大槻雅章税理士事務所

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№87 所得税:財産債務調書の提出制度

2016-04-06 | ブログ
2016.02.29 財産債務調書の提出制度

従来、所得税の確定申告書を提出する人は、その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2千万円を超える場合には、「財産及び債務の明細書」を提出する必要がありました。

平成27年の税制改正により、平成27年分の所得税の確定申告から、「財産及び債務の明細書」に代えて「財産債務調書」を提出することになりましたので、今回はこの制度の概略を解説します。

財産債務調書制度とは、

(1)所得税の確定申告書を提出しなければならない人が、

(2)その年の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2千万円を超え、

(3)かつ、その年の12 月31 日において価額の合計額が3億円以上の財産又は価額の合計額が1億円以上である国外転出特例対象財産(注)を有する場合に、

(4)財産の種類、数量、価額並びに債務の金額などを記載した「財産債務調書」を、

(5)翌年の3月15 日までに所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

という制度です(国外送金等調書法6の2①本文)。

(注)
国外転出特例対象財産とは、国外転出時課税制度(所得税法60 の2、60 の3)の対象となる次の財産をいいます(国内に所在するか国外に所在するかを問いません。)(国外送金等調書法6の2①本文、所得税法60 の2①~③)。

① 所得税法第2条第1項第17 号に規定する有価証券又は所得税法第174 条第9号に規定する匿名組合契約の出資の持分

② 決済していない金融商品取引法(昭和23 年法律第25 号)第156 条の24 第1項に規定する信用取引又は所得税法施行規則第23 条の4に規定する発行日取引に係る権利

③ 決済していない金融商品取引法第2条第20 項に規定するデリバティブ取引に係る権利

この改正により、従来からあった要件(1)(2)に加えて(3)を追加したことによって提出対象者の範囲が絞られたことになります。また、(注)のように国外転出特例対象財産とはほぼ有価証券を指しますので、

条文を簡単に読み替えると「財産債務調書」は、「所得税の確定申告書の提出義務者」で「その年分の合計所得金額が2千万円を超え」かつ「その年12月31日に財産3億円以上又は有価証券1億円以上」を有する人が対象者となります。

そして、従来は未提出者に罰則はありませんでしたが、今回は次のような規定が明文化されました。

(1)財産債務調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された財産債務調書に記載すべき財産又は債務の記載がない場合(重要なものの記載が不十分 と認められる場合を含みます。)に、その財産又は債務に関して所得税の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます。)が生じたときは、過少申告加算税等が 5%加重されます(国外送金等調書法6①②)。

(2)財産債務調書を提出期限内に提出した場合には、財産債務調書に記載がある財産又は債務に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても、過少申告加算税等が5%軽減されます(同法6の3①②)。


次に、財産債務調書に記載する財産の価額は、その年の12 月31 日における「時価」又は時価に準ずるものとして「見積価額」によることとされています(国外送金等調書法6の2③、国外送金等調書令12 の2②、国外送金等調書規則12⑤、15④)。

「見積価額」によることを認めるのは、「時価」の算定が困難な場合も考えられることから、財産債務調書を提出する者の事務負担等を軽減するためです。


では、土地や建物の価額はどのように記載するのでしょうか?
具体的には、次のいずれかの価額を記載することになります。

①その年中に課された固定資産税の計算の基となる固定資産税評価額。

②取得価額を基にその取得後における価額の変動を合理的な方法によって見積もって算出した価額。

③その年の翌年1 月1 日から財産債務調書の提出期限までにその財産を譲渡した場合における譲渡価額。

④建物が業務の用に供する財産以外のものである場合には、その財産の取得価額から、その年の12 月31 日における経過年数に応ずる償却費の額を控除した金額(経過年数に1年未満の端数があるときは、その端数は1 年として計算)。

(完)

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