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今日の筆洗

2020年05月29日 | Weblog
 「すべては五分五分」が作家の池波正太郎さんの人生観であったという。召集され、海軍に行っている。生きて帰れる確率は、よくて五分五分と覚悟を決めていた。戦後、文学賞に何度も落選して挫折しなかったのは、すべては五分五分と意識していたからと随筆に記している▼残された生を意識することが身内に優しく接することにも、つながった。そんな趣旨のことも書いている。死を強く意識し、死線をくぐり抜けてきた経験は、残りの生の意味、使命の意識を、見つめ直す契機になることは、あるだろう▼何割なのかは知らないが、生存は絶望の域にもあったと報じられている。京都アニメーションの放火殺人事件から約十カ月が過ぎて逮捕された青葉真司容疑者である。ニュースの写真や映像からは、負ったやけどの重さ、生死の境を越えてきたということが感じられた▼治療した医療関係者の尽力は、たいへんなものであったようだ。「生かすことが被害者や遺族のためになる」という医師の言葉が報じられている▼その声が青葉容疑者に少しでも響いていることを望みたい。死線から救われたことの意味を考えるなら、遺族に向き合ってほしい。なぜこのような犯行に及んだのかなどをすべて語らなければならない▼もはや取り戻せないものばかりであるが、使命を感じるとすれば、それをおいてほかにはないだろう。