朝日新聞より
廃虚となった都会をクマが歩き回り、ライオンが建物の上からほえている。二十数年前にヒットした映画『12モンキーズ』は、死の感染症を生き延びたわずかな人類が地下に逃れて生きる近未来をえがき出す。<再び動物の支配する惑星>となった地球の姿である▼新型コロナウイルスは、地球規模で人間の活動を縮ませ、人々を地下ならぬ家にとどめた。ひとけが少なくなった世界には、近ごろ動物たちが現れているという。それぞれの小さな世界でかつては主人だった動物の帰還のようで、映画の場面を思い出した▼泳ぎまわるイルカの群れが見られたのは、船の行き来が減ったトルコの都市部の港湾という。観光客が激減したタイの海ではジュゴンの大群が確認された▼湿地に記録的な数のフラミンゴが飛来し、人影が薄い都市の住宅地をイノシシやキツネなどが歩き回る。そんな光景も各国から伝えられる▼野生動物が支配していた世界に進出し、開発を重ねてきた人類である。その活動の拡大が、野生動物に由来する病原体への感染の恐れを大きくした。ウイルス禍にはそんな背景があるという説明を見聞きするが、つかの間の動物たちの帰還の光景を重ね合わせて納得する▼心なしか、近所のハトやカラスも、人や車を怖がらないようだ。支配者である人類が力を取り戻すであろう近未来も、忘れたくない光景に思える。