一年でどの月が好きか。アンケートをすれば、五月は上位に入るそうだ。新緑のすがすがしさや過ごしやすい気候が五月の人気の理由か▼人気の五月なれど、どうも今年はすっきりせず、肌寒い日が続く。そんな中で迎えた憲法記念日である。こんな句がある。<憲法記念日天気あやしくなりにけり>大庭雄三。あやしいのは天気ばかりではないか。気になるのは憲法改正をめぐる動きである▼ロシアによるウクライナ侵攻が改憲論議のテコになっている印象がある。万が一にもわが国が攻撃を受けた場合、現行憲法で国民を守り抜くことができるのか−。世界を震え上がらせた悲劇と不安を、そのまま武張った改憲に結び付けようとする動きがあることは否定できまい。敵基地攻撃能力や防衛費の大幅増など憲法のうたう平和主義とは色合いの異なる議論も進んでいる▼イソップにこんな話がある。イノシシが熱心に自分の牙を研いでいた。猟師の姿は見えぬ。危険もない。キツネがなぜ牙を研いでいるのか尋ねるとイノシシはこう答えた。「理由がある。危険に襲われた時には研いでいる暇がない」▼なるほど、万が一には備えたい。けれども牙を研ぐイノシシを見れば敵もまた身構え、敵意を一層燃やしはしまいか▼改憲の動きや専守防衛の範(のり)を超えかねない今の議論は何を招くだろう。怖がりな性分はそちらの方が心配になる。