あび卯月☆ぶろぐ

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『正論』十月号感想、佐伯啓思篇

2008-09-10 02:55:19 | 書評・雑誌
続いて、佐伯啓思論文の感想。

×××

佐伯啓思先生は京都大学の経済学者。
思想的立場としては反米保守といったところ。
経済的には修正資本主義を支持する立場(だろうと思う)。
つまり、米国型の新自由主義(あるいは市場原理主義)に反対する立場。
目下のところ、保守派の言論人の中で私がもっとも信頼を置いている方だ。
今号では「マルクスの亡霊に安らかな眠りを」という論文を発表されている。
論旨はこうだ。


冷戦下において、新自由主義者と保守主義者は社会主義勢力に対抗するという意味で混同されがちであり、当の保守主義者でさえ、左翼との対決こそが保守の本分であるとみなしていたきらいがあった。
1990年代、社会主義が崩壊し、資本主義は「勝利」した。
ここから新自由主義者の奢り、つまり「資本主義の暴走」が始まった。
それゆえ、ポスト冷戦時代において保守主義の役割は「資本主義革命」が推し進める、各国の伝統や文化への攻撃、歴史性の無視、組織の解体、社会秩序の不安定化をいかに回避するかにこそ向けられるべきであったのに保守は自らの本質を見失っていた。
その結果、90年代半ばから「構造改革」「市場中心主義」が推し進められ、現在、格差、フリーター、派遣などの問題が続出している。
これこそ、マルクスが預言した資本主義の「不安定化」ではないのか。
いわば、新自由主義はマルクスの亡霊を目覚めさせてしまったのである。
このマルクスの亡霊を安らかに眠らせることが保守派の仕事である。


と、およそ以上のようなものだ。
一言で云うと、保守派は新自由主義(これは、「構造改革」「市場原理主義」「規制緩和」と言い換えることが出来よう)に対抗し、格差などの社会問題解消に力を注ぐべきであるというものだ。
私はこの意見に全く同意だ。

いま、経済問題に関しては右派と左派の意見が一致することが多い。
これは不思議でもなんでもないことで、戦前からそうなのだ。
日本の社会主義政党であった社会党の前身、社会大衆党が陸軍の統制派と接近して右傾化していたのも経済政策が一致したことによる。
また、右翼と呼ばれている北一輝も、なるほど天皇を中心とした国家改造を唱えていたが、彼に皇室を尊崇する心なんてほとんどなかったと見てよい。
(昭和天皇を「クラゲの研究者」と呼んで揶揄したのは有名な話)
結局、北一輝は天皇を担いで経済的な意味での日本の社会主義革命を目指していたわけだ。
この目論みは北の死後、近衞内閣において一歩一歩実現してゆき、戦後日本の経済体制の基礎を形作ったがこの話は長くなるのでまた別の機会に。

つまり、右翼にも二パターンあって、天皇主義者と国家社会主義者の二つ。
保守派でいうと親米保守と反米保守に分かれる。
この辺の区分けは非常にややこしいので、詳細は省くがいま左派と経済思想において一致するのは国家社会主義者と反米保守だろう。
そもそも、親米保守というのは日本の伝統文化を称賛し、皇室を尊崇すると言う点で反米保守とも思想の一致を見るが、経済政策においてはまったく別の主張をなす。(天皇主義者についてはここではおく)
経済思想だけとってみれば親米保守は新自由主義者と言っても差し支えないだろう。
反対に反米保守は佐伯教授が指摘するところの保守主義者とみてよい。
ちなみに私の考えもこの反米保守=保守主義者に近い。
(私は自分を保守主義者とは思っていないが)
また、反米保守と経済思想の一致をみる左派は共産主義、社会主義革命を目指す左翼を意味するのではなく、せいぜいベルンシュタイン型の社会民主主義者だろう。

少々、乱暴な色分けだが、
社会民主主義者は政治的にも経済的にも左。
新自由主義は政治的にも経済的にも右。
そして、保守主義は政治的には右、経済的には左。
と、このようにみれば解り易いかもしれない。
社会民主主義者と保守主義者は経済的にどちらも左なわけだ。
ただし、こういう構図は日本にしか通用しない見方であることに注意。

さて、この構図を参考にして、今度の自民党総裁選候補を見てみるとなかなか興味深いものが見えてきそうだ。
これについては、また今度。

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2 コメント

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Unknown (saratoma)
2008-09-12 00:11:47
こんばんは。
いつものことながら勉強熱心ですね。
ご存知かもしれませんが、ブログはやめてしまいました。
今は次のステップに向けて準備中です(笑)。
返信する
Unknown (あび卯月)
2008-09-12 03:24:34
コメントありがとうございます。

ブログを止めてしまわれる件、存じております。
先日、saratomaさんのブログを拝見して大変驚きました。
私も多くの人と同じく「どうか続けてください」という旨の書き込みをしようとも思ったのですが、saratomaさんにもお考えがおありでしょうし、私のような者が余計な書き込みをすると御迷惑になりかねないなど色々思案して結局、書き込みせずじまいでした。
どうか、不義理をお赦しください。

saratomaさんのブログはネット界において、ひいては我が国の人々に与える影響が大であったと思っております。
saratomaさんのブログで多くのことを学んだ人々は決して少なくありません。私もその一人です。
いま、「今は次のステップに向けて準備中」とのお言葉を拝見して希望が持てました。
形は変われど、saratomaさんのこれからの御活躍を期待し、また心より応援申し上げます。

ただ、今現在は色々お疲れのこともありましょうから、しばらく静養といいますか、息抜きされるのもよいかと存じます。
いままで、saratomaさんは頭が下がるほど毎日全力疾走しているように感じました。
私に「いつものことながら勉強熱心ですね」と勿体無いお言葉をお掛けくださっていますが、saratomaさんに比べれば足元にも及びません。

と、やはり余計なことを書いてしまったかもしれませんが、今後ともsaratomaさんの御活躍を心から祈念しております。
それではまたm(__)m
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