あび卯月☆ぶろぐ

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福岡県知事選挙が分裂しているワケ

2019-02-12 21:40:28 | 政治・経済
福岡県知事選で自民党が分裂している。
先月末、自民党本部と自民党福岡県連が現職の小川洋知事(69)を推薦せず、新人で元厚生労働官僚の武内和久氏(47)を推薦したからだ。
小川知事は過去2回の知事選で自民党の支援を受けているにもかかわらず、一体何があったのか。
テレビや新聞の報道ではこの辺の事情が今一つわかりにくいが、一言でいえば、麻生太郎(衆議院議員、福岡8区選出、副総理)と小川知事の対立だ。
もう少し実態に即して言えば、小川知事が麻生太郎から嫌われたことが原因であり、さらに、その裏には麻生と武田良太(衆議院議員、福岡11区選出)の対立がある。
この二重構造が福岡県知事選挙における自民党の分裂をややわかりにくくしている。

小川知事は元経産官僚。麻生内閣のときに内閣広報官を務め、2011年の福岡県知事選のとき、麻生から推される恰好で知事になった。
実はこの知事選のとき福岡県連は福岡県議会のドンと呼ばれる藏内勇夫県議を推薦候補としていた。
そこに横やりを入れ、小川洋の擁立を強要したのが麻生だ。
これを受けて、当時県連会長だった武田良太は分裂選挙を避けるため藏内を説得してやむなく出馬を辞退させた。

麻生が横やりを入れたのには理由がある。
同年1月、武田良太が県連会長に就任しているのだが、本来、県連会長には麻生の就任が有力視されていた。
ところが、古賀誠ら県連内の反麻生派が武田を推して会長に就任させたのだ。
このことで、麻生と武田の関係が悪化。麻生の横やりはその意趣返しではないかといわれる。
以来、麻生と武田はことあるごとに対立することになる。(註1)
ともあれ、麻生の強固な後ろ盾があって、小川は福岡知事になったといえる。
麻生太郎こそが「小川県政の生みの親」と謂われるほどだ。

そんな麻生と小川の関係に亀裂が入ったのが2016年の衆院福岡6区の補欠選挙。
この選挙区から当選していた鳩山邦夫の死去に伴うもので、鳩山邦夫の二男・鳩山二郎と前述の藏内勇夫の長男・藏内謙が争った。
このとき、武田は鳩山二郎を支援し、麻生は藏内謙を支援した。(ここにも武田と麻生の対立の構図があることに注目)
なお、県連は藏内謙を推しており党本部に公認申請したが、党本部は自民党分裂を避けるため、どちらの候補も公認せず、当選した候補を追加公認する方針を示した。(註2)
この選挙戦で麻生は小川に藏内候補の出陣式への出席を要請する。麻生にしてみれば当然、小川は出席するはずだった。
ところが、小川は腰痛悪化による入院を理由として出陣式を欠席したのだ。
小川としては、どちらの味方もせず敵も作らないようにと安全運転したつもりだったのだろうが、これが裏目に出た。
小川のこの対応に麻生は激怒し、県議会でも麻生派の県議から「入院した事実自体が疑わしい」という声が上がるなど紛糾した。
しかも、選挙結果は鳩山に4倍以上の差をつけられて藏内が大惨敗。法定得票数すら取れなかった。
飼い犬に手を噛まれ顔まで潰された格好となった麻生の怒りは凄まじく、この件以来、小川からの面会は一切謝絶。アポすら取れない状態だという。

そして、今回の知事選である。
何としても小川を再選させたくない麻生は対抗馬として元厚生労働官僚の武内和久を立てた。
今や麻生派が多数派を占めるようになった県連も武内氏を支援。
一方、党本部は2019年1月中旬に実施した輿論調査で小川が武内を大幅に上回る結果が出ていたことから、武内の推薦に否定的な声が根強かった。
さらに1月28日には小川支持に回った武田ら県選出国会議員三名が二階俊博幹事長に対し、小川氏推薦を直訴するという動きもみられた。
しかし、その日の夜、麻生は安倍首相、甘利利明選対委員長と会談し安倍に「(武内氏の)推薦が取れないなら副総理を辞める」とまで云って、武内の推薦を直談判した。
「小川さんが強いみたいだけど・・・」推薦を渋る安倍首相に対し、麻生は「負けてもいいから勝負させてくれ。(武内に)推薦を出して戦わないと、勝てる選挙も勝てなくなる」と反論。
安倍首相も最後は言葉を飲み込み、会談後「あとは幹事長室と選対でやってください」と周囲に伝えた。
二階幹事長は「調査では現職が圧倒してるじゃないか」とやはり渋ったが、麻生派の甘利と萩生田光一(幹事長代行)が二階を説き伏せた。

こうして1月30日、自民党は武内の推薦を決定したことを発表し、名実ともに分裂選挙となった。

早速、反麻生の武田議員は「県内自民党の分裂を招き支援団体の信頼を損ねた」と不満を表明し、自民党県議からも「与党として支えてきた知事を支援しないことを支持団体や有権者が納得してくれるかどうか」と戸惑いの声も聞こえた。
そういう声に対抗するかのようにその後も麻生は小川批判を繰り返している。
「伸びているのは福岡市だけ」と云ったり、麻生渡・前福岡県知事の自動車産業振興といった実績を並べた上で「(小川県政の)2期8年で、今云ったような話一つでもありますか。ぜひ聞かせてくれ」と云ったり・・・。
また、反麻生の武田議員が小川氏を支援していることに対しては、麻生側近の大家敏志(参院議員、党本部選対委副委員長、県連選対委員長)に「安倍総裁、二階幹事長のもとで決まった。それ以外の候補者を応援するのであれば、党を出ていっておやりになればいい」と云わせて牽制し、「具体的行動があれば、しっかりとした対応をしたい」と処分も匂わせた。

更に今月に入って、麻生渡・前福岡県知事が武内候補の後援会長に就任することが分った。
麻生渡にとって小川は大学も出身省庁も同じ経歴をたどる直系。小川知事誕生の際には麻生太郎と共に支援に回っていた。
しかし、その後、麻生渡は「助言を素直に聞き入れない小川知事に感情的反発を抱えるようになっていた」(県幹部)らしく、周囲に「最大の失敗の一つは、小川君を後継者にしたことだ」と話すほど関係は悪化。
昨年春には小川に2期8年での退任を促したこともあったという。
麻生太郎にとっても前知事の応援は有難い。
なぜなら、自民党内には「(麻生太郎は)私怨で県政をゆがめている」という批判があるからだ。
前知事が反小川を表明することによって「俺の私怨じゃない。小川の県政と政治姿勢に反対しているのだ。ほらみろ、前知事も批判してるじゃないか」というわけだ。
麻生渡の後援会長就任の報に対し、小川は「私の何がいけないんだろう」と驚きとともに周囲に漏らしたという。

たしかに、どうしてこうも小川は嫌われてしまうのか。
一言でいうと、小川は政治家ではなく、役人だからということに尽きると思う。
小川県政は良く言えば、安全運転で無難。大きな失政もない。有能で真面目な役人という印象だ。
が、裏を返せば、リーダーシップがなく、面白みに欠け、八方美人で政治的な動きができない。
定例記者会見でも「国の動向を注視する」「情報収集に努める」など、役人が云いそうな常套句が並ぶ。
踏み込んだ発言をすることはほとんどなく、誰かさんと違って失言とは無縁だが注目を集めることは少なく「地味」との評価が一般的だ。

しかしそういう役人らしい振る舞いが前述の6区の補選の騒動のときのように裏目に出ることもある。
例えばこの選挙戦でも小川は、自民党が武内氏の推薦を決定した直後、立憲民主党、国民民主党、公明党、日本維新の会、社民党に依頼していた推薦の取り下げを要請した。
与野党対決と思われると不利になるという思いがあってのことだろうが、まさに役人の対応だった。
麻生太郎の言葉を借りれば「言われた側はふざけるなと思う。役人としては良いが、政治家としていかがなものか」ということになる。
すぐに武内氏を推す県議からも「節操がない」と批判が出た。
既に推薦を決めていた立憲民主党からは「ひどい話だが大人の対応をしたい」(県連幹部)と困惑気味に話し、国民民主党の県連幹部は「きちんと見極めて行動しないから節操がないと云われる。とんだ茶番だ」と呆れてみせた。
麻生渡も2月8日の記者会見で「与野党対決の構図を避けたいからと、公党との約束をああいう形で下げる。政治的に確たる信念がない」と批判した。

しかしだ、小川県政の評価は決して悪いわけではない。
2期約7年半の間に目立った失政はなく、「県連が対抗馬を擁立しても小川氏に勝つのは難しいのではないか」と話す県議もいる。
人柄についても常に低姿勢。小川の人柄を悪く云う人に会ったことはない。
知事が県内各地に出向き地元民と意見交換を行う「知事のふるさと訪問」では時間オーバーしても県民の話にじっくり耳を傾けるなど、住民に寄り添う姿勢を評価する県民も少なくない。(無論、政治家はあくまで政策と実績で評価するべきだと個人的には思うが)
それに、県民にとっては、自民党内の争いなど知ったことではない。
麻生太郎と県連は対抗馬として武内和久氏を立てたが、福岡のテレビ番組でコメンテーターを務めていた人物とはいえ知名度はゼロに等しい。
元厚労省官僚という経歴も弱い。なにより政策がまったく見えてこない。
また、今回の分裂騒動は麻生と県連による小川知事いじめと見る県民もいる。そうすれば、同情票も集まる。
小川を推す武田議員も「勝負にならんよ」「党の推薦に反し、小川氏を支援しても処分は下されない。県民感情を逆なでする裁定が出た中、小川知事への同情、支援の声は広がっている。納得しない決め方には、立ち上がることが自民党だ」と自信をにじませる。

私個人の予測としても、おそらく武内は小川には勝てないと思う。
県民にとって現職の知事である小川洋のことは知っているが、武内のことは知らない。「一体どこの誰だ?」という感覚だ。
有権者は無党派層が圧倒的多数。自民党本部と県連、そして麻生太郎が推しているからという理由で武内に票を投じる県民が多いとも思えない。
それに、この分裂選挙は政策論争による分裂ではない。小川と麻生の個人的な感情のもつれと、自民党内のお家騒動が招いたものだ。
そんな茶番劇に付き合わされるまっぴらごめんだというのが多くの県民の本音ではないだろうか。

さて、自民党本部は麻生のごり押しで勝算度外視で武内への推薦を決めた。
問題は県連だ。本当に勝てる見込みがあって武内を推しているのだろうか。
負ける覚悟で武内を担いだとも思えない。あるいはただの楽観論か。
じっさい、県連も一枚岩ではない。
「心情的には小川。表立って応援はできないが、積極的に武内を支援することもしない」「下手に動くと大やけどする。知事選は語らず、自分の選挙だけやる」と心情を漏らす県議もいる。
麻生はそんな県議の心の内を知ってか知らずか「保守分裂は瞬間的には間違いなく自民党が弱くなるが、競争も生まれる。競争をしない時に自民党は最も弱くなる」と余裕をみせる。
彼にしてみれば、どちらの候補が勝つのかはあまり大きな問題ではないのかもしれない。
麻生にとって重要なのは小川に推薦を出さないこと。これに尽きるのではないか。
そう、6区の補選のときもそうだった。小川知事と違って麻生太郎は「政治家」である。
最後に麻生太郎が6区補選当時、ホテルのバーの席で若手議員に対してこぼした言葉を紹介してこの稿を終えたい。

―おれは蔵内謙が勝っても負けても困らない。勝てば息子は麻生派に入り、父親はおれに頭が上がらない。負ければ父親は失脚して県議会は大人しくなるだろう。所詮、6区なんか関係ない。


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(註1)その後、第二次安倍内閣が成立し、麻生が副総理に就任すると県連内も麻生派が優勢となり、2013年3月に武田は県連会長を辞任している。
(註2)この選挙以来、自民党内で公認候補が割れた場合、いづれの候補者にも公認を出さず、当選した議員に対し追加公認を出す方式を「福岡方式」と呼ぶようになった。


【おまけ:福岡県知事選 両陣営支持者一覧】

小川洋支持・・・武田良太、鳩山二郎、宮内秀樹、菅義偉(官房長官)、山崎拓、古賀誠、太田誠一、立憲民主、社民党、県医師連盟、連合福岡、農政連、JA福岡中央会

武内和久支持・・・麻生太郎、大家敏志(参院議員)、甘利明(衆院議員、選対委員長)、麻生渡(前福岡県知事)、自民党本部、自民党福岡県連、県看護連盟、県商工政治連盟

中立・・・公明党、国民民主党、維新の会