今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
(お問合せ)tomytmzk@titan.ocn.ne.jp
 

疑惑の女子カメラPEN-F

2011年04月07日 13時53分14秒 | インポート

Dscf247897女性はPEN-Fがお好きですね。ゴールデンウィークに撮影旅行をされるご予定ですが・・ちょっと待ってよ。最初の印象は、外観は#2877XXでそこそこきれいなんですが、巻上げが異常にガチャガチャ。シャッターの作動タイミングも気になります。そもそも、オーナーさんの好みかも知れませんが、レリーズボタンの位置が極端に低いのにボタンと内部のシャフトとのクリアランスが大きくてボタンがカチャカチャ遊んでいる。経験的にこのようになる場合は、シャッターユニットやリンケージ関係をニコイチのように製造時期の違うユニットを組み合わせている場合になります。PEN-Fの場合は、レリーズ関係は製造時期によって細かな部分を含めると、何度もの変更を受けているのです。トップカバーを開けてみると・・おっと、思いっきり作られた個体ですね。太っといリード線を使ってね。

Dscf248134 裏側から見ますよ。やはりちょっと変ですね。この本体ダイカストは初期のタイプですね。リンケージも28万台のものではありません。シャッター幕を見ますと、初期の特徴である、表面に光沢感のあるものが付いています。製造月日から推測すると#115000付近の個体と思われますが、巻上げレバーのクラッチなどは変更後が付いていますので、或いはトップカバーと同じ28万台の部品を流用されたのかも知れません。左側のギヤ受けを留めているビスはオリジナルではなく、全体的に部品を寄せ集めて組まれた個体と思いますね。う~ん、このような個体は女性のところへ行くことが多いように感じます。まず、このガチャガチャ感は有りえないでしょ。相性(製造時期)の異なる組み合わせでは、良い状態に出来るかはやってみなければ分かりません。メカの苦手な女性だと、こんなものと思ってしまうのかなぁ? これ、どこで買ったの?

Dscf248328

要するにでっち上げられた個体だなぁ。分解して状況を確認していきます。画像左の板止爪を留めている+ビスはオリジナルではありません。バネも作ったものでしょう。ピンセット先の地板に半田を盛ったところがありますね。これは、巻上げレバーが強く当っていたため、金属疲労によりクラックの入っている個体は多いですが、それを補強したものでしょう。

Dscf248555 裏蓋のカギ板の作動が重く、ラッチの飛び越しを起こしていますね。すでにそれを修正するためにシボ革を剥離してカギ板を曲げた形跡がありますが、ペンチのキズを付けただけで治っていません。そもそも、この汚れをきれいにしなければ調整以前の問題でしょう。

Dscf248644 取りあえずシャッターユニットを洗浄してあります。このスローガバナーは初期のもので、すぐに設計変更をされています。ピンセット先の形状が異なります。とても28万台ではありません。そもそも、シャッターバネも分解を受けていますが、テンション調整が不良で、スローカバナーを押し切らず、止まってしまいます。まさか、これで撮影していませんでしたよね? シャッター幕を見てください。初期の製造個体にだけ使用されたエッチングの肉抜きのないタイプですよ。

Dscf248711 で、ブレーキを分解してみると・・あらら、ピンセット先がブレーキのOリングホルダーですが、Oリングは影も形もありませんよ。ブレーキ無しのカメラかぁ。Oリングのゴムが古くなって硬化すると固着して作動に不具合が出ますが、それを回避するためにOリングを抜いてしまったということです。組立もすべて緩んでいまました。

Dscf248954 

錆びていたOリングホルダーを研磨清掃してから、新しいOリングをセットして組立てます。

Dscf249088 何とか、この状態まで組み上げています。シャッターユニットは調整をしてありますので、スローも正確に作動しています。

ゴールデンウィークにお使いなる予定のご様子ですが、この個体は自然故障機ではないですから仕上げるのは大変なんですね。カメラを選ぶ時にはもう少し良く確認をしましょうね。と言っても無理でしょうかね。女性のカメラですから治してあげますけど・・

Dscf2491661 今日は外出していましたので1枚だけUPします。では、前板ですが、#115000付近の個体ですから、リターンミラーは前端2ヶ所にミラーの脱落防止ビスがあるわけですが、この個体はビスが無い以後のものが付いていますね。取付けのビスを確認するとネジロックが緩められていますね。と言うことは交換されたということです。するとピントも変わってくるのですがね。このビスはネジロックを塗布しておきませんと必ず緩みますが、案の定、片方がプラプラです。リターンミラーを駆動させるユニットですが、油汚れが無く、不自然にきれいでしたが、こちらもネジロックが緩められた形跡があるので信用できないなぁ、と分解です。↑のビスは裏から緩み止めのポンチ加工がされていますが、それでも分解されたようで、途中まで抜けています。締め込んでポンチをしておきます。隣に見えるバネですが、先端が故意に曲げられてリベットに巻きつくようになっていますね。???このバネは何のためにあるのか分かっているのかしら? このような個体は信用が出来ませんので、細かなところまで分解して確認する必要があります。

Dscf249269

なんだかんだ組みました。全反射ミラーは交換しています。リード線は交換でターミナルも酸化皮膜を落として半田付けをしてあります。シャッターダイヤルですが、組立の留めビスを締め込むと回転が重くなる。カムシャフトとダイヤルを繋ぐジョイントが圧迫されてあがきが無くなっているためです。工場で組まれたままの構成であればあり得ない。シャッターダイヤルを体裁のきれいなものに交換されている可能性が高いですね。

Dscf249325 組み上がって改めて眺めてみると・・きれいですねぇ。外観がきれいになるように「作った」個体ですから当然ですが、これでは女性は買っちゃうでしょうね。調子よく組んでありますから大丈夫ですよ。あとは一緒に来ているレンズのメンテナンスをして終わりです。この38mmは2.8ですね。セットもののレンズだと思いますが意外に珍しいですね。もう一つは普通の38mmですが、どちらもちゃんとF用を選択されています。FT用でも構いませんけど、拘りでしょうかね。ゴールデンウィークに活躍してくれることを願います。

http://tomycamera.blog.ocn.ne.jp/blog/

http://www6.ocn.ne.jp/~tomys800/


地震落下のPEN-FT(B)2台

2011年04月03日 16時35分00秒 | インポート

Dscf243184 都内にお住まいのご常連さんですが、2台のPEN-FT(B)が来ています。最初の個体は、先日の地震によって棚から落下の災難にあったようです。それによって巻上げレバーが固着して回転しませんね。分解してみると樹脂製のベアリングホルダーが割れていました。他のユニットに交換した方が簡単ですけど、レバーがブラックですからすべて組み直してあります。幸い、その他プリズムなどに落下の損傷はありませんので通常のオーバーホールをして行きます。

Dscf2432591 汚れの多い個体でしたが接眼プリズムのコーティングが劣化していた以外は特に問題はありません。とは言ってもハーフミラーは劣化交換。露出計の感度低下を調整してあります。完成後はご覧のようにきれいで、勿論、巻上げも快調・スムーズとなっています。

Dscf2434321 2台目です。こちらの方が荒れている印象ですね。過去に修理歴ありでフレネルレンズは改造で、両面テープ貼りのシボ革が大きく剥離をしています。両面テープは耐久性は5年程度で、時間の経過でビニール素材が縮んでしまうのですね。このままでは再使用は厳しいところです。

Dscf243555 よくよく観察すると、シボ革の上下の隙間を目立たなくするため、黒いテープが貼られています。

Dscf243677 シボ革を剥離してみるとね。変質して軟化した両面テープの糊がすごいことになっています。ちょうど、100円ショップに売っているネズミ捕りの粘着シートと同じです。これは困ったことになったぞ。このような状態になった場合は、溶剤でも除去が難しく、この後、1時間ほどの工数が掛かりました。すでに縮んでいるので、再使用が出来るか不明ですが、取りあえずシボ革裏の糊も落としておきます。

Dscf243844 分解とそれぞれの部品の洗浄前のモルトカスなどを除去して部品の状態をチェックしますが、ファインダーの本体に疑問があります。この画像から読めることは、この部品は製造初期から22万台付近までの個体に使われた部品で、しかも、後年に基板別体タイプの露出計ユニットへの交換を受けて、この部分に基板を取り付けられた履歴があるということです。本体や他の部品の整合性は良いと思いますので、この部品だけなぜ古い部品と交換されなければならなかったのでしょう? この個体のCdsはリプロ品と交換されています。

Dscf244059 巻上げ関係、シャッターユニットを全て洗浄して組み上げています。特に問題となる部分はありませんでした。

Dscf243935 前板関係。リターンミラーユニットを洗浄注油で組んでいます。フレネルレンズはオーナーさんのご希望により、純正品に戻しています。ピンセットでつまんでいる遮光クロスですけどね。分解された経過のある個体では、押さえバネの外側になっているものが多いのですが、正規は画像のようにバネの内側でフレネルレンズとの間で押えるのが正しいです。この個体も外側になっていましたが、これでは遮光の意味がありません。

Dscf245767 メカは調子よく仕上がっています。問題は字シボ革ですね。ご覧のように、終戦直後の子供のようにツンツル天の洋服を着ているようです。じつは、シボ革には材質の違いで二種類あるのです。

Dscf245555 左は殆どの個体に使われていた材質。右はこの個体に付いていたもので、後期の個体に使われています。寸法を計測すると、左のシボ革に対して上下左右で1mm以上縮んでいることが分かります。左の材質もすでに縮みはありますので、実際にはそれ以上の縮みなのでしょう。画像では良く分かりませんが、右のシボ革の方が、材質が硬い感じで手触りも滑りやすいものです。正確な材質は不明ですが、PP(ポリプロピレン)に似た印象です。時間の経過と縮みで新品時よりもより硬化しているのでしょう。この材質は35DCなどに使われているものと同一で、そうだとすると、従来の接着ではなくて、両面テープ貼りがオリジナルのはずです。それが劣化したために、別の両面テープで補修貼りされたものかも知れません。交換用の純正良品も在庫していますが、今回はそのまま再使用することにします。

Dscf245864 この三日月形のプレートはレンズサイドカバーと言って、要するにミラーボックス内左側のプリズムのボロかくしです。プリズムの分離時には剥離をしなければなりませんが、不用意にはがすと、この個体の右のように上部の凸が千切れてしまいます。これは良く見ますね。体裁だけで、特に性能には影響しないので、このまま再使用します。

Dscf246044 なんだかんだ有りましたが、2台とも調子よく仕上がっています。地震の影響による故障がこの程度で良かったですけど、不謹慎ではありますが、被災地にもPENは生き残っていただろうになぁ、とか思います。

Dscf244525 で、息子用のセイコーマーベルです。組み上げた機械は非常に優秀で、今だ未調整ですが平置きですが、日差1-2秒です。初期型の程度の良い小径ケースを研磨したものに文字盤や巻き芯、リューズ、それに研磨した風防を新品で組み上げました。小ぶりで思惑通りですが、文字盤と風防が新品のため、見慣れているアンティークの黄ばみ感が出ませんね。まぁ、何十年かすれば良い感じになるでしょう。その時は私はいませんが。バンドはイタリー製ですが、今回は薄手の型押しカーフを選択しました。当時のバンドは馬皮などが純正採用されており、薄くチープなものですので、あまり高級感のあるバンドは似合わないと計算しました。また、最近流行のDバックルも初採用です。尾錠の針を装着ごとに穴に通さなくても良いため、バンドの耐久性が上がるとの事ですが、さてどうですかね。

Dscf244821 装着するとこのような感じ。Dバックルには形式に二種類ありますが、今回は腕の細い人に合う観音開き式のポリッシュタイプを選択しています。時計のコストよりバンドの方が高いんですよ。とほほ・・

Dscf244961 中々良い雰囲気でしょ。文字盤は「S」マーク付き、アップライドインデックス(アラビア数字)は大変人気のある貴重なアイテムです。針は金針を選択したことで、薄く小径でシンプルなのに洒落っ気がある計算どおりの仕上がりとなりました。マーベルは後期には19石、21石も発売されますが、初期型の小型ケースを使う関係で、機械も17石としで整合性を取っています。風防のドーム型も違和感はないでしょ。今後の風防調達に目途がつきました。この時計は1957年(昭和32年)4月製で、戦後の復興から、やっと時計の先進国スイスの時計に追いついたという非常に優秀な量産時計です。あの頃の勢いが現在の日本に必要なのではないでしょうか。

http://www6.ocn.ne.jp/~tomys800/


かなりばっちいPEN-W

2011年04月01日 23時54分41秒 | インポート

Dscf242164 すみません。PEN-Wの画像を最後まで記録していなかったので私物の時計なんぞを数枚。息子用の時計(セイコーマーベル)を作ろうと部品を集めていましたが、ほぼ目途がついたので組んでいます。機械は、水が浸入してジャンクになった物などのニコイチで組みました。マーベルは製造時期によって数種類の機械が存在しますが、幸い部品の流用は可能でした。息子は私と同じで腕が細いため、直径の大きい時計はしっくり来ないので、マーベルでも初期のケース外形32.8mmのものを使います。同じマーベルでも後期に向かって少しずつケースは大きくなる傾向があります。文字盤や巻き芯も新品で入手していましたが、最後まで調達が出来ないのが風防です。ケースも小さいタイプですから、当然、それにセットする風防も小さい(直径30.06mm)のです。31mm以上であればなんとかなるんですけどね。

Dscf242457 この頃の風防はトキライトとか言うプラスチック製のドーム型をした非防水用のものですが、やっと入手をした風防は、もう少し時代が後用のもので外周の部分が角ばっているんですね。右が純正(割れています)の風防ですが、この時代の時計は丸みのあるドーム風防でなくては似合わない。仕方がないので、簡易的なチャックを製作して外周を研磨して製作してみました。それが左のもの。内側の形状が違うのであまり削るわけにも行きませんので、この辺で妥協しておきました。まぁ、何とか使えるでしょう。

Dscf241457 では、PEN-W #1050XXです。PEN-Wはジャンクにはならないのですけど、オーナーさんにきれいに手入れをされている個体と、使われっぱなしでばっちい個体の二つに分かれます。この個体は後のタイプ。例によってきれいに写っていますが、吊環部へこみやシボ革の溝に手垢がゴッテリ詰まっています。撮影中におしっこしてそのままの手で使ったんですよ。カメラに対するお考えもあろうかと思いますが、なるべくきれいにしたいものです。

Dscf241511 レンズにお決まりのバルサム黄辺と周辺剥離がありますけど、清掃で曇りがきれいになりましたので意外に良い状態になりましたよ。シャッターは未分解でしょうね。それではまともに動きませんが、こちらも意外に消耗は進んでいませんね。使用過多になるとピンセットの部品のメッキ端面が磨耗をして下地の銅メッキが出てきます。そうなると磨耗が早く進むようになります。定期的なメンテナンスで磨耗防止の潤滑をしておくことが肝要です。

Dscf241765 完成したシャッターユニットを洗浄した(茶色い汚れが出ました)本体に組み込みます。分解前には1回ごとに巻上げのミスをしていましたので調整をしておきます。ファインダーもこれでもかという感じて汚れていましたね。これで見えたのかなぁ? 多分、現オーナーさんは入手されてすぐにオーバーホールを出されたのだと思いますけど、作業前と後では全く別物の操作感になりますよ。ギシガチャ動くのがオリジナルだと思って頂きたくはありません。その他、吊環部のへこみを修正して完成しています。調子は良好ですでにお帰りになりました。