人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

新国立劇場オペラ研修所修了公演 モーツアルトの歌劇「ドン・ジョバン二」を聴く:19期~21期の出演歌手陣と回転舞台を有効活用した舞台演出にブラボー! / ベートーヴェンの引っ越し

2019年03月11日 07時21分29秒 | 日記

11日(月)。昨日の日経日曜版のコラムにピアニストの本田聖嗣さん(1970年東京生まれ)が、「音楽家の引っ越し」というエッセイを書いています 一部をご紹介すると次の通りです

「ピアノという楽器を持ち、練習で毎日 音を出すとなると、住宅事情に困る 自分は14年間のパリ生活のうち8回引っ越した 歴史上の引っ越し魔として知られているのは葛飾北斎とベートーヴェンだが、作曲家ベートーヴェンの引っ越しの原因として、彼が片付けられない独身男だったという事情のほかに『近所迷惑なピアノの大音響』があったのは、ほぼ間違いない 作曲家もピアニスト同様、ピアノで音を出しながら作曲する ライプツィヒにあるメンデルスゾーンの家を訪ねても、ザルツブルクのモーツアルトの生家・転居後の家を訪ねても、つい考えてしまうのは『隣家から苦情はこなかったか?』ということだ

ネットで調べた情報なので どこまで信用できるか分かりませんが、一説によるとベートーヴェンは22歳でウィーンに移住して以来56歳で死去するまでに79回(1年に平均2回)、葛飾北斎は生涯に93回も引っ越ししていたそうです

このエッセイを読んで思い出したのは、ベートーヴェンの場合、大きな音で作曲をしていると、家の外で聞き耳を立てている別の音楽家(あるいは楽譜出版者)がその音を書き取って、ベートーヴェンが楽譜を出版する前に作品として売り出してしまう恐れがあったので住居を頻繁に変えた、という説です つまり、当時は音楽著作権などない時代だったので、楽譜として出版するのは早い者勝ちだったということです

ただ、本当のところは、音がうるさいのに加えて、ベートーヴェンが部屋を汚く使用していたので大家さんからいつも苦情を受けていたから、というのが説得力のある説だと思います

 

         

 

昨日、初台の新国立劇場・中劇場で新国立劇場オペラ研修所修了公演:モーツアルト「ドン・ジョバンニ」を聴きました  3月8,9,10日の3回公演で、8日・10日と9日のダブルキャストです。10日のキャストは、ドン・ジョバンニ=高橋正尚、ドンナ・アンナ=平野柚香、ドン・オッタ―ヴォ=水野優、ドンナ・エルヴィーラ=十合翔子、レポレッロ=伊良波良真、ツェルリーナ=斉藤真歩、マゼット=井上大聞、騎士長=松中哲平です 管弦楽=新国立アカデミーアンサンブル、指揮=河原忠之です

 

     

 

自席は1階14列31番、左ブロック右から2つ目です。会場は9割方埋まっている感じです

オーケストラピットには「新国立アカデミーアンサンブル」の面々がスタンバイしています  メンバーはどういう人たちか不明ですが、普段のオペラ公演でピットに入るのは東京フィルか東京交響楽団なので、それらのメンバーの有志かも知れません。新国立オペラ研修所音楽主任も務めるピアニストの河原忠之氏はチェンバロを弾き振りします

 

     

 

壮絶な序曲が演奏され、幕が開きます まずレポレッロが出てきて「トランプみたいに自分のことしか考えないご主人に仕えるのはもうごめんだ いつだって俺が尻ぬぐいさせられるんだから、たまったもんじゃないよ トランプの元個人弁護士マイケル・コーエンさんの気持ちがよくわかるよ」とは歌わないけれど、主人のドン・ジョバンニに愛想を尽かす歌を歌います ここから、ドン・ジョバンニとドンナ・アンナが争いながら出てきて、レポレッロと3重唱になり、ドンナ・アンナの父親である騎士長が登場しドン・ジョバンニと決闘して刺殺されるのですが、私は序曲から繋がるノンストップ・ミュージックがこのオペラの中で一番好きです

ドン・ジョバンニを歌ったバリトンの高橋正尚氏は国立音大大学院修了の19期生ですが、ほぼ出ずっぱりの主役を立派に務めました 演技力もあり存在感が抜群でした

ドンナ・アンナを歌ったソプラノの平野柚香さんは国立音大卒、東京藝大大学院修了の20期生ですが、歌唱力が優れているばかりでなく、演技にも説得力がありました

ドンナ・エルヴィーラを歌ったメゾソプラノの十合翔子(そごう しょうこ)さんは神戸女学院大卒の19期生ですが、出演者の中で一番、声に魅力を感じました 個性という点では最も目立っていました

ツェルリーナを歌ったソプラノの斉藤真歩さんは国立音大大学院修了の20期生ですが、よく伸びる声で、容姿もチャーミングでツェルリーナにピッタリでした

ドン・オッタ―ヴォを歌ったテノールの水野優氏は愛知県立芸術大大学院修了の19期生ですが、魅力のある高音で聴衆を魅了しました

レポレッロを歌ったバリトンの伊良波良真氏は沖縄県立藝大卒の19期生ですが、悪漢ドン・ジョバン二に振り回される従者を好演しました

マゼットを歌ったバリトンの井上大聞氏は東京藝大大学院修了の21期生ですが、声自体に魅力がありました

騎士長を歌ったバスの松中哲平氏は武蔵野音大大学院修了の16期生(賛助出演)ですが、出番が少ないにも関わらずドスの効いたバスの魅力がたっぷりで存在感が抜群でした

 

     

 

第2幕の終盤、ドン・ジョバンニが騎士長の手によって地獄落ちするシーンで(一旦)幕が降りました ここで会場いっぱいの拍手が起こりました 悪漢ドン・ジョバンニが地獄に落ちたのでオペラが終わったと思ったのでしょうか ちょっと待ってください。オペラはまだ終わっていません。残された登場人物たちによる六重唱が残っています。この六重唱こそモーツアルト・フィナーレです

さて、演出上で納得できないところが一つだけありました それは冒頭のシーンです。ドン・ジョバンニとドンナ・アンナが登場して言い争うわけですが、ドン・ジョバンニは仮面を付けているわけでもなくマントで顔を隠しているわけでもないのに、この時点でドンナ・アンナは相手がドン・ジョバン二だと気が付かないのです そのあと、父親である騎士長が殺されて 嘆いている時に、ドン・ジョバン二が慰めの言葉をかけるのですが、彼が去ってから「あの声は、私を襲った男の声だ」と初めて気が付くのです 「夜のシーンで辺りが暗いので相手の顔は良く見えないはず」とは言え、これはいかにも不自然です 少しでもリアリティーを持たせるためには、ドン・ジョバンニにアイ・マスク(怪傑ゾロのような)を着用させるとか、マントで顔を隠すように演技させるとかすべきだと思います

とは言うものの、回転舞台を有効に使った演出は効果抜群でした 通常のオペラ公演では、場面転換で大道具を動かす関係で間が空いてしまいがちですが、舞台を45度回転させるだけで次のシーンにすぐ移るので緊張感が持続され、モーツアルト特有の軽快なテンポによる音楽の流れが途切れることがありません いかにモーツアルトのオペラがアリアに次ぐアリア、重唱に次ぐ重唱で出来ているかが手に取るように分かります まさに「ノンストップ・モーツアルト」を可能にしたのが、この回転舞台を有効活用した舞台演出だったと言えるでしょう

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