PEN-F系が続きますがご依頼順なので・・設計者の米谷さんのご著書「オリンパス・ペンの挑戦」によると、PEN-FTの生産開始は1966年10月となっていますが、この個体#1119XXは1966年11月の製造です。まだ、生産が軌道に乗らずに色々な不具合が発生していた頃ですね。何も好んで最初期型を入手しなくても、という考え方もありますが、歴史的には貴重な個体になります。幸い、各部の劣化は進んでいますが致命的な部分は無いように思います。
裏蓋を開けると汚れてはいますが、フィルムレールの腐食は少ないです。裏蓋のフィルム抑え無し、スプロケット上側にワッシャー無し、巻き戻しノブ(ローレット)カバー類の取り付けはまだスリ割りのマイナスネジになっています。少しすると、巻き戻し部分と底蓋は+ネジになりますが、何故か見えない巻き上げレバー裏は画像と同じスリ割ネジの仕様が続きます。スリ割ネジは大量生産には不向きなネジなのです。
外観は比較的きれいに保存されていましたが、古い生産分ですとリターンミラーなどに腐食が出ているものが増えていきます。
付属の標準レンズはこの個体のセットものではなく、少し後の製品でしょう。後玉絞り羽根側に曇りがあります。
奇跡的にこの個体は未分解機ですね。最初期の露出メーターの調整抵抗は単固定抵抗が使われています。但し、パターン部分の腐食が激しいので、調整をずらすと導通不良になってしまいますね。
電池はしばらく入れたままでしたね。リード線は腐食して、これからピンセットで触れれば断線してしまいます。
結局、初期型とその後の生産機との差異になってしまいますが、シャッターダイヤルと露出メーターを連動するウォームギヤですが、画像のように、ある条件の時に赤ペイントが水平になります。これは調整をしたギヤ角度をシャッターダイヤル取付時に合わせるようにしたものでしょう。しかし、以後の生産では、このペイントは無くなります。別の調整方法に変更されたのでしょう。
接眼プリズムがFの真鍮からアルミに変わって、以後、また真鍮に戻ります。遮光用のテープの貼り方が心細いというか慣れていませんね。Fでは専用にプレス抜きされたモルトが使われています。
すべて洗浄をしてから組み立てていきます。スプール軸のベアリング部ですが、以後のユニットに比べてスラスト方向のガタが大きいです。ラジアル方向にはガタはありませんので問題はありませんが、この辺りにも組立規格の差があるようです。
巻上げレバーユニット。右が初期型、左は前中期以降のユニット。駒数ギヤの留めネジが雄雌に変更されています。確かに初期のスリ割ナットよりはスリ割ネジの方が理に敵って作業性も良いと思います。地板の形状も変更して、駒数板のリターンスプリング掛かりも簡略化しています。初期型に駒数板の戻り不良が多いのは、単に古いだけではなく、軸が真鍮製のため腐食による回転不良があるのかもしれません。
露出メーターの感度低下は激しいですが、作動状態だけでも希少なので、回路は新製して動かすことにします。
PEN-FTの欠点、巻上げのゴリ付ですが、原因はシャッターユニットも当然ありますが、ミラーユニットが原因の場合も多いのです。特に、初期型で消耗したユニットは作動は正常でも、重くゴリ付が改善出来ないものが多いのです。
本体側と前板側を完成させてドッキングします。
で、ついものお約束の画像になります。
38mmの曇りを清掃して完成です。ハーフミラーは左がこの個体の初期型に使われているタイプ。右側はそれ以後に使われているタイプになります。因みに、TTL窓の見え方は初期型が圧倒的によろしい。それ以後は、TTL窓の回りが赤くボケてだらしなく見えるはずです。しかし、初期のものは、経時的に赤印刷のインクの退色とカビ汚れなどできれいに見える個体は少ないのですが、この個体は退色が進んでいません。暗所に保管されていたのでしょう。このカメラはオーナーさんの祖父様の形見だそうで、なるほど他人の手を転々と渡って来た個体のような荒れたところがありません。大切にされてください。
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