3日(月).昨日,初台のオペラハウスでヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」を観てきました.新国立劇場オペラ2011-2012シーズンの第1作です.
この1週間はカラヤン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団,マリア・カラス,ジュゼッペ・ステファノほかによるCDで予習をし,音楽の全体の流れを把握しておきました.なので,字幕をあまり見ないで舞台を観ることに集中できました
キャストはレオノーラ=タマール・イヴェーリ,マンリーコ=ヴァルテル・フラッカーロ,ルーナ伯爵=ヴィットリオ・ヴィテッリ,アズチェーナ=アンドレア・エディナ・ウルブリッヒ,フェルランド=妻屋秀和ほかです.このうちタマール・イヴェーリはキザールの代役,ヴィットリオ・ヴィテッリはガグニーゼの代役です.オーケストラ・ピットに入るのは東京フィル.指揮はローマ生まれのピエトロ・リッツォです.
「トロヴァトーレ」とは吟遊詩人のことです.ヴェルディは1842年に「ナブッコ」でセンセーショナルな成功を収め,1849年の「ルイザ・ミラー」以降,人間の情熱や心理を深く掘り下げた名作を生み出したといわれています.1851年の「リゴレット」,1853年の「椿姫」とこの「イル・トロヴァトーレ」は中期の3大傑作と位置づけられています
ウルリッヒ・ペータースの演出の特徴は,本人がプロダクション・ノートに書いている通り「死の擬人化」です.全編を通して死の象徴である死神が舞台のどこかに登場し,登場人物を見守り,時には登場人物と相対します.このオペラは極端に短縮して言えば「母親をルーナ伯爵家に殺されたジプシー,アズチェーナによる復讐劇」です.そのテーマを死神に擬人化したのでしょう.
指揮者が登場し第1幕の開幕です.ティンパニの連打と全楽のファンファーレが激動のオペラの開始を告げます この部分を聴いただけで,”この公演は成功するぞ”と確信しました.”最初良ければ,すべて良し”という訳ではないですが,きびきびした指揮のもと東京フィルがよく応えて演奏しています
レオノーラ役のタマール・イヴェーリが登場してアリア「穏やかな夜に」を熱っぽく歌います 美しいリリコ・スピントです.マンリーコ役のフラッカーロは余裕のあるテノール,ルーナ伯爵役のヴィットリオ・ヴィテッリは力強いバリトンを聴かせます
第2幕冒頭の,ジプシーたちが金床を打ちながら歌う「アンヴィル・コーラス」はこのオペラの白眉でしょう 初演時から聴衆を熱狂させたと言われていますが,わかります.アズチェーナ役のウルブリッヒは底力のあるメゾ・ソプラノを歌います.
30分休憩後の第3幕冒頭のルーナ伯爵の軍隊による合唱は,いかにもヴェルディらしい勇壮な音楽です.ここでの新国立劇場合唱団の合唱力は素晴らしいのひと言です 世界からも注目されるだけの実力があると思います.マンリーコのアリア「愛しい恋人よ」は男性的な愛の歌ですが,フラッカーロは切々と歌い上げます
第4幕のレオノーラのアリア「恋はばら色の翼に乗って」はピアニッシモで,しかも情感を込めて歌われますが,イヴェーリは見事なコントロールで気持ちを込めて歌います.レオノーラとルーナ伯爵の二重唱は何と素晴らしいのでしょう
アズチェーナの「母さん,復讐を果たしたよ」という勝利宣言と,ルーナ伯爵の「これからも,おれは生きていくのか.酷い運命」という嘆息で幕が降ります.舞台の奥では死神が笑っています.
当初の”予感”どおり,今回の公演は大成功だったと思います フラッカーロの圧倒的な力強いテノール,体調不良でリハーサルの途中で降りた歌手の代役を務め,美しい数々のアリアを歌い上げたイヴェーリ,同じく代役を務めたヴィテッリの素晴らしいバリトン,当初ヴェルディがこの人を主役に考えていたと言われるアズチェーナを見事に歌ったウルブリッヒ.主役4人が,揃って素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました 併せて新国立劇場合唱団の力強い歌声と,リッツォ指揮東京フィルのメリハリのある素晴らしい演奏が華を添えました
ヴェルディには「椿姫」「リゴレット」「オテロ」「アイーダ」と名曲がたくさんありますが,「イル・トロヴァトーレ」ほど美しい,あるいは力強いアリアが次から次へと出てくるオペラはないのではないでしょうか.そういう意味で「オペラの中のオペラ」と言えると思います.個人的にはヴェルディのオペラの中で「イル・トロヴァトーレ」が一番好きです
私も、新国立劇場の「イル・トロヴァトーレ」を鑑賞してきましたので、興味深く読ませていただきました。
原発事故の影響か、歌手の交代もあったようですが、代役を務めたイヴェーリやヴィテッリはすばらしい歌唱を聞かせていただき、代役とは思えない心に残る舞台だったと私も思いました。
日本人歌手や合唱団と関係者の頑張りに感謝します。
私もブログに「イル・トロヴァトーレ」の感想などを書いてみましたので、是非読んでみてください。
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