うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 小説を書きました4

2007-03-09 04:02:28 | 小説 あすか共和国の興亡
              あすか共和国の興亡4                       

                  (4)
対策前線本部、所謂合同捜査本部周辺は緊張が渦巻いているといっても過言ではない。破壊された門扉まえの国道は、広範囲にわたって交通は遮断されている。報道陣は遠くに押しやられ代表とでも言うのか、限られた数人の記者カメラマンが警官に先導されて、軍事基地と化したような周辺を行き来している。制服私服の幹部警察官が居並ぶ本部のテーブル。苦虫を潰したあすか署の署長、日本橋署長。警視庁の警視が上席に、警視庁の特殊急襲部隊の隊長の姿が今は見えない。 あすか署長が怒り心頭に達したかに、声を荒げて周囲の部下に当たり散らしている。
「なんてこった、奴らに機先を制せられた」幹部がなだめる様に、  
「しかしこの場合、人質の心の安定が第一ですからやも得んでしょう。一歩後退二歩前進の気構えで」
「きれいごとを言うな、学習用品とか教材、運動用具とか、なに企んでやがんだ奴ら」
「長期戦の構えではありませんか。人質の精神的ホローを図っているのです」
「そんなこと君に言われんでもわかっている。おめおめ奴らの要求を呑まなきゃならんのが腹立たしいんだ、おのれえ!今に見てろ。それより時間内に、要求してきている物資は揃うのか」別の私服幹部が自信一杯に答える。   
「人質のご主人、学校関係、それに進学塾の「請負塾」薬局にと迅速な協力を要請しております」
「そんなことはわかってる。時間に間に合うのかと訊いてるんだ」
「間に合います」
「それでいいんだ。それよりこの費用誰が持つんだ」
「それは、署としはこんな事件初めてのケースでありまして、この件につきましては種々検討してみないことには、現時点では結論は出し兼ねるわけでありまして」
「いまは緊急事態だぞ、持って回ったような言い方は止めたまえ。なに考えたんだ」
「ですからこういうときに、費用がどこからどうのとおっしゃってる場合ではないと、恐れながら考える次第でありまして…」
「何だよその言い方は、分かった分かった」幹部、にやにやしながら、
「署長、こんな時に外務省のように使い道、勝手自在の機密費なんかあるとよろしいですな」
「あのな、今この場合にだ、よくまあそんな脳天気なセリフが言えるよなあ。なにか、君が要人外国訪問支援室長ってわけか」
「いえ、そんなつもりでは」幹部は隣の制服に小声で言う。
「こっちにだって内部工作費って奥の手があるんだ」
「なんか言ったか」
「いえ、別に」そのとき署員が一人慌ただしく衝立の陰から飛び込んでくる。一枚の紙片を幹部に手渡すのを見て署長が大声を出す。
「何事だ!」幹部、紙片を掲げ咳払いして、「署長それからご一同様、新しい情報です」警視がご一同様はないでしょうと文句をつけ、「いいから読み上げなさい」
「はっ、申し訳ありません。こんな場合、上司の方をご一緒にお呼びするのに、何とお呼びしていいものやら、初めてのことで皆目見当が付きませんでしたので、止むを得ず申したわけでして…」   
日本橋署長が業を煮やして幹部を叱責する。「ごだごだ何を下らんこと、くっちゃべってる。肝心の情報の方はどうしたんだ」
「はい、犯人一味が強奪した金を返すと「安全第一銀行」春島支店長に夫人に携帯で言わせてきました。本庁からの連絡であります」
「何だと!」
「金は要求した物品と引き換えに渡す。その際支店長を同行させるようにとのことであります。また物品の代金は別途請求書を提出しろと…」また警官が衝立の陰から駆け込んでくる。
「今度は何事だ。君、かまわんから報告したまえ」「はい、犯人からの新しい要求が警視庁にありました」「それを早く言わんか」
「はい」
「返事はよろしい」
「はい」
「まだ言っとる」
「申し訳ありません」警官は気を取り直して、胸を張る。
「犯人側の要求を本庁が承諾しました。要求の内容とは中継放送の件でありまして、旭日テレビ一社に限り、門扉より十メートル以内に取材基地を設置させよ、順次邸内の撮影を許可する、人質とのインタビューも考慮している。この処置は人質と我々、我々とは犯人一味でありますが、友好関係にあり、人質の無事であることを日本国民に知って貰いたいからである。以上であります。そして旭日テレビが頑強に取材基地の設置許可を、警視庁に直接に要請してきております」
あすか署長憤怒の形相も凄く立ち上がり、  
「奴ら捜査本部の頭越しに次々と話を進めやがって、もう頭にきた。いいじゃない、この件についちゃ警視庁に下駄を預けよう。警視庁からお出での警視殿のご意見をお聞きしよう」警視冷ややかともとれる穏やかな声色で、  
「総監がどういうお考えでそう対処されたのか、それに従うしかありませんね。それが得策でしょう」
「日本橋署長はいかようにお考えで」
「現場の中継放送なんて些細なことです。日本橋署としては、一味が奪った金を返すというなら、総監がどのような配慮で裁断を下したのかはいまのところ判断出来ませんが、受け取ってもいいのではないかと。幸い現金輸送車のガードマンには危害が及ばなかったことですし、これで金が戻れば日本橋署としては、現金強奪事件は一応の解決を迎えるわけでして、残るは人質事件の早期解決があるのみで、これは現場があすか署の管轄であるわけでして、我が署としては人質事件はあすか署主導で解決するのが筋かと。勿論全力を挙げて協力することにやぶさかではないことを表明いたします」
「随分とまた回りくどい言い方でありませんか。要は日本橋署はこの件から手を引くということですか」
「そんなことは一言も申し上げておりませんよ。協力するとたったの今明言いたしております。ただここではっきりと申し上げたいのは、人質事件の現場があすか署の管轄内という事実です。事件解決の手段、責任はそちらにあるということです」あすか署長は必死に冷静を装うっているが、明らかに怒りは爆発寸前である。  
「待って下さいよ、金を返したからって強奪事件が解決したとはとても思えませんがね」
「ですから一応の解決を見たと申しておるのです」    
「それは詭弁というもんだ、大体事件を発生現場で解決出来ず、あまつさえ犯人一味をあすか署管内に追い込んだのは日本橋署の不手際です。そればかりか、せっかく挟み撃ちしたのに邸内への侵入を許したのは、あなたの、日本橋署のパトカーですよ。自動小銃を発射されたぐらいで追跡を諦めてしまうなんて。応戦し車を体当たりさせてでも侵入を阻止すべきだったんです。敢闘精神に欠けていたんだ。そのそしりは免れませんよ。そうすれば人質事件なんか起きなかったんだ」
今度は日本橋署長がいきり立つ番である。一同成り行き如何にと固唾を呑んでいる。
「私の部下が臆病だったと言うんですか、聞き捨てならぬ発言です。撤回して頂きましょう。そんなこと言われたんでは部下に顔向けが出来ん」警視が、立場上仕方がないといったうんざりした表情で、間に入った。  
「まあまあお二人とも冷静になって下さいよ、指揮官がいがみ合っていたんでは一味に付け込まれる。警視庁、あすか署日本橋署と合同捜査本部をもったのです。どこが主でどこが副でもありません。みちのりは茨であります。いまの話はなかったことにして、とにかく協力態勢万全といきましょう。それに日本橋署長の発言は戦線離脱とも取れます。こんなこと外部に漏れたらいい恥さらしですよ」日本橋はあっけらかんとした顔で、 
「ごもっとも、ごもっとも、発言は撤回しましょう」あすか署長は怒り収まらぬ仏頂面で、
「ご同様に」伝令の警官がまた入って来る。
「犯人の要求した品物が到着しました。それと春島支店長が本庁の職員が同行して強奪金の受け取りのため待機しております。それに旭日テレビが本庁の許可証を提示し、犯人指定の位置にテレビカメラを設置するため櫓を組始めております」
「総監は犯人の要求を全てお呑みになったわけですな、お二人さん」 警視の言葉にあすか署長が不満たらたらに、
「なんてこった。せんかたない、屋敷に出向きましょう」そこへ又伝令が飛び込んでくる。
「緊急指令であります。只今内閣に危機管理センターが設置され、担当大臣が総理官邸に招集されました。あすか署長は至急出頭せよとのことであります」日本橋署長が我が意を得たりと口を出す。 
「いくら合同捜査本部といっても、やはり、あすか署に陣頭指揮を取って貰わねばならん。本庁でもそう考えているからこそ署長を呼んだのです。こちらの実情をじんわりご説明してきて頂きたい。とにかく前線本部の頭越しに話を進めて下さらんようにと。なんなら総監にこちらに出向かれ直々に指揮を取って貰いたいと。ただ今の勢いで弁じてきて下さい」
あすか署長は「ふん」と一言言って立ち上がる。
慌しく出発するあすか署長を見送った一同は、がん首を揃えて邸内に足を進めた。門扉から十メートルほどの地点には、既にテレビ局の職員たちが大勢の機動隊員が周囲を固める中で、作業員に指示し或いは手を貸して鉄パイプの櫓を組んでいる。カメラは作動され、アナウンサーがなにやら声高に喚いている。日本橋署署長が、機動隊員をかき分け作業員やテレビ局員を睥睨し、とてつもない大きな咳払いをして皆を注目させた。カメラが素早く追う。
「こら!カメラを向けんな!いいか、絶対に警察側を映してはならん、こんなこと常識だろうが、こちらの警備体制がきゃつらに筒抜けになる。分かったか!私は日本橋署、署長である。本来ならあすか署の署長が話すのが筋だが、所用で不在なので私から一言忠告して置く。いま、ここに出動している警官、機動隊員は人質の安全確保救出、犯人の速やかなる逮捕。それが最大の任務である。故に諸君はいかなる事態になろうとも、自分の身は自分で守る、その気概でいて貰いたい。そういえば分かる筈だ、いかに許可が出たとはいえ、節度を守って頂きたい。平たくいえば我々の作戦行動を妨害しないで貰いたい。以上、警視なにか」 
警視も咳払いをして、
「よろしいですか、署長のお怒りは当然のことです。また、忠告は一見厳しいようですが、これはひとえに皆さんの安全を願っての発言であります。どうかその点誤解なきようお願いいたします。それから現在ヘリコプターは飛んでないようですが、飛行は非常に危険でありますから禁止します。あたしからは以上であります」 責任者らしい局員が警視に名刺を差し出し、
「署長のお叱りごもっともであります、カメラを絶対警備側に向けないことを誓約します。それから警視、ご忠告ありがとう御座います、ご趣意は徹底させますから今後ともよろしくご配慮願います。それからヘリの件ですが、犯人側と了解が成りましたなら、報道の意義、責務からも敢行しますので…」「そうなれば構わんでしょうよ」警視はあっさりと頷き、一行は踵を返した。               

                     (5)
総理官邸で危機管理会議が始まった様子。記者団やテレビカメラ、マイクを手にしたマスコミが会議室前のドア付近に殺到して、あたふたと入室する大臣たちにフラッシュを浴びせ、マイクを突きつけて談話を取ろうと必死である。あすか署長が汗を拭き拭き記者団の波をかいくぐり、会議室に飛び込み室内を見回し末席に腰を下ろした。 議長席は空席のまま、そこへ黒と白の縦縞模様の背広で身を固めた総理が足早に入って来て着席する。
官房長官「これは総理、お早いお着きで」
総理  「当ったりめえだ」。
官房長官「ごもっともで」 一座に緊張が流れる。
総理  「ところで現場はどうなってんだ。そこの端にいんの、あすかのシマのもんだな。どうなんだ様子は!」
署長  「はい。(署長は一気に捲くし立てた)あすか署長であります。現場は本庁のお指図通り一味からの要求の物品の調達、強奪金の受け取り、旭日テレビによる中継それらの準備等、全て順調に進み、現在は小康状態にあるといったところであります」
総理  「そうかい、それはまずまずといったところだな。ところで官房長官よ、この政局多難のときっていうか、なんだな、たかが銀行強盗ぐれいで危機管理会議の開催もねえもんだろう」
官房長官「いえ、それがですね、一味の武器が防衛庁から流れてるもんで、ひょっとしたら内乱にでもなりかねえんじゃねえかと、防衛庁警察庁警視庁とも相談しやしてね」
総理  「それよそれよ、内乱はちと大袈裟だが、防衛庁の、(怒りも露に)おめえんところは一体(いってい)どうなってんでい!」
防衛長官「面目次第もありません」テーブルに両手を付いて額を擦り付ける。
官房長官「面目ねえんじゃすまねえんじゃありませんか、兄弟(きょうでぃ)」総理  「俺はな、おめえさんのたっての頼みで、防衛庁のシマをおめえさんに預けたんだぜ。大臣任命権のしくじりとやらで、またマスコミに叩かれる。俺の立場はいま、断崖絶壁に爪先で辛うじて立っているんだ。どうしてくれるんだい、指詰めるぐらいじゃすまねえぜ、ええっ!」
防衛長官「腹は出来ておりやす。ですが総理、このまま指詰めておめおめ草鞋はくわけにはいきやせん。あっしにも意地がありやす。どうかあっしを男にしてやっておくなせい。防衛庁一家を挙げて奴らを叩っ切りやす。けじめはその後でつけさせて下せい」
官房長官「防衛庁の、それは穏やかじゃねえ。法務省の、自衛隊が強盗野郎に殴り込みかけるなんて出来んですかい」
法務相 「防衛庁の、頭を冷やしなせいよ。自衛隊が盗っ人相手にドンパチやらかすなんてとんでもねえ、現行の法律では許されちゃいませんぜ」総理  「周辺有事ってのには当たらねえのかい外務省の?」
外相  (そっけなく)「ぜんぜん。総理、それよりあっしのしんぺいしてんのは、ヨルカ駐屯地の武器庫から掠められたのが防衛庁の言う通りのものだけか、ということですよ」
防衛長官「外務省の、なにかい、俺が嘘ついてるとでも言いなさんのかい。聞き捨てならねえ!確かに若けえもんのしめしがついてなかったってことには潔く頭を下げるが、この期に及んでまやかしは言ってねえ。情報公開はちゃんとしてるぜ」
総理  「まさか機関銃やバズーカ砲なんてえのは持ち出されてねえだろうな」
防衛長官(情けなさそうに)「総理い…」
総理  「冗談々々、冗談よ。それより警察庁の、今後の対策はどうなってんのよ」
警察長官「総理、まだ事件が起きてから半日も立ってねえんですよ。対策がどうのこうのって段階じゃねえんです。警視庁、現場の警察とも、まだまともに会合持ってねえんです。いまんところは奴らの要求が、度外れたもんでねえんで鵜呑みにはしてやすがね、そうそういつまで言いなりにはなりやしません。とにかく人質が、それが問題で。なにしろ外務省事務次官や「安全第一銀行」の会長の家族が人質になってるもんで。総監とも万全の策を練ってるとこで」
防衛長官「なにを言ってるでえ、人質に差別をつけるようなことは言っちゃいけねえよ」
警察長官「なにもあっしはそんなつもりで」
総理  「二人ともいい加減にしねえかい。話を戻そう。とにかくこの事件(でいり)で大事(でえじ)なのは、押し込みに防衛庁の武器が使用されてるってことだ。いいなみんな、これがいかに旦那衆を不安にしてるかってことよ、国際的にも俺の他愛のねえ失言よりもえれい信用問でいだ。そこでだ、いいか、腹を据えて聞いてくれ。人質の無事救出。犯人の国外脱出は絶対阻止、犯人の全員逮捕。これが俺の掲げる目標よ。これが全部叶えられりゃあ多少の要求は呑む。大事の前の小事と考えて、メンツの潰れるのはこの際(せい)だ、お互え我慢しようじゃねえの。どうでい!超法規なんて策はしちゃならねえ、いい恥じっつぁらしになる」
官房長官「さすが総理、腹を固めましたね。これで決まり。ところで当面の事態、状況だが総理、ここに現場のあすか署長がせっかく出張ってきてんですから、奴さんの意見聞こうじゃありませんか」
総理  「おう、遠慮はいらねえ、あすかの、言いていことがあったらなんでも言ってみな」
署長  「かたじけねえでござんす。いけねえうつっちやった。いえ、ありがとうございます。早速でありますがお言葉に甘えさせて頂きますす。今後のことであります。今後犯人一味からの要求は一切現場の前線対策本部にするようにと、撥ね付けて欲しいのであります。現場で処理出来ない場合上部にお伺いを立てるという図式を、明確に確立して頂きたいのであります。でありませんと現場は右往左往するばかりで、迅速な対応に欠ける恐れがありますのでして、その点をどうかお察し願いたいのであります」
総理  「じゃあなにかい、奴らがうだうだ言ってきても取り合わねえで、おめえさんたちに直接言えって言ってやりゃいいんだな、そういうことかい」
署長  「ご賢察の通りでございます」
総理  「それは構わねえよ、それが筋ってもんだろうな、なあ官房長官よ」
官房長官「その通りで、警察庁、異存はあるめえ」
警察長官「それはあっしからも言いたかったことでして」
総理  「聞いた通りだ、あすかの。今後はおめえさんたち現場の顔を立てるから安心しねえ。決して顔潰すようなことはしねえから、まあ骨折ってくれい」
署長  「はい、身命を賭して事件解決に邁進いたします」
総理  「おっう、その意気だ。防衛庁の、聞いたかい」
防衛長官(膨れっ面して)「へえ」
署長  「それではこの件を至急現場に伝えねばなりませんので、退出をご許可願いたいのですが。ほかにご指示がありませんでしたら…」
官房長官「ああ構わねえよ」
署長、そそくさと退出する。入れ違いに首相秘書官が入ってきて官房長官に耳打する。
官房長官「総理、現場のテレビ中継がはじまったそうで」
総理  「そうかいそうかい、見ようじゃねえの」 秘書官テレビをつける。

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3 コメント

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Unknown (志村 建世)
2007-03-09 15:52:15
総理がやくざの親分たあ、いってえどういう了見なんでぃ。うたのすけさんよう。
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Unknown (うたのすけ)
2007-03-09 17:11:02
ご免下せえ、やたらと腹の立つご時世、ちったばかし浮世離れの迷宮で遊ぶ算段でやす。
返信する
Unknown (志村 建世)
2007-03-09 19:03:26
わかりやした。当節の政治屋は、やくざのなれの果てってことですかい。そりゃあ、違げえねえ。
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