あび卯月☆ぶろぐ

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愛国者としての河上肇

2013-11-07 22:35:21 | 歴史・人物
牧野邦昭『戦時下の経済学者』(中公叢書)を読んでいる。
タイトル通り、戦前の経済学者のことについて知れてなかなか興味深い。

例えば、『貧乏物語』で現在でも有名な河上肇。

河上肇はマルクス主義者として知られており、日本共産党に入党した後、昭和八年に治安維持法で検挙されていることから一般に左翼と思われている。
実際に左派から人気が高い人物だが、愛国者としての側面はあまり知られていない。

河上は岩国の武士の家に生まれ、吉田松陰を敬愛していた。
大正二年からブリュッセルに留学し、翌年パリに移り、そこで作家の島崎藤村と出逢う。
藤村は姪との関係を清算するため、大正二年から五年までパリに滞在していたのだ。

河上は藤村としばしば激論を交わしたが、あるとき藤村が「もつと欧羅巴(ヨーロッパ)をよく知らうぢや有りませんか」とたしなめたことに対し、河上は「愛国心といふものを忘れないで居て下さい」と叱っている。

同じくパリに来ていた物理学者の石原純が「日本人があまりに他の模倣を急ぐ」と批判したことに対しても、どんな国の文明でも他の模倣から始まらないことはなく、日本人は模倣するだけでなくそれを自分のものとしてそこからさらによいものを引き出す、と反論している。

また、彼の『自叙伝』には


私はマルクス主義者として立つてゐた当時でも、曾て日本国を忘れたり日本人を嫌つたりしたことはない。
寧ろ日本全体の幸福、日本国家の隆盛を念とすればこそ、私は一刻も早くこの国をソヴィエト組織に改善せんことを熱望したのである。
(『全集』続5巻、140頁)



との記述がある。

日本全体の幸福や国家を隆盛する手段として国家をソヴィエト組織に改組することが正しい手段だとは思わない。
代表作『貧乏物語』でも、貧困を解決する手段として「富者による自発的な奢侈の廃止」を訴えているが、これも方法としてどうか。

しかし、河上の国を思う気持ちには深く共感する。

現在の日本共産党は公式サイトで「河上肇は、戦前の絶対主義的天皇制が支配した暗黒の時代、非合法下の日本共産党にすすんで加わった誠実な経済学者です」と書いているが、愛国者としての河上をきちんと理解しているだろうか。
どうも、自党の宣伝の道具にしているような文面に思えてならない。

たしかに、TPPや新自由主義政策を痛烈に批判しているいまの共産党には、河上の精神が受け継がれているようにも思える。
河上は当時、自由貿易を主張していた田口卯吉の『東京経済雑誌』を批判し、保護貿易を主張していたのだ。

マルクス主義者で共産党員というと現代の基準でも左翼に分類されると思う。(私はそうは思わないが)
そして、一般的に左翼というと反日的なイメージがある。
が、左翼=反日ではないことを河上は如実に示してくれている。

高らかに愛国心を鼓舞する言論には辟易させられるが、それ以上に感情論に立脚した反日的な言論は不快である。
左翼・左派であっても反日的である必要は無い。

一部の左派が反日を生き甲斐とし、日本および日本人を貶める言論に精を出しているのは残念である。
そういう人に「日本国を忘れたり日本人を嫌つたりしたことはない」という河上肇の言葉をなんどでも聴かせたい。