うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 山田風太郎の「戦中派不戦日記」を読む75

2010-04-15 05:03:19 | 日記

風太郎、満開の桜に酔うが如し<o:p></o:p>

夜風呂に行く。花と星天地に溢る。路上声あり。「気持のいい晩だ。B29が来そうな晩だ。ふん」(連日連夜の空爆、焼夷弾による無差別攻撃で焼土と化していく東京。それでも自然は狂うことなく四季を演出するのですね。風太郎氏もそんな自然と向き合って、いささかロマンチックな言動に走っています。)
 八十三歳の老ハウプトマン、ドレスデンに対して行われたるアメリカ空軍のソドムとゴモラ的大爆撃に悲嘆痛憤し、ドイッチェ・アルゲマイネ・ツアイツング紙上に「余は近く神の前に出でたるとき、人類をもっと賢きものと生み給わんことを願う」云々と寄す。
 永遠にかかることをいい、かかる表現より脱する能わざる文豪の姿、尊きか、笑うべきか、痛むべきか。
 四月十二日(木)晴
 朝八時半警報発令、敵大編隊北上中なりと。先駆の少数機、或いは静岡、或いは伊豆、或いは銚子などに陽動をほしいままにし、十一時ごろ約百五十機、本土に侵入、帝都西部を爆撃して退去す。投弾の音聞こゆ。(敵は縦横無尽に日本の空に跳梁しつつも、未だ日本の軍事力を過大に見ているのか、盛んに陽動作戦に徹しているようです。)
 作業続行。午後一時B29一機また至る。
 花散り初む。桜は他の景観中に置くべき花ならず。天地四辺ただ桜花のみ。揺るるも桜、踏むも桜、触るるも桜、騒ぐも桜、ただその花に埋まるとき、その美他にくらべがたし。散る花日にかがやきひかる。
 省線の沿線。家々の庭に、桃、椿咲くが見ゆ。線路の柵の下に紫の薔薇風にふるう。樹々も土堤も、自然の微笑、衣をなぶらせつつ、日毎に青き刷毛をぬりかさねゆく。ただ空霞て、B29の航跡はおろか、姿も判然とせざるは困ったことなり。