ルーズヴェルト死す<o:p></o:p>
四月十三日(金)晴
余談となりますが前稿の風太郎氏の言葉、実に身につまされた気分となりました。戦時下の学生として医学に傾倒しつつ、国の前途を憂え戦況に切歯扼腕する姿。これが平和時の学生であれば大いに勉学に勤しみ、余暇にスポーツなどを楽しめたはず。それより何より青春を謳歌、恋人と肩を寄せ合う自由もあったはず。歓楽に身を投げる老成した心境をのぞかせる必要はさらさらないわけです。わが青春に悔い、大いにあり。死と向い合わせの日々、いかんとも避けられない運命の青春です。
午前零時警報発せられ、敵らしき一目標房総半島に近接中なりと報ぜられたるも、本土に入ることなく反転して南方に去る。
午前八時半、午後三時、一機ずつ来る。花しきりに散る。
ルーズベルト、昨日午後三時過ぎに急死す。
僕達はそのとき淀橋図書館の中にいた。外は明るい春光に溢れていたが、館内は黎明のように薄暗かった。日本の図書館は、外国の図書館は知らないが、どういうものか、みな妙に冷たく陰気で、兵営の銃器庫と同一の印象をたたえている。
友人達は椅子に反り返ったり、机に足をあげたりして、ざわざわ話し合っていたが、みな妙に陰鬱だった。一ヶ月ちかい労働で、疲れて自然と不機嫌になっていたのだ。
そのとき入り口の方で、「ルーズベルトが?」「そりゃほんとの話かね?」という驚きと疑いをこめた声が聞こえた。
それは他のがやがやいう騒音よりも高いこえではなかったし、またその周囲にいた者以外は、だれもそれに気がつかない風だった。しかし、それと反対の一番遠い隅に座ってバルザックの小説を読んでいた僕は、その短い叫びに愕然とした直感を受けて、立ち上がるや足早にその方へ歩いていった。