古代中国、戦国時代の話を集めた『戦国策』にいう。<憂を同じうする者は相親しむ>。同じ憂いは友好につながると▼人類共通の憂いといえば、新型コロナウイルスの脅威をおいてほかにないだろう。同じ憂いがもたらす親善や友好を国際社会に探してみるが、目立つのは逆の例か。中国は、世界保健機関(WHO)の総会への台湾のオブザーバー参加に、強い反対姿勢をみせている▼コロナ対策で成果を示した台湾とは感染症の話であれば、手を組めるように思えるが、憂いが違うか。溝が深まっているようでもある▼<憂を同じうする者は…>の前段には、<欲を同じうする者は相憎み>とある。「自国の利益」という欲が同じにも思える米中首脳に、あてはまりそうではないか。こちらの対立も激しさを増している。中国の感染拡大の責任をあげるトランプ米大統領は断交までほのめかしたそうだ。うなずける言い分もなくはないが、国内の景気悪化の不満を外に向けている側面もありそうである▼感染に見舞われている米国の先住民をアイルランドの人々がしきりに寄付で支援していると、少し前のニュースで知った。十九世紀の大飢饉(ききん)の際に寄付を受けていた。そのお返しだそうだ。国と国ではないけれど、時代を超え憂いをともにしたか▼「災い転じて福」の話も『戦国策』にある。福に転じるコロナ禍もあるはずだ。