながら島元に言う。「島元、窓から外の様子を見張ってくれ」「オーケー」「カーテンの隙間からだ。絶対中を探らせんじゃないぞ。双眼鏡はあるな」  「ある、任してくれ」  「よし、完璧だ」沢田が島元の後ろからカーテン越しに外を見て仲間に指示した。「気は抜くなよ、相手を嘗めるな」「そうだ、もう一度点検だ。テレビも電話もそのままにしてあるな。テーブルの上のもの厨房に片付けるんだ」昭島は胸を張って言い、全員に「ようし、これでようしだ」と高らかに言い放った。 やがて広間は勿論屋敷全体に静けさが戻った。大広間は完全武装の男たちが仁王立ちに立ち、土塁に囲まれた戦場さながらの有り様である。男たちはそれぞれの与えられた持ち場に立ち、母子たちはきれいに片付けられたテーブルの前に悄然と立っている。サイレンだけが高く低く間断なく聞こえている。 昭島は声を張り上げる。「皆さん、突然の訪問申し訳ありません。頭を下げて済むものではありませんが、これだけはお約束します。あなたがたに決して危害は加えません、全員で誓います。そうだなみんな」その声は妙に明るい。「誓います」男たちは静かに言って深々と頭を下げる。井沢があとを受けて如才なく笑みを浮かべて言う。 「さあ、適当に椅子にかけててください。気持ちを楽にして、そういっても無理でしょうが」沢田が持ち前の精悍な表情で、それでも今は人質状態の女性たちに静かに言う。 「我々にはまだやることが残っておりますので、とにかく騒ぎ立てることだけはしないで下さい。これはお願いです。島元、外の様子はどうだ」「パトカーが二台敷地内に半分突っ込んで停まってる。道路の方には警察車両ってやつか、それにデモのときよく見かける放水車も停まってるぞ。大型の救急車も来てる」「警官は」「モチ、完全武装ってやつだ。盾構えてうじゃうじゃいる」昭島がリーダーらしい貫禄で命令を出す。  「奴ら、いまのところ戸惑ってるんだ。とにかく先手必勝だ。先手々々で行く。元井と田代、代田、二階を調べろ」三人は無言で頷くと、身を翻して階段を駆け昇って行った。沢田がその後から大声で怒鳴る。「カーテンを引き窓はロックし完全にバリケードだ。ベッドでも何でも使うんだ、電話線は切れ」昭島が恐る恐るといった物腰で、女性たちに質問を投げる。  「ここの家の奥さんはどなたでしょうか」しばらく沈黙の続いた後、秋田緑が一歩前へ出る。男たちにひけを取らぬ長身である。そして怒り心頭に達した面持ちで早口にまくし立てた。「私です。秋田といいます。何ですかこの無法振りは。いいですか、私の言いたいことは、先ほどのあなたがたの誓いを完全に履行して頂くことです。それは私の責任でもあります、息子の誕生日会にお招きしたお子さんやお母様方に、それは恐ろしい目に遭わしてしまっているのですから」昭島は慌てて野戦帽を脱いだ。「わかりました。改めて誓いますよ」井沢も帽子をとり、  「わっ、凄い、尊敬しちゃうな。俺たちは暴力団じゃありませんから乱暴はしません。信じてください」「子供たちにはとくに恐怖心を与えないように」井沢はにっこり笑い、「大丈夫ですよ。みんな怖がんなくたっていいんだよ」そう言い子供たちを見回した。それに翔太が胸を張った。「僕、怖わくなんかないよ。面白いよ、テレビドラマみたいだもん。僕たち人質なんだろう」「そうだ、それでいいんだ。君、名前は?」「翔太!」「私の息子です。翔太、お友達とテレビでも見ていなさい」緑の言葉に沢田は慌てた。  「一寸待って下さい。そのテレビは俺たちに使わして貰う」そして腰の雑嚢から無線機を取り出すと、「おい、元井か、どうだ二階の様子は。そうか、完璧に出来上がったか。なに、部屋は全部並列に並び、ベランダが各部屋通しであるんだな。うしろはどの部屋も壁か、廊下はそっち側だな。出入り口はそうか、建物の両端も壁か、そうだな。なに、パソコンがある、ふーん、テレビもな。テレビはそのままで構わないよ。パソコンは下へ降ろしてくれ。電話は切ったな」沢田が無線を切ると、二階から指示されたパソコンを抱えて三人が降りて来る。元井が呆れたような声を上げる。  「びっくり仰天だよ。部屋数八っつ、ゲストルームに子供部屋、バスにトイレ。豪邸そのものだ。連絡したとおり守るには絶好な建物だ。ガラス戸には分厚い鉄板の鎧戸付きだ。下と同じでバリケードの必要なしだ」代田は興奮していた。「階段上がったところから、部屋を通らずにベランダに出られるんだ。ベランダの壁には飾り穴があって、見張るのにお誂えだ。銃眼にもなるし」沢田は得たりと満悦気に三人に指示を出す。  「ご苦労、代田と元井はベランダに戻って見張っててくれ。田代、お前は屋上だ、そこに張り付いててくれ。何か起きたら俺に無線をくれ。みんな忙しくなるぞ。パソコンは三台か、ここに一台よし、一応テーブルに置いてくれ、後で壁際にセットだ」昭島も安堵の面持ちで、改まって秋田緑に向き直った。「奥さん、誠に申し訳ありませんが、多少プライバシイを侵すことになりますがお許し下さい。しかし建物の中の移動はご自由です。皆さん何処でお休みになっても、またお好きなときお好き場所で食事をなさっても結構です。しかし絶対に窓のそばに寄らぬこと、外を覗かぬこと。決して建物の外へ出ようなんて思わないで下さい」「昭島」沢田が昭島を遮り、冷ややかな口調で繋いだ。「あとは俺が言う、もしそのような行動に出た場合拘束します。最悪の場合縛らなくてはならないかも知れません。子供でも例外ではありません。お母さんたち、きつくそれぞれのお子さんに言い含めて下さい。例え逃げ出せてもみんなが一緒に逃げ出すなんてことは不可能です。残された人たちに俺たちは苛酷な行動に出ざるを得ません。どうか俺たちにそんなことをさせないで下さい」秋田緑が沢田の言葉に顔色も変えずに応じた。  「随分とまあ、お上手な脅迫ですこと」昭島がとりなすように言った。  「お言葉を返すようですが、決して脅迫などではありません。お願いをしているのです、ご理解下さい。沢田、厨房の方を見て来てくれ。奴らもそろそろ行動に移るころだ、早いとこ厨房の窓や入り口、それにトイレの窓も完全にバリケードしなくては。井沢、一緒に行ってくれ。それから皆に帽子は取れと伝えるんだ」島元は帽子を取り、窓の外を警戒しながら沢田に言った。「その前に皆さんの携帯電話を預からして頂こう、子供たちのも一緒に」 沢田は、「おっ、そうだった、よく気がついてくれた。奥さんたち、それから君たちも携帯電話を提出して下さい。今も言いましたが手荒な真似はしたくありませんから、身体検査まではしません。どうか素直にみんな残らず提出してください。じゃあ昭島、あと頼んだぞ」昭島は二人が厨房に消えるのを見送りながら、「手早くして下さい。奴らそろそろ行動を開始しますから」秋田緑は手元のバッグから携帯電話を取り出しながら、「皆さん、この際逆らわずに言うとおりにしましょう。君たちの中にも持っている人いるでしょう。それより昭島さん、昭島さんですね、あなたがリーダーですか」「一応…奴らに言わせれば主犯です」「そうでしょうね、ところであなたがたはさっきから奴ら奴らと言ってますが、それは警察のことでしょう。奴らなんて言い方はお止めなさい。警察と呼びなさい。それから私たち、今は仕方なく指示通り従っておりますが、心のうちは煮えたぎっています。わたくしを含めてここに居る皆さんは、いままで他人からこんな高圧的な無礼な言葉を浴びたり、脅迫を受けたことはありません」昭島は緑の剣幕に冷静に応じた。「おっしゃることいちいちご尤もです。仲間にも伝えておきます。そうでした、叱られついでといってはなんですが、これだけは前以てご理解を頂いておきたい。これから警察といろいろやり取りが行われますが、その際、俺たちの口から万が一過激な言葉が出ましても、これは決して本心からではないということを、承知しておいて頂きたいのです」緑は皮肉を込め、昭島をきつい目で見ながら、「俺たちの要求を呑まなければ人質を一人づつ殺す、ということですね」「言いにくいことを代わりに言って頂き感謝します。その通りです。しかし本心からでは決してないことをご理解頂きたいのです。それにそんな言葉は使いたくはありません」そのとき翔太が叫んだ。「わあぁ、テレビでよくあるよね。でも最後には勇敢な人質が強盗をやっつけちゃうんだ。ねえママ、そうだよね」島元が窓の外を見たまま笑いながら、「この親ありてこの子ありか。坊主、映画のようにはいかないかもよ」「そんなことあるもんか」「翔太、黙ってなさい。窓の人約束が違いますよ、余計な発言は謹みなさい」  「スイマセン」島元は素直に頭を下げた。翔太に駆け寄った婦人たちも、ほっとした表情を浮かべる。昭島は皆に椅子に掛けるように促し、女性たちはそれぞれの子供の手を取りテーブルに寄って来た。そして椅子に静かに腰を落とすのだった。「秋田さん、そして皆さん、改めて全員を代表してこんな事態に皆さんを巻き込んでしまったことに深くお詫びします。我々としても計算外の事態に遭遇してしまったわけでして、こうしてあなたがたに、こんな形で相向かわなくてはならないということは、まったく不本意な出来事なんです。どうかご理解下さい。警官に追われ止むを得ず秋田さんのお宅に飛び込んでしまったのです。我々としては緊急避難そのものなのです。窮鳥懐に入れば猟師これを撃たずとか申します。どうか秋田さん始め皆さんのご理解を頂きたいのです。決して皆さんを盾にして、どうこうする気など毛頭考えておりません。あくまで皆さんと友好的に事態の推移を見守り、分析し解決していきたいのです」「また随分と手前勝手な言い分ですこと。でもあなた方の立場は理解できます。窮鳥ですね、ほほほっ、そのようですね。私たちもあなた方が、紳士的に振る舞うなら敢えて騒ぎ立てはしません。何の利益も御座いませんからね。よろしいでしょう、ほかの方々や子供たちは私が極力宥め、無闇に脅えることのないよう計らいます。取り敢えず皆さんの出方を見守ることにしましょう」昭島は深々と頭を下げた。「ありがとう御座います、感謝あるのみです。どうぞお好きな場所にお引き取りになって下さい」 今は人質の身となった女性たちは、みんな固まって二階へと足を運ぼうとしていたが、お手伝いさんが率先して飲み物を厨房から持って来る、秋田緑がそれを手伝う、それを見て子供たちと厨房へ向かう二人を追った。どうやら秋田から離れるのがたまらなく不安らしい。そして各自めいめいにトレイに食べ物飲み物を載せ、一団となって階段を上がって行く。入れ違いに一団を振り返りながら田代が駆け降りて来た。沢田、井沢も厨房から戻って来る。「沢田、どうだ厨房の様子は」田代がそれを遮り、「その前に俺の報告から聞いてくれ、事前の調査通り一言で言って、この建物は守るに完璧だ。両端は窓無しの壁、背面は勿論壁だけ。おまけに造成されたコンクリートの分厚い崖が垂直に四階ぐらいの高さで迫っている。守るのは正面だけだ。屋上からは攻めて来れん。太い鋼鉄の網目の鉄傘で覆われている。二階のベランダから交替で見張れば十分だ。勿論油断は許されないが」「田代、ご夫人方はどうした」螺旋階段を見上げながら昭島が聞く。「みんな上がったところの部屋に入った。先頭にいた奥さんきつい女だな、俺の顔睨んでったよ」「その方が秋田夫人だ、今のところ夫人には気を抜かないことだな。しかし気丈なご婦人だ、見習わなくちゃ。さすがだ」「ところで厨房だが」「おう、どうだった沢田」「防備は安心していい。厨房はホテル並の設備だ。大型の冷蔵庫に冷凍庫、中にゃ魚や肉の塊がぎっしり。その他もろもろだよ。おまけに非常用の食料飲料水がしこたま保管してある。井戸水もモーター付きで配管済み。それに自動発電機が備えられている。予想外の収穫だ」井沢がにこにこしながら補足して言う。「それに玄米が山と積んで。精米機まで完備だ、どうなってんだこの家」そのとき島元が怒鳴る。  「おっ動き出したぞ、門扉の前にずらっと盾が並んだぞ」「よし、テレビをつけてくれ。元井と代田はベランダだが、島元、お前もこっちへこいよ、ミーティングだ。男たち五人が椅子を引き寄せテーブルを囲んだ。

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