朝日新聞より
<とんとん とんからりと 隣組>で始まる『隣組』は戦時のヒット曲だ。戦時下の国民統制の一端を担った組織を歌っていると、知ってはいても、聞けばメロディーや歌声にある愛嬌(あいきょう)が楽しく、なぜか懐かしくもある▼<格子を開ければ 顔なじみ まわしてちょうだい回覧板 知らせられたり 知らせたり>と歌は続く。いまの世の中に求められている「相互扶助」があって、詞も心地よく響く▼身近な知らせをのせて家から家へ。情報技術に強くない人にもやさしい。力を発揮する時にも思えるのが、歌にえがかれた回覧板である。だが、新型コロナウイルスはここでもやっかいさをみせている。対面での受け取りやウイルスを不安視する人が相次いで、回覧を取りやめた地域が、各地にあるという▼どこまでも難敵ぶりをみせるコロナウイルスは、近ごろ、隣組が戦中に発揮した「相互監視」という負の側面も、現代の世の中に呼び起こしているようだ。「自粛警察」である▼他県などのナンバーを付けた車両を傷つけたり、営業している飲食店を見つけ出しては張り紙で中傷したり。監視し、見つけ出しては、攻撃する行為が報告されている。正義を行っていると思い込みにとらわれた人々が、過去にもみせてきた怖さであろう▼相互扶助が必要な世の中にまかれた混乱の種だ。世の中の分断を自ら招いてはならないだろう。